フジファブリック 『MUSIC』
僕を見て!叫びて逝きしロッカーの墓前にスミレ音もなく咲く
先月の歌会で披露した歌です。お題は「ロック」でした。もちろん、昨年の聖夜に突然逝ったフジファブリックの志村正彦くんをイメージして作った歌です。
こういう歌を作ることによって、自分なりに、彼の死をある程度客観的に受け入れようとしたわけですが、結果はまた違った苦しみや辛さを、そして彼に対する別種の共感を体験することとなりました。
そう、まさに命懸けで、命を絞り出すように「歌」を作り続けた志村正彦くんの、その、天才がゆえの苦悩の一端を自分も味わわせていただくことになったのです。
私のライフワークである「モノ・コト論」的に言うならば、言葉や音楽による、「モノ」の「コト化」という作業、すなわち、「なんだか表現しにくいモノ」しかし「皆が共通して感じているモノ」を、一般化し公共化するという作業…それこそが「芸術」行為です…の苦しさですね。それを、たった一首であっても、いやというほど体験させられました。これはたしかに参ってしまう…。
まじめでもなく努力家でもない私は、ある程度のところで自分を、あるいは作品を、そして社会を見限ってしまうことができます。しかし、まじめで努力家であった彼は、それができなかったのでしょう。本当に彼はプロフェッショナルな芸術家でした。
そんな彼が最後に遺した作品たちが、こうして日の目を見ることになりました。メンバーやスタッフはじめ、多くファンの皆さんの気持ちがここに凝結して、奇跡的な名盤が生まれたと言っていいと思います。
この7ヶ月の特別な事情を抜きにしても、充分に魅力的なアルバムになっています。しかし、私はあえてこの7ヶ月の様々な思いや出来事を、この音楽に重ねて聴きたいと思います。彼が元気だったら、当然違ったアルバムになっていたのですから。
しかし、面白いもので、私はこのアルバムを初めて聴いた時、自分の意外な反応に驚いたのです。もう1曲目から気持ちが高ぶってしまい、おそらく涙なしでは聴けないだろうと思っていたのに、実際のところは、歌詞カードをしっかり見ながら、とても冷静に聴くことができたのです。
いつものとおりの悪いクセで、楽曲や歌詞をストンとダイレクトに受けとめるのではなくて、なんだかエセ評論家めいた理屈っぽい聴き方をしている自分。そして、それを見事に裏切って、「こう来たか!」と思わせる志村くんの音楽や言葉。そう、いつもの通りの、キャッチボールがそこで行われたのです。
昔のようにフォームからして変則ということはありませんが、手元でクッと変化するクセ球は、いつもの志村くんらしさ、フジファブリックらしさです。
当然彼の歌は「作品用」ではありませんから、どこか気の抜けたようところ、不安定なところもありますけれど、それはそれで不思議な味わいがあって、なぜか今まで以上に「素の志村正彦」が出ているとさえ言えるような気がします。
編曲や演奏もいつもどおりの「ニヤッ」とさせるものばかり。特別と言えば特別なのかもしれないが、いや、いつも通りと言えばいつも通り。とにかく自然に体に溶け込んでくるような気がしました。
冷静に考えてみると、こうした「作品用」でない遺品的な音源を「作品」にすることは、案外多く行われてきたことが思い起こされます。The Beatlesの例なんかが分かりやすいのではないでしょうか。
面白いもので、あれなんかも、ジェフ・リンというプロデューサーというか、異様なほどビートルズ・マニアが、世界中のファンの気持ちと残されたメンバーの気持ちを統合して、実に「それらしい」、ある意味「最もビートルズらしい」新曲を何曲か作ったわけじゃないですか。そして、そこにはもちろん非難もあったけれども、しかし、結果としては、今やちゃんとビートルズの作品として認められていると思います。
もともと、ロックという音楽ジャンルは、非常に他力的、他律的なものです。バンドという、他者とのコラボレーションがなければ成り立たない稀有なジャンルなんです。一人でクラシックやジャズやフォークはできるけれども、一人ロックは無理なんです。
だからこそ、こうした他者による「編集」も可能だし、そうした行為は音楽倫理的(?)にも全然許されると思うんですよね。実際素晴らしい「作品」に昇華されているわけだし。
1曲1曲、感想や解釈など書こうと思えば、まあいくらでも書けそうですが、それこそそんな評論家めいたたわ言の意味を奪うほどに、アルバム全体としての完成度は高いと思います。
