« 太宰治短編小説集「カチカチ山」 (NHK BS2) | トップページ | 追憶のシャコンヌ »

2010.09.29

太宰治短編小説集「グッド・バイ」 (NHK BS2)

20100911_goodbye ずは、いやずっと福井利佐さんの切り絵に驚嘆。いやあ、すごいと思ってましたけど、ホントすごいですね(笑)。
 特に今回は「動画」としての「切り絵」でしたから。デジタルなCGとアナログな切り絵の見事な融合。ついつい今回は太宰の言葉よりも映像に気を取られてしまった。ざまあみろ、イケメン(笑)。
 切り絵ってもともとグラフィカルというか、いやそれは当たり前か、つまり、いろんな意味で抽象的にならざるをえないじゃないですか。ある種のルールや縛りが多い分だけ、自由がなくて、だけれども逆に「自由」になったりする。それを、なんでもできる(つまり実は不自由な)CGで活かすわけですから、とっても面白い結果が出ていたと思います。
 切り絵と言葉って似てるな、言葉って切り絵に近いなって思ったんです。結局言葉で表現されている部分というのは、切り絵で言えば紙の残った黒い部分であって、実はそれが存在しない空間、すなわち言葉で言えば(抽象的な意味での)「行間」みたいな部分との共同作業で初めて全体に意味ができるわけですよね。それに、言葉どうしは常につながっていなければならない。そういう縛りも切り絵に近いと思ったのです。
 そんな言語チックな切り絵が、ああやってCGで浮かび上がらされるというのは、実はCG側にとってとても面白い事実だと思うのです。
 私はCGには言語がないと思っています。なんでもできるというのは、ルールや縛りがなくて、さっき書いたようにとっても不自由な状態だと思うんです。ですから、最近のCGは結局のところ、そういう伝統的なメディアを模すような形をとることが多い。あるいは、こうしてコラボするか。
 それは、CGにはというか、デジタルな世界には言語がないからです。言語的な閉鎖性がないからです。デジタルな世界、デジタルな技術の向かう方向性は常に外向き、開放なのです。それを「自由」と勘違いしたところが出発点となっているんですよね。
 だから、結局CGだけでは何もできないことになってしまう。私はそう思っています。今回のように、太宰の言葉や、切り絵という言葉の協力を得なければ作品たりえないんですよ。CGはそういう意味で、一つの技法ではあるが、それ自体で芸術にはなれない。勝手にそう思っています。
 どの言語でも、単語の数ってある程度のリミットがあります。なんでも、どんな光景でも感情でも表現しようと思えば、もっと単語の数は増えてもおかしくないし、文章ももっともっと緻密に長くなってもおかしくない。しかし、そうはならないのです。無限に可能性が広がっていたら、たぶん天才作家太宰治は生まれなかったでしょうね。
 というわけで、このシリーズの最終回(ですよね?)、やはり「グッド・バイ」でした。
 この「グッド・バイ」という未完作品、なんとも微妙な作品ではあります。もちろん、太宰一流の演出によって、実際に別離の作品となってしまったわけですよね。かっこいいのだか、悪いのだか。
 で、今回すっかり視覚に気圧されていた私の聴覚、あるいは切り絵に押されていた言葉の中で、唯一「チーン」と頭に響いたのは、キヌ子の「おしっこ出たい」というセリフ(by UA)です。
 これは実に名セリフですね。ある意味太宰の最終兵器だったのかもと思わせるほど、私にはインパクトがありました。今までは字面の中での「おしっこ出たい」だったのですが、実際にああして女性の音声として(それもUAか…笑)表現されると、ものすごい破壊力がありますね。
 いつかも書いたような記憶がありますけど、この日本語の文法というか正しい話法を無視した標準的表現「おしっこが出たい」は、返す返すもいろんな意味で最強だと思います。
 「私はおしっこが(を)したい」ではなく、「おしっこが出たい」なんですよ。「おしっこを出たい」とは言えませんから、「が」は主格を表すのかと思うと、「おしっこ出たい」とも言えるので、ということは「本読みたい」などと一緒で目的格を表しているとも読めてしまう。なんとも不思議な日本語です。
 もちろん、そういった言語学的な見地を抜きにしても、やはりここで美女が「ちょっとおトイレに」とか「お手洗いに」とか、その他もろもろ考えられる婉曲表現を使わないで、「おしっこが出たい」と言ったところ(美女に言わせたところ)がすごい。
 これっておそらく太宰の実体験に基づいていますよ。絶対に太宰は、女性からこの言葉を生で聞いてドキッとしたことがあるはずです。娘とかではなくて、もちろん石原美知子さんはそんなこと言わないでしょうから彼女でもなくて、他人の誰かの発言をです。
 おそらくそれが女性の最終兵器の一つだということを知っていて、この遺作で使ったのでしょう。そして、私は確信します。あの二回の「おしっこが出たい」によって、田島はキヌ子にシンから惚れましたね。
 「グッド・バイ」、あの先を読みたかった。
 

|

« 太宰治短編小説集「カチカチ山」 (NHK BS2) | トップページ | 追憶のシャコンヌ »

文学・言語」カテゴリの記事

映画・テレビ」カテゴリの記事

美術」カテゴリの記事

コメント

先生こんにちは(゚▽゚)/
グッド バイ 見ました!
凄い世界観…。圧倒されました。
実は切り絵、ちょっと怖いんですf^_^;幼いとき 「モチモチの木」とか なんか怖くて…。
でもあの切り絵は凄かった!!!
フジファブリックのDVDでもアラカルトやアラモードのジャケットを切り絵のように立体的に表現していますよね。
電気グルーブのモノノケダンスのPVに似ているような…。
UAの声好きなんですよ。
NHK教育で童謡歌ってた時も、何故UAが?って思ったのですが…なんかいいんです。大人向けですね。
グッドバイでも けだるい感じ、ひょうひょうとした感じ、いいなぁって思いました。
名作…
続きがどこからか見つからないかな。
私も実体験だとおもいます!
切り絵の作家さんも あれは太宰意識してますよね〜。
いつも長々とすみません。

投稿: さお | 2010.10.01 14:00

さおさん、こんばんは。
たしかに切り絵はこわいですね。
切り絵の福井さん、静岡の方なんですよ。
すごい方です。

投稿: 蘊恥庵庵主 | 2010.10.04 18:06

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/55913/49602507

この記事へのトラックバック一覧です: 太宰治短編小説集「グッド・バイ」 (NHK BS2):

« 太宰治短編小説集「カチカチ山」 (NHK BS2) | トップページ | 追憶のシャコンヌ »