『日本人の歴史教科書』 藤岡信勝ほか (自由社)
昨日の続きでしょうか。幅広い勉強の一環。よって、この問題に関する議論には応じませんのであしからず。また敵前逃亡。ま、私は愛国的非国民ですから(笑)。
今日のニュース…天皇陛下から白鵬関にねぎらいの書簡が送られた…いい話でしたね。これこそが、天皇という装置のあるべき意味です。誰も言えないこと、できないことを、それこそ「一言」で「超人」的にやってのけるのが、天皇というシステムです。災害時のお見舞いも、あるいは歴史的に言うなら、あの玉音放送もそのたぐいです。
もちろん、天皇制には、その時代ごとのいろいろな意味、いい部分も悪い部分もありましたので、一絡げに「万歳」とか「反対」とか叫べません。しかし、万世一系かどうかは分からないとしても、こうして一つの王室が何千年も続いているというのは、たしかに世界史的には異常な事態です。そこに意味を見出さず、現代的な視点のみから、廃絶すべきだとかいう、そういう神経には、残念ながら私は同調できません。
私は自らソフトな右派を名乗っていますが、まあ、実際の私を知っている人なら、ある部分ではたしかにそうだけれども、ある部分ではどちらかというと左なのではないかと感じていると思います。正直、そんなデジタル的な二元論はどうでもいいんですよ。
そうそう、近々あるところに私のインタビューが載るんですよ。ある意味アヤシイところに(笑)。それをご覧になれば、そうした右だ左だというようなデジタル的な思考こそが、私が乗り越えんとしている「コト」であるというのがお分かりになるでしょう。
さてさて、この「日本人の歴史教科書」、なかなかの名著だと思いましたよ。もちろん、だからと言って、ウチの中学で採用するわけではありません。我が家では採用しましたが(笑)。
これって、いわゆる扶桑社版「新しい歴史教科書」の改訂版と言っていいと思います。本来、左翼的な自虐史観に対する抵抗勢力として成ったはずの「新しい歴史教科書をつくる会」が、その内部で離合集散を繰り返しているのも、まあよくある光景とはいえ、やはりイデオロギーの難しさを感じさせました。結果として、このような不思議なバランスのとれた教科書が出来上がったのは、皮肉と言えば皮肉なことです。
この本は、検定合格した学校版「新編 新しい歴史教科書」の書店版です。中学を作るにあたり、私も当然この自由社版の教科書にも一通り目を通しました。また、山梨県の教育委員会による「教科書分析」も拝見いたしまして、結局採択は見送りました。それは多分に世間体を気にしてのことです。正直に言えばそういうことです。
ある意味異常な状態にある山梨県の公教育に対抗するには、思い切ってこの教科書なり、扶桑社版なりを採用する手もあったかもしれませんが、やはり、世間一般の評価と、あと「誤解」ですね。それを恐れて他社のあたりさわりのない教科書を採択しました。
ただ、一つのメディア・リテラシー教育として、自由社版や扶桑社版、あと昨日の中国や韓国の教科書を教材に使うということもありだと思っています。
少なくとも、子どもたちには「教科書は正しいとは限らない」ということを知ってほしいですし、昨日も書いたように、それぞれ個人レベルでの「コト」は無限にあるけれども、特に「歴史」にとっては、いわゆる「マコト」は存在し得ないということを、なんとなくでもいいので感じてもらいたいと思います。
それが他者理解…いや、他者を理解できないことを知る第一歩ですし、理解できなくとも、共存や融和はできるということを知る出発点になると思うからです。また、それは原理主義を防ぐことにもつながりますし、不可理解を暴力以外の方法で解決することを模索する原点ともなるからです。
お題目だけの「平和教育」とやらを、私もしっかり受けてきましたが、それはなんの役にも立たない情緒論に過ぎませんでした。ある意味自虐史観もそういうセンチメンタリズムから生じているとさえ感じます。もちろんもう一方の立場の極論もそうです。困ったものです。
しっかし、この自由社版教科書、いろいろと面白いことも起きていますね。だいたいが、自由社の社長さん、思いっきり社会主義者じゃないですか(笑)。それがこういう流れの教科書を出版しているところからして、もう充分にバランスが取れていると言えば取れている。まったく大人の世界は不思議なものです。
実際、ずいぶん右寄りなのかなと思って読んでみると、秀吉の「朝鮮出兵」が「朝鮮侵略」と表現されていたり、伊藤博文暗殺の安重根が「独立の志士」と表現されていたりと、まあ実に「自虐的」になっていて驚きました。
私も実際そうだったわけですが、この教科書に対する批判とか抵抗をする人たち、正直ちゃんと読んでいませんよね、きっと。韓国からもクレームがついたそうですけど、彼らちゃんと読んでるんでしょうか。ま、私も韓国の教科書(の一部)を昨日読んだばかりですが…。
結局、いざこざとか戦争とか「反〜」とか、そういうものは、こうして互いの言葉をしっかり読んだり聞いたりせず、勝手に解釈したり、無反省に誤解したりして起こるものなのでしょう。自国の歴史うんぬんよりも、そういう事実をしっかり学んだ方がお互いのためじゃないでしょうかね。
おっと、肝心なことを書くのを忘れてしまった。冒頭の白鵬の話に関連して。この本のための特別寄稿、「髭の殿下」寛仁親王による『天皇と日本』が秀逸です。内容がどうのこうのとか、文章作法がどうのこうのではなく、皇室の生のお言葉がこうして私たち庶民の目に触れるということ自体に、その価値を感じます。やっぱり何かが違う。非日常的な、ハレな感じがする。白鵬の感激が少し分かるような気がします。
それに比べて、他の寄稿「日本を読み解く15の視座」には少々がっかり。ずいぶんと偏った視座しか提示されていないからです。ま、しかたないか。
ただ、全体を通じて多くの図版の美しさには目を奪われます。日本を眺め直すにはなかなか魅力的な本かもしれません。表紙の写真も実に美しい…ん?これって、どう見ても日本の造形ではないよなあ(苦笑)。
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