第25回 都留音楽祭 2日目
(昨日の続き)
それが有村祐輔先生との出会いでした(先生はお忘れになっているようでしたが…笑)。
「来年あたり、都留で古楽の音楽祭をやろうと思ってる…」
そんな信じられない言葉を聞いたのは、たしかその時だったと記憶しています。この山梨の小さな市のそれこそ目立たない小さな大学で、それも基本的に音楽とは関係のない文学部の単科大学でなんで!?!?
私たちは我が耳を疑いました。だってそうでしょう。想像してみてくださいよ。そんなことまさに夢にも思うわけないじゃないですか。だいいち、自分の大学にそんな古楽の権威の先生がいらっしゃるなんて、それまで全く知らなかったのですから。
それまでの私は、まあいろいろあってこの田舎の大学に来てしまったことを正直悔いていました。広大な大自然、特に富士山との出会いなど、もちろん有益なこともたくさんありましたが、こと音楽に関してはなんとなく大学の中では不完全燃焼していたんですね。
ただ、実はこの有村先生との出会いとほぼ同時期に、これまた不思議な縁から東京は東久留米の聖グレゴリオの家のグレゴリオ音楽院古楽科に通うようになっていたんです。これはなんと天文愛好会が生んだ縁でした。
私は結構熱心な天文愛好家だったのですが、ある時、天文ガイドという雑誌にあるコンサートの案内が載っていたのです。それはあの天文学者ハーシェルの作曲した作品を演奏するというものでした。
その演奏家には、今回タブラトゥーラのスペシャル・コンサートでフィドルを演奏してくださる田崎瑞博先生もいらっしゃいました。古典四重奏団ですね。そして、その演奏会の場所がグレゴリオの家だったのです。そこを訪れた折に、置いてあったパンフレットから古楽科のあることを知り、さっそくアンサンブル・クラスに通うことにしたのでした。そう思うと、やはり1985年というのは私にとって非常に大きな転機の年であったと言えます。
今年、この25回目の音楽祭で、当時グレゴリオで知り合い、また第1回目の都留音楽祭でもお会いした方とそれこそ24年ぶりにお会いすることができました。ま、実際はその後も東京では数回は会っているのかもしれませんが、都留で会うのは24年ぶりです。お互いなんとも不思議な感じになっていましたね。ある意味全然ブランクを感じないというか…。
そして1986年、実際に始まった都留音楽祭は、本当に夢のような内容でした。コンサートやCD(当時出たてのホヤホヤでしたね。プレーヤーが12万円もしました!)や書籍などで知っている憧れの有名演奏家の皆さんが、なななんと自分の大学に来てくれている!そして、素晴らしいレッスン、合奏、飲み会…全てが夢のようでした。私にとっては、特にバロック・ヴァイオリンの若松夏美先生との交流が心に残りました。
で、それがあまりに夢のようなとんでもない体験だったものですから、私は私の人生の方向性を変える決心をしてしまったのです。つまり、実家のある静岡には帰らず、しばらく山梨にいようと決めてしまったのです。これまた不思議な縁で首尾よく就職先(今も奉職している学校)も決まってしまい、全ては今につながる展開に。
実際にはそれ以外の理由、たとえばこちらで述べたような魅力もあったのですが、いずれにしても、いろいろな方々との出会いが私の運命をどんどん変えていってしまったのです。それは今思えば全て必然でした。偶然というものは、それを素直に受け入れて行くと、全てが必然に変わっていくのです。
さて、今日から本格的にレッスンやワークショップが始まりました。今回は全参加者が140名以上に及びます。もちろん25年の歴史の中で最大規模。いつもながらリピーターも多いのですが、初めての方もいらっしゃいますから、初日はちょっとした緊張感が漂っています。
そして今夜は、25年の音楽祭の歴史の中でも特に素晴らしいコンサートが行われました。
そう、誰もが認める世界一のソプラノ、エマ・カークビーさんのコンサートです。なんとも贅沢なことに、我等が日本の誇るメゾ・ソプラノ波多野睦美さんとの共演もありました。まさに夢のようなコンサート。
前半は、波多野先生も私のすぐ前で、聴衆としてエマの世界に酔っておられました。波多野さんにとっても今年の都留音楽祭は夢のような出来事だとのこと。それはそうでしょうね。
私の正直な感想を書かせていただきます。もちろんとんでもなく感動しました。こういう言い方が正しいかどうか分かりませんが、「晩年の美空ひばりだな」と思いました。
全体と部分のコントロールがあまりに絶妙だったからです。そして、ある種の安心の上に成り立つ、いつもとは違う音楽的な感動。身をまかせていられる幸せ。もちろん完璧なテクニック、感情表現、言葉の美しさ…。
この素晴らしい夜に、やはり私は25年前の自分を思い起こすのでした。やはり人生は面白い。ここへ来て、夢にも思わなかったことがたくさん実現しています。実現しているというと、自分の努力の結果のようですね。そうではなくて、訪れるのです。
継続は力なり。たしかにどれも25年くらい続けてきたことです。それが実を結び始めたのでしょうか。継続しているところには先方から必ず何かやってきます。
桃栗三年柿八年、達磨は九年、俺一生…先日秋田で見た武者小路実篤の言葉を思い出しました。なにごとも四半世紀は続けなきゃダメなんですね。
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