ただ、一つ、オジサンである私が強く感じることができたのは、志村正彦くんの「これから」の姿です。彼は、「CHRONICLE」で「今の自分」を全て出しきりました。そのあと、彼がどこに進もうとしていたか、それがなんとなく、いやかなりはっきりと分かったような気がして、ある意味納得し安心したのです。
先ほどたまたま出ましたビートルズの影響(お気づきでしょうが、たとえば「Blackbird」や「The long and winding road」)ジェフ・リンの影響(特にポップ・チューン)、それはまた、たまたま、いや必然的に奥田民生さんのルーツにもつながるわけですけれど、そうした要素がアルバム全体にちりばめられているような気がしたのです。
それは単純に私の音楽遍歴と重なるとも言えます。だからこそそう思えたのかもしれないのですが、なんかとっても懐かしく感じました。つまり、志村くんは、本当の意味での原点回帰を志したのかもしれない。そう考えると、やはり「CHRONICLE」はターミナルだったのかもしれません。
「MUSIC」…実に大胆なアルバム・タイトルです。しかし、たしかにそこには志村正彦くん自身の、そしてフジファブリック自身の、そして私自身の「MUSIC」が凝縮されていました。
単純に「音楽」とは訳したくないですね。やはり、「歌」なのだと思います。タイトル・チューンである「MUSIC」が「春夏秋冬」を歌っているのが象徴的です。先ほど書いた音楽的なルーツとともに、そこに私は「日本の歌」のルーツをも感じました。それは、近いところでは吉井和哉(イエモン)の影響としてこのアルバムに表れています。
日本のロックは「さびしさ」である。「孤独」である。それはすなわち、日本の「歌」の系譜そのものである。だからこそ、私は冒頭のような拙歌を作ったのです。
知り合いの、フジファブリック・ファンにして中世和歌の研究家の方が、志村くんはまるで中世歌人のようだとおっしゃっていました。私もこのアルバムを聴いて改めてそう思いました。それも日本の歴史に残る「天才歌人」であると。
これからまたじっくり聴きこみたいと思っています。おそらく一生の愛聴盤になることでしょう。
PS 大好きな「Bye Bye」、中学生の合唱用に編曲始めました。
もう一つ、カミさんが「会いに」って「ウォーアイニー」と掛けてるんだよね?だからチャイニーズ調のイントロなのだと。そうなんでしょうか?w
そうそう、それから、私があの日聴いた天の曲は、このアルバムには入っていませんでした…ということは…。
Amazon MUSIC
| 固定リンク
「音楽」カテゴリの記事
- ラモー 『優雅なインドの国々より未開人の踊り』(2024.08.12)
- ロベルタ・マメーリ『ラウンドМ〜モンテヴェルディ・ミーツ・ジャズ』(2024.07.23)
- まなびの杜(富士河口湖町)(2024.07.21)
- リンダ・キャリエール 『リンダ・キャリエール』(2024.07.20)
- グラウプナーのシャコンヌニ長調(2024.07.19)
「文化・芸術」カテゴリの記事
- いかりや長介と立川談志の対話(2024.08.19)
- 九州人による爆笑九州談義(筑紫哲也、タモリ、武田鉄矢)(2024.08.18)
- 全日本プロレス祭 アリーナ立川立飛大会(2024.08.17)
- 『もしも徳川家康が総理大臣になったら』 武内英樹 監督作品(2024.08.16)
- ラモー 『優雅なインドの国々より未開人の踊り』(2024.08.12)
「文学・言語」カテゴリの記事
- いかりや長介と立川談志の対話(2024.08.19)
- 九州人による爆笑九州談義(筑紫哲也、タモリ、武田鉄矢)(2024.08.18)
- 富士山と八ヶ岳のケンカ(2024.08.10)
- 上野三碑(こうずけさんぴ)(2024.08.06)
- 東北のネーミングセンス(2024.07.28)
「モノ・コト論」カテゴリの記事
- ハイデガーVS道元…哲学と仏教の交差するところに、はじめて立ち現れてきた「真理」とは?(2024.06.03)
- 文字を持たない選択をした縄文人(2024.02.14)
- スコット・ロスのレッスン(2024.01.12)
- AIは「愛」か(2024.01.11)
- Re:Hackshun【目せまゆき&成田山幽輔】安倍さんは、あの解散をどう考える?(チョコレートプラネット チャンネル)(2023.11.21)
コメント
こんにちわ。
茜色の富士(夏編その3)でコメントさせていただきました、きずなです。
