太宰治短編小説集「カチカチ山」 (NHK BS2)
(↓たぬき)
狸役はグループ魂の港カヲル、すなわち大人計画の皆川猿時さんでした。もちろんこんな格好では出てきません(笑)。しかし、かなりのはまり役でしたね。今なかなかいませんから、ああいう肉食系(笑)。
やっぱりキャストが気になっていたわけですよ。以前こちらで書いたように、私はこの作品には特別の思い入れがありますからね。最も好きな太宰作品と言ってもいい。それをどう映像化するか。自分が映像化するとしたら誰を使うか。
ううむ、港カヲルは永遠の46歳という設定ですが、なんというか、異常に生命力がありそうで、ガハガハしてて、暑苦しくて、しかし傍観者からするとなんとなく憎めない、たしかに狸にピッタリですね。まずここが成功でした。
そして、ウサギは満島ひかりさん。ふむふむ、たしかにカワイイけれど、ちょっと残酷な冷たさ、あるいは狂気をも表現できる女優さんですよね。これもなかなかマッチしていました。結果としてキャスティングは成功と言っていいでしょう。芝居はキャスティングが全てだなあ。
演出的には、この小説を舞台化するという設定でした。これもなかなか面白かった。もちろん、そういった「劇中劇」的な演出というのは過去にもいくらでもありましたけれど、このように、初顔合わせから稽古、そして本番を一列に並べてしまって全体として一編としてしまうという手法は、なかなか斬新に思えました。
当然、その超時的な流れの中から、役者が役になりきっていく過程が表現されていました。そこが狙いでしょう。すなわち、物語が進捗していくのと同時に、港カヲルは狸と同一化していくし、エリーは(分かるかな?w)兎と同一化していく、そして観客たる私たちも「本番」へ向けて彼らとの距離を縮めていくわけです。
(←ウサギ) さらにウサギの殺意もどんどんリアルなものになっていきます。うん、そう、満島さん演じる満島さんの、皆川さん演じる皆川さんへの殺意も実際に感じられるまでになっていくんです。ここは実にうまい演出だなあと思いました。
私たち観る者は、そのどちらかに感情移入していくわけですよ。ちなみにウチでは、男女雄雌逆転していまして、カミさんはタヌキになりきっていました(笑)。まるで自分を見ているようだとも言いました。タヌキがですよ(笑)。ふむ、そうか。結構残酷なウサギ的な人生を歩んできたとばかり思っていましたが、案外そうでもなく、愚鈍で野暮で本能的でKYなタヌキ的な女でもあったのだなと、今さらながら再確認。
で、私はどうかというと、カミさんにも指摘されましたが、タヌキでもウサギでもないんですよね。けっこうずるいんです、私。純粋でもなく、また残酷でもないんですよ、たしかに。
じゃあなんなのかって言ったら、つまり、私は太宰的ポジションなんですよね。だからずるいんです。
だって、あのタヌキ、たしかに37歳という設定で、そこだけ見れば当時の太宰本人のような気がしますけれど、実際には太宰はあんなに魯鈍ではありません。太宰はモテるし、粋だし、もっと狡猾です。案外人と適度な距離を保つテクニックを持っています。ま、私もそんな感じなんですね。あっ、「モテる」だけは違うか(笑)。
あのタヌキって弟子の田中英光がモデルとも言われていますよね。もしそうだとしたら、結果としては太宰はウサギだったとも言えますかね。田中は太宰のことをけっこうストーカー的に敬愛していましたし、最後は自分以外の人間と心中されるという最悪な去られ方をして、禅林寺で後追い自殺しちゃったわけですから。
いずれにせよ、昨日の「駆込み訴え」同様に、太宰のパロディー力、翻案力のすさまじさ(&ずるさ)、人間観察の鋭さ(&気味悪さ!)を感じさせるに充分な作品であることを再確認いたしました。そして、太宰の「女性」性も強く感じましたね。女性的な感性、女性的な視点から世界の本質を見抜くのが得意な男だったようです。
本当に悔しいけれど、太宰は天才です。私、普段はほとんど嫉妬心というのを抱かない人間なのですが、太宰治にだけは異常にジェラシーを感じます。何度も書いているとおり、「文章がイケメンすぎる!」からです。う〜ん、ちくしょう!
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コメント
先生こんにちは!
昨日見ました!
とは言っても タヌキがウサギに薬を塗ってもらってるとこからでした。
いや〜、タヌキのキャスティングは素晴らしかった!
ワタシは完璧ウサギになっていたので
「うう〜気持ち悪い(=_=Ⅲ」と…。
グループ魂は曲は聴いてもメンバーは阿部さん、宮藤さんくらいしか知らず、港さんは名前と出で立ちしか知らなかったです。
あれは港さんだったんですね!
引き込まれました。
あれは太宰の経験がモノを言っている そんな感じがします。
カチカチ山も なーんにも知らずにロープウェイに 5年ぐらい前に乗りました。
それで お皿バンバン投げて…(何て言うんでしたっけ?)
「富岳百景」「畜犬談」「カチカチ山」「服装に就いて」は山梨が舞台になっていることもあり …何て言うんでしょう
志村くんを感じるんですよね〜
これらの作品に限らず、太宰自体に志村くんを感じるのかなぁ…
どことなく漂うフェミニンな感じ…かなぁ
今夜は「グッド・バイ」ですね!
投稿: さお | 2010.09.29 13:39
さおさん、こんにちは。
グッド・バイもなかなか良かったですね!
そう、私も太宰と志村君くんには因縁を感じます。
実は、私昨年12月23日になぜか突然太宰の墓参をし、
妙な感覚に陥っていたのです。
その翌日だったんです、あまりに哀しいイヴ。
このブログでも紹介した「律子と貞子」も、今中学が建っているところを舞台にしています。
それはすなわち志村くんを育てた風景です。
投稿: 蘊恥庵庵主 | 2010.09.30 15:03