お月様のっぺらぼう〜「オレ」
中秋の名月。昔は7月、8月、9月が秋でしたから、8月が中秋ということです。今日は旧暦の8月15日で満月。
寝る前に寝室の月見窓から眺めると、およそ半世紀ぶりに最接近する木星とともに、のっぺらぼうのお月様がぽっかり浮いていました。
まさにのっぺらぼう。もともと満月は正面から太陽の光を受けますので、クレーターの影が出来にくく、望遠鏡で見たりしても、全く面白くないんですよね。まさにのっぺらぼう。
明日は一日大雨だと言います。窓を開けると、志村くんの歌うように、たしかに「雨の匂い」が流れ込みました。
そうそう、今日不思議なことがありました。家でカミさんと娘たちが月見だんごを作ったんですね。それをウチの神棚である艮の床の間に奉納したところ、なんといつのまにか、ピラミッド状に積んであった一番上のだんごがなくなっていたというのです。
おいおい、いったい誰が食べたんだ?人形か?コノハナサクヤヒメか?…この床の間にはいくつかの神仏が祀ってありますが、だんごをつまみそうなのは…やっぱり志村くんかな(笑)。
昨日、たまたま宮澤賢治と岩手の方言について書きましたね。今日は志村正彦くんと山梨の方言について、ちょっとしたネタを書こうと思います。
フジファブリックの名曲の一つ「お月様のっぺらぼう」。その中でも、印象的なであるフレーズ「俺」。全体で6回でてきますよね。これって、メロディー的に言いますと、「ラソ」という音が当てられています。高低アクセントとしては「高低」ということになりますね。
ご存知のとおり、標準アクセント(つまりNHKのアナウンサーが話す人工アクセント)では、「おれ」は「低高」というアクセントになります。
ただ、「おれ」から派生した「おら」についても、「高低」「低高」両方のアクセントが認められるように(ちなみに秋田県民は「低高」だそうです)、「おれ」も地方によっては「高低」と発音されることもあります。
実を言うと、ここ富士北麓地域でも古くは「高低」というアクセントで発音されていました。「ラソ」ですね。若者の中でも父親等の影響がテレビなどの影響よりも強いと、「高低」と発音する人がいます。
10年くらい前までは、生徒の半数は「高低」と発音していたのではないでしょうか。私は外から来た人間であり、標準アクセント完璧な人工人間(?)なので、当初非常に興味深く思いました。
山梨は基本的に東京式アクセントなので、逆に微妙な違いが気になるんですよね。関西弁や東北弁のようにあまりに違うと気にならないんですけどね。
そういう山梨の方言アクセントの例はいくらでも挙げられますが、今日はやめておきます。ま、そのうちの一つがこの「俺」だということです。「俺」が「Ole!」や「café au lait」の「オレ」の部分のようなアクセントになるのです。
この曲を聴いた時、「ああ、志村くんもオレ(高低)と発音していたんだな」と思いました。だから、こういうメロディーを作ったのではないかと。
実は私は大学でアクセント史を研究しまして、卒論も「江戸の箏曲の旋律から当時のアクセントを復元する」という、まあどうでもいいオタクっぽいことをテーマとしました。そんなこともあって、日本の歌を聴く時には、どうしてもそういう観点(聴点)で聴いてしまうんですよねえ。
ある意味、日本の音楽は日本語の高低アクセントと開音節構造に縛られてきました。メロディーとリズム(符割り)の可能性が限定されてきたのです。基本志村くんの作曲もその伝統に縛られているように感じます。
ちなみにそれを崩したのは、松任谷由実と桑田佳祐です。ユーミンは高低アクセントを無視したメロディーを作ることによって、日本の歌の可能性をほぼ無限大に増やしました。そして、桑田さんは一つの音符の上にいくつかの音節を乗せてしまうという荒技で、日本のポップスを洋楽、すなわち英語圏のポップスと同等に扱ってしまったのです。その両者の新しい伝統は、ミスチルなどによってより洗練、一般化されました。
もちろん、前世代の人々にとっては、「言葉が聞き取りにくい」、「最近の曲は歌いにくい」とか、そういう評価になるわけでして、そういう意味では、彼らが日本の歌を破壊したとも言えなくもありません。
ちゃんと分析したわけではありませんが、志村くんの作る歌は、比較的伝統的な「日本の歌」の作曲法になっていると感じます。それが、彼の曲に我々がノスタルジーを感じる理由の一つかもしれません。
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コメント
先生こんにちは(^-^*)/
ひどい雨でしたがそちらはいかがでしたか?
「俺」のイントネーション、おおおっ!と納得。(昨日の文化と文明にも多いに納得!)
富士山西麓の我が家。
息子たちは三人とも「高低」の「俺」です!
私達が幼い頃と変わらないので、ある意味遅れているのか…(でも7歳次男は〜じゃね?なんてイマドキの言葉を発する為 母から攻撃されること多数)
以前 みうらうどんさんで相席になった志村くんと同い年くらいの地元の男性二人が こちらの方言のように「にゃーにゃー」言っていたので、そうか、志村くんもこういう方言使ってたかも…とハッとしました。志村くんの方言聞いてみたかったな〜(v_v)
投稿: さお | 2010.09.23 13:30
さおさん、なるほど、富士西麓でも「高低」ですか!