感想読みました~。
わたしもやっとすべて聞き込みました。
志村君の「これから」なんですね。
ロッキンオンジャパンでも他のメンバーが、志村君が「すごく歌いたそうだった。」
と言っていました。
聞いてるよ!!!って言いながら、今日も一日すごすことにします。
わたしも中学生の時「Bye Bye」歌いたかったです。想像していたら
ドキドキしてきました。
投稿: きずな | 2010.07.29 12:46
こんにちは。以前『天の歌』でコメントさせて頂きましたぽん太です。私も『MUSIC』一日少しずつ大切に聞いています。、先生の聞かれたあの曲、入っていなかったんですね。私も気になっていました。。フジQに行ってから、皆さんが志村さんは富士吉田にいるっておっしゃっていたのを、体感しました。そして、私は向こうの世界でも新しい曲が生まれたんだって信じる事にしています。改めて志村さんの存在の大きさを感じています。 富士吉田は初めて訪れましたが、魅了されました。また自分が日々頑張って、ご褒美にゆっくり、訪れたいです。その時に先生の中学校のオープンスクール等開かれていましたら、ぜひ拝見したいです。合唱でbye-byeをするなんて羨ましいです!憧れの中学生活です。 先生の歌は、まさしく志村さんですね。『CHRONICLE』が重なりました。 また、夢などにでも、志村さんが歌を歌ってらしたら、教えて下さいね。 長くなってしまい、上手くまとまりませんが、やっぱりフジファブリックは素晴らしいですね。有り難うございました。またコメントします!
投稿: ぽん太 | 2010.07.29 22:39
今日 小室浅間神社にコメントした さおです。
私はスペシャ特番を見てから聴きましたので、涙 涙 涙でした。
私も志村くんのボーカル 素だなぁと思っていました。
その分 そこで歌ってくれてる感があり、身体が熱くなりました。
ジャケにも感激…しすぎ、私のブログに書いたら ネタバレだとお叱りを受けてしまったのでここでは割愛させていただきますが、穴があくほど見ました。
また来ます!
投稿: さお | 2010.07.30 14:30
みなさん、コメントありがとうございます。
本当に素晴らしい、深いアルバムだと思います。
志村くんも満足してますよ、きっと。
彼はまだまだ私たちにサプライズをプレゼントしてくれますよ!
投稿: 蘊恥庵庵主 | 2010.08.02 19:10
中学校での合唱、もし可能なら録画した映像や音源を
youtube等にアップして頂けたら感激です。
是非、聴きたいです。
「bye bye」の他にも「若者のすべて」も聴いてみたい
ものです。
投稿: hxc | 2010.08.11 00:12
hxcさん、こんにちは。
まずは合唱を実現しなければなりませんね。
私の妄想が現実化するかどうか。
最初は「若者のすべて」にしようかと思って編曲していたんですが、
もう少し大人になってからの方がいいかなと。
とにかく実現できるよう頑張ります!
投稿: 蘊恥庵庵主 | 2010.08.12 18:53
はじめまして。
フジファブリックを通じ、最近初めて先生のブログを読ませていただきました。主に音楽に関する記事を読ませていただき、感銘を受けたり勝手に共感を抱いています。
私はフジファブリックのデビュー以来のファンでしたが、四国在住であり仕事の都合上ライブに行く機会をなかなか持てず志村さんの生前のライブにもフジフジ富士Qにも行けませんでした。
しかし思い立って本日富士吉田市に向かっています。
お墓参りはできなくても、志村さんの叙情的な詩の世界に出てくるいくつかの場所に立ち寄り、想いを馳せ、ご冥福をお祈りしようと思っています。
乱文失礼いたしました。
これからも先生の評論を楽しみにしています。
投稿: ゆう | 2010.08.23 07:22
ゆうさん、はじめまして。
コメントありがとうございました!
もう富士吉田を訪ねられたんですね。
忙しくてご案内できず申し訳ありません。
いかがだったでしょうか。
きっと志村くんも喜んでくれたと思いますよ。
投稿: 蘊恥庵庵主 | 2010.08.25 17:23
久しぶりにコメントします! 昌平です!!!
合唱のbyebye楽しみです。でも、あれって歌うの難しいんじゃないですか?でも、歌う時は精一杯がんばりますね!!○KBなんかよりこっちの方が断然良いです。
楽しみに待ってます。
投稿: 中二病の昌平 | 2011.01.16 17:04