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2010.06.13

『ドンマイドンマイッ!』 三沢光晴 (ミシマ社)

プロレスラー三沢からのメッセージ 特別発行人 香山リカ
90390819 
 年の今日は本当に悪夢のような日でした。悪夢であってほしいと、真剣に思いました。その後も私にとって大切な人を何人か亡くしまして、昨年は本当にとんでもない年でした
 それぞれの「死」を、実はいまだに受け入れられずにいる私です。なんでまじめに誠実に生きている人、人々を勇気づけ癒してきた人が、たとえば私なんかよりも早く天に召されてしまうのでしょうか。まさに「もののあはれ」を強く感じたこの1年間でありました。
 ただ一つ確実に言えるのは、そういう方々は皆、本当に命懸けで仕事をしていたということです。私のように何でもテキトーにやっていくのではなく、いつもまじめに自分やお客さんや世の中としっかり対面して、そしてごまかさずにやってきた。そういう人たちがまさに自らの命を代償として、世の中に「気づき」を与えてくれたのです。
 プロレスについてもそうです。三沢さんの死から、正直プロレス界は何かを気づかされ、そしてようやくそれまでの停滞しきった空気を払拭しようとするムードが生まれました。三沢さんの命が、業界全体の命になって息づいているかのようです。
 そう、たぶん三沢さんは、自分自身のためでなく、業界のために、社員のために、世界のために闘い続けたのでしょう。ボロボロになりながら…。
 この本は、そんな三沢さんが、死の直前まで書き続けたネット上の日記風コラムをまとめたものです。飾らない三沢さんの言葉が並んでいますが、実はその言葉たちには深い深い味わいがあります。
 いちおうこうしてネット上に言葉を連ねている私からしますと、三沢さんの「心遣い」がよ〜くわかるんですよね。まず、私も実はいろいろな人から指摘をされるんです「が」、今使った「順接の『が』」の多用に、三沢さんの「他者意識」というのを強く感じます。
 この「順接の『が』」はですね、いろいろな立場やいろいろな考えの不特定多数を意識すると、どうしても使わざるを得ない言葉なのです。私もこのブログの文章以外では、これほどその「が」を使いません。だいいち、「です・ます体」もめったに使いませんからね。とにかく気を遣って文を書くと、こういう文体になるんですよ。「が」「が」うるさいと言われるんです「が」、これはしかたありません。不特定多数の未知なる他者に向けて文章を書くと、こうならざるを得ません。
 三沢さんの文体もそれなんです。まず、そこに三沢さんらしさを感じました。
 そうした文体で語られることは、まじめな話、ちょっとふざけた話、下ネタ、オヤジギャグ、オタクトーク…本当に多岐にわたっています。そこに共通しているのは、やっぱり「愛」でしょうかね。自己愛ではなくて、他者に向けた大きな「愛」。それはほとんど神がかっています。多くの人に愛され、そして決して悪く言われなかった三沢さん。その理由が本当によくわかります。
 時々語られる、首を中心とした故障の話題。なんとも読むのが辛いですね。寝るのも歯を磨くのも、歩くのも困難なのに、あれだけ激しい戦いを続けるレスラーとは、いったいどんな精神力を持っているのでしょう。
 肉体よりも精神が勝るということなんでしょうね。そうすると、私たちが考える「死」というのは、あくまで肉体の死であって、精神はやはり生き続けるし、そしてそこにはより崇高な意味があるということになると思います。
 私も微力ながら三沢さんの遺志を継いで、プロレス界の復興に努力していきたいと思っています。ファンの一人として、またプロレスを研究する会のメンバーとして、スポーツとしての、文化としてのプロレスを復興するため頑張ります。
 こういう時代だからこそ、プロレス的な世界観、価値観が大切だと思うからです。そのための大切な智恵がこの本にはたくさん詰まっています。他を認め活かす心の広さ、大きさ、深さがそれです。
 ありがとう三沢さん。お疲れ様三沢さん。

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コメント

「ドンマイドンマイッ!」の特別発行人をつとめた香山リカです。突然すみません。
このたびは本書をご丁寧に読みこみ、ご紹介いただきましてありがとうございました。
「助詞の『が』が多いのは他者配慮のあらわれ」など、私も気づかなかったご指摘も多数あり、また新たな発見をすることができました。本当にありがとうございました。
今後ともよろしくお願いします。

投稿: 香山リカ | 2010.06.15 11:54

香山リカさん、こんばんは!
こちらこそ、素晴らしい本を発行してくださって、本当に感謝しています。
あらためて、三沢さんの偉大さを痛感しております。
そして、プロレスの魅力をも再発見させていただきました。
プロレス復興について是非とも語り合いたいですね!
ご主人様にもよろしくお伝え下さい。

投稿: 蘊恥庵庵主 | 2010.06.15 21:31

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