分布を調べると面白いかもしれませんね。
だいたい、頭高のアクセントの方が古いものだと言われています。
「おれ」という言葉は奈良時代以前から使われている古い言葉なんですよね。
「高低」を使う息子さんたちは当時のアクセントを伝承しているのかも!?
投稿: 蘊恥庵庵主 | 2010.09.23 18:52
お月様のっぺらぼう
フジファブリックの曲の中でも,志村さん独特の味わいが出た名曲だとおもってます!
♪眠気覚ましにのど飴一つ
なんて歌詞を書けるのも彼しかいない。笑.
最後のサビの金澤さんのキ-ボ-ドもこれまた素敵です。
“おれ”のとこ,後で注意して改めて聴いてみます♪
投稿: なじゅ | 2010.09.24 01:06
初めまして!
毎回密かに拝見しております。
私自身は岩手出身で今は湘南の西部に住んでいますが…この辺りの人達も「高低」のオレですよ。
友人は千葉出身でやはり「高低」のオレです。
一体何処まで広がってるのか知りたくなりました!
投稿: キタ | 2010.09.24 18:06
先生またまたすみません!
ちょっと発見!というか思い出したことが。
ワタシ実家が目と鼻の先なんですが、隣のおうちのおばあちゃん(ワタシが小学校当時90歳超えていた)は、自分のこと「俺」といってましたが、この辺の発音「高低」ではなく「低高」だったんです。
子供たちの大好きな(ワタシはあんまり・・・)志村けんさんのおばあさんネタも「低高」ですよね?!
ちなみにうちのダンナもバリバリ西麓育ちですが「高低」と「低高」を使い分けています。聴いていると以外にも「低高」の方が多い???
次男、三男は完璧「高低」です。長男は「僕」派でした。
10日演奏会行きたかったです~!(区民体育祭でしかも役員なんです・・・朝霧JAMもありますね。)
こちらで開催される時は是非お知らせくださいね(◎´∀`)ノ
投稿: さお | 2010.09.25 00:07
庵主様、はじめまして。
志村君つながりでこのブログを知り、以後ちょこちょこと、いや、ほぼ毎日拝読しております(笑)
うちは鎌倉の下町、大船というところなんですが、この辺の小学生男子は大抵「オレ(高低)」です。
大人になると標準的な「オレ(低高)」になる人が多いようなのですが、少年は小学校に上がると同時になぜかみんな「オレ(高低)」を使うようになります。地元出身でないお母さんは少なからずショックを受けるようですよ(笑)
いずれにしても、「お月様 のっぺらぼう」の歌詞を妙にしっくりと聴けていた理由(?)が分かって、何だかうれしかったです。
それから「生徒たちを囃して輝かせたい」なんておっしゃる先生は素敵すぎます。吉田に移住してでも、うちの超マイペース娘(小5)を先生の中学に入学させたいくらいです!!
投稿: すしさしみ | 2010.09.26 12:31
おっと皆さま、たくさんの情報をありがとうございます。
こりゃ、「高低オレ」の分布を徹底的に調査したくなりますね!
立派な論文が書けるでしょう。
ちなみに古語での「おれ」は相手を指す蔑称でした。
おそらく古いアクセントは「高低」です。
「僕」は標準語でもアクセントが揺れていますね。
本来「高低」であったものが、「低高」になりつつあります。
だいたいアクセントの歴史は「平板化」の方向に行くんですよ。
「ギター」とか「ベース」とか、「ラルク」とか「B'z」とかも(笑)。
投稿: 蘊恥庵庵主 | 2010.09.27 06:54
先生今晩は!
ミキです
今『お月様のっぺらぼう』を聴いてます。もちろん!『おれ』に注目しながら笑
明日からいよいよ二泊三日で富士吉田にお邪魔します!
天気がなんだか悪そうですが…(*_*)
楽しみにして行きます!
投稿: ミキ | 2010.09.29 21:41
ミキさん、こんにちは。
あれ?今いらしてるのかな?
お会いできるかもしれませんね。
吉田はどんより、雨も降っていますが、これこそ吉田という感じの暗さ、寒さですよ(笑)。
ぜひご堪能ください。
投稿: 蘊恥庵庵主 | 2010.09.30 15:05
先生お疲れ様です!
今は富士吉田近くのホテルに着きました(^O^)
とても寒くてびっくり!
都内を抜けてきたので温度差を感じます☆
今日は河口湖にいたので、明日は富士吉田市内をぐるりと探索したいと思います
もちろん、月江寺付近もうろうろしたいなあー
はい☆
先生ともしお時間が合ったら(^_^)
お会いしたいですねー
ではではまたコメント書きます!
投稿: ミキ | 2010.09.30 17:25
ミキさん、おはようございます。
ようこそ富士北麓へ。
今日はいい天気になりそうですね。
月江寺の池のあたりにいらしたら中学の方ものぞいてみてください。
投稿: 蘊恥庵庵主 | 2010.10.01 07:09