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2010.06.10

『傷だらけの帰還 探査機はやぶさの大航海』 (NHKクローズアップ現代)

P02100028579jpg 6月13日は日本の宇宙研究開発にとって記念すべき日になります。日本の小惑星探査機「はやぶさ」が7年の大航海の末、地球に帰還するのです。
 「はやぶさ」は世界で初めて、月以外の天体に着陸し再び離陸したという実績を持ちます。そして、その小惑星「イトカワ」の岩石を採取して持ち帰ることに成功すれば、それもまた世界初の快挙となります。はたして無事にオーストラリアの砂漠に帰ってくるのか。そして、イトカワの岩石が持ち帰られるのか。
 そうした科学的な実績ももちろん注目されているわけですが、実はこの「はやぶさ」、ある意味それ以上に「人間ドラマ」としての魅力を持っているですよね。今日のクローズアップ現代はそういう部分にスポットライトを当てた作りとなっていました。
 いやあ、ご覧になった方々は、おそらく一篇の映画を観たような感動を受けたことでしょう。私も改めて心動かされました。
 これがフィクションのドラマであったら、きっと「そんなにうまく行くわけないよ」とか「できすぎだよ」とか言われちゃうでしょうね。それほど奇跡が重なったのです。
 イトカワ着陸時の横転、姿勢制御装置の故障、イオンエンジンの故障や停止、化学エンジンの燃料漏れ、電池切れ、通信途絶などなど…。
 普通ならあきらめてしまうようなアクシデントの連続。まあ、考えようによっては、そういうアクシデントがあること自体に問題があると言えばあるのですが、なにしろ日本の宇宙開発に関する予算は超少ないですからね。しかたないとも言えます。また、実際初めての挑戦ばかりでしたから、想定外の故障も致し方なかったのかも。
 いやいや、今日の放送でも紹介されていましたね、けっこうそうしたアクシデントは想定内であったと。で、そのバックアップがある程度なされていたと。ただ、あまりにバックアップをしっかりすると、予算は増大するし、重量も増えてしまいます。ですから最低限のバックアップ機能しか備えていなかったわけですね。
 で、そういうハード的な薄さをカバーしたのが、日本人独特の「精神力」の厚さであったということなんですよね。そこが感動的。
 つまり、あきらめない心や智恵でしょうか。異常とも言える執念と、デジタル的でないアナログ的で柔軟な発想によって数々のピンチをしのいだということです。
 そして、その「気持ち」が遠く何百万キロも離れた「機械」にまで伝わって奇跡が連続的に起きたわけです。機械が人間の思いに応えるという奇跡。
 なんか途中から、「はやぶさ」が本当に生き物のように感じられましたね。かわいい子どものような感じ。一人旅に出したら、途中行方不明になって、誰もが「もう死んだな」「もう二度と会えないな」「もう帰ってこないな」「いったいどこで宇宙の藻くずとなっているだろう」と思っていたところ、急に「生きてるよ〜」と連絡が入ったとかね。こっちの親心というか、真剣に安否を気づかうその祈りが先方にも通じて、様々な奇跡を起こしていく。面白いですね。ま、当事者の皆さんにとっては、とんでもない心労だったと思いますが。
 また、ちょっと例えが悪いかもしれませんけれど、違う観点からすると、「大和魂」というか、ちょっと外国から見たら怖いくらいの精神力なのかもしれません。もともと低予算を繊細な技術力と智恵でカバーして武器を作り、しかし戦場では敵の猛威や自然の厳しさで満身創痍となり、武器も弾薬も尽きたところから、異様なほどの精神力で巻き返す、あるいは玉砕するまで絶対にあきらめない日本軍の戦い方のような感じ。まあ、そういう精神性がどのような方向に現れるかということでしょうね。
 そうして5年のはずの一人旅が7年になって、そうして13日に故郷に帰ってくる「はやぶさ」ですが、考えてみると、最後の最後に悲劇がないとも限らないのですよね。大気圏突入という大変な難関が待っているのですから。部品や素材の耐用年数の問題もあります。なにしろ想定外の長旅になりましたから。ちなみに本体は大気圏で燃え尽きます。地上に帰還するのはカプセルのみ。なんか可哀想ですね。それこそ特攻隊みたい。
 だいいち、機体の制御も本当にままならない状況で帰ってきましたから、場合によっては市街地に落下することも考えられたわけです。その場合は、すぐそこに夢にまで見た我が家が見えるのに帰れないという悲劇になったかもしれません。それもけっこう奇跡的にコントロールできて、オーストラリアの砂漠に帰還できることになったとのこと。海とかに落下しちゃう可能性もあったわけですし。いやあ、精神力ってすごいですね。機械にも乗り移る。
 ただ、イトカワの岩石が採取できているかは分からないんですよね。当初の計画どおりの採取活動はできなかったようですから。これでフタを開けてみたら空っぽだった…というのはちょっと