『連句遊戯』 笹公人・和田誠 (白水社)
昨夜 MUSIC ON! TV で放映された「フジファブリック presents フジフジ富士Q」をじっくり観ました。
当日会場で感じたように、どの曲もそれぞれのアーティストに提供されたかのように輝いていました。つくづく志村正彦は天才であったと再確認させられました。
名曲ぞろいのフジファブリックの中で、1曲だけ選ぶとすれば(それは非常に難しいことですが)、私は、そうですねえ、やっぱりいろいろな理由で「陽炎」でしょうか。
そういう思い入れのある曲は、ふつうカバーされると、ちょっと苦しくなるものですが、今回の和田唱さん(トライセラトップス)の「陽炎」は実に良かった。涙が止まりませんでした。
その和田唱さんのことがこの本には出てきます。ま、そりゃあそうですよね、だって、和田唱さんのお父様が「日本のダ・ヴィンチ」こと和田誠さんなのですから。
さらに、笹公人さんと和田唱さんとは、文化学院の同窓生だとのこと。そんなこともあって「うちの長男」として和田唱さんが登場しているというわけです。
和田誠さんは、私にとってもある意味父親的存在です。なんて、勝手に和田唱さんと兄弟になってますが(笑)。いや、ホントに多大な影響を受けました。和田誠さんの様々な業績については、あまりに様々すぎてとても紹介しきれませんが、美術(世間で一番知られているのはやはりイラストでしょうかね)、文学、演劇、音楽…本当に多くの場面で彼の名前に遭遇し、そしてそのたびに驚かされてきました。
そして、笹公人さんは私の短歌の師匠です。全く不思議なご縁があって、今春から師弟関係を結びました。先日もお会いして、この本にサインしてもらってきました。
和田誠さんと笹公人さんをつなげたのは寺山修司と言えるでしょう。和田さんと寺山は親友同士でした。笹さんや私は、青春時代に寺山に多大な影響を受けています。
大変ずうずうしい言い方ですが、寺山修司、和田誠、笹公人、和田唱、志村正彦というつながりの中に、私も入らせていただいたこと、なんだか不思議な気がします。
で、ちょっとそうした連環を遠くから眺めてみますと、昨日の「昭和展」のような風景がそこに広がっているような気がするんですね。昭和のセンス。
その「昭和のセンス」というのがなんなのか、言葉で簡単に説明することはできません。しかし、今回この本を読み返してみて、やっぱりそういう「何か」があると確信しました。
それって、もしかすると、出口王仁三郎が準備したものかもしれないなとも思いました。なんでもあり、エログロナンセンス、ユーモア、オカルト、言葉遊び、肩透かしなアンサンブル、他者への愛…。
いや、日本にずっと伝わってきたそういう文化を総合したのが王仁三郎だったのかもしれません。昭和という時代は、それを明に暗に表に裏に小出しにして再分配していたのかもしれない。そんな気もしてきます。
そう、この本、なんだか「霊界物語」みたいだなって思ったんです。だって話があちこち自由に飛び回り、時間も空間も次元も飛び越え、ナンセンスぎりぎりのセンスがあって、ユーモアがあって、なにしろ言霊にあふれていて元気になるんですから。
連句って実に面白い文化ですね。いわゆる文学のジャンルとしては、異様に「他者性」が強いじゃないですか。ある意味他人によって、どんどん自分の敷いた道が曲げられて行くんですから。そして、それが誰も想定していない旅が演出される。いいですねえ。
王仁三郎の霊界物語なんか、それを一人でやっちゃってる感じですよね。いや、多分オニさんは、たくさんの人や何かと「遊戯」していたんでしょう。だから、ああいうふうにカオスだけれどもちゃんと一本道が通っている感じがする。無限の他者性の総合体なんでしょうね。つまり「世界」そのもの。
あと、和田さんと笹さんのやりとり、まさに昭和のプロレス名勝負という感じもしました。モンスター和田というベテランレスラーに、サイキック笹という若手レスラーが戦いを挑み、実にかみあったいい試合になっている。もちろん、主導権はベテランにあり。和田さんの余裕と、笹さんのけっこう必死な感じが実にいいリズム感を生み出しています。
そしてなんと言っても、笹さんのワクワク感でしょうかね。憧れの人と手合わせできる、している興奮がこちらにも伝わってきます。ドキドキ、ワクワクって少年の心ですよね。
うむ、こういう「他者」との「遊戯」って、実は最近の若者たちには極端に減っているような気もするんですよね。私なんか音楽をバリバリにやってますから、常にプロレスや連句をやってるようなものですが、プログラムされた機械的な「他者」とばかりつきあっている子どもたちを見るとちょっと心配になりますよね。
連句の縛りもいいですね。こんなに縛りがあるなんて知りませんでした。縛られているからこその快楽ってあるじゃないですか(笑)。そこには心の解放を生む逆説的な「自由」があるんですよね。俳句や短歌自体がそういう性質のものですけれど、そこにさらに「他者性」と「決まり」という縛りと自由がある連句って、なかなか面白いなあと思いました。
ワタクシ的な言い方をすれば、他者性(不随意性)とは「モノ」でありますし、ルールや制約は「コト」であります。そして、その「コト」がさらに「モノ」を生む。これぞ「モノガタリ」の本質であります。「コト」をきわめて「モノ」に至る。
私もいつか気の合う方々と「連句遊戯」して、不思議な旅をしてみたいと思いました。いや、もう私は充分人様のおかげで不思議な旅をしていますか(笑)。
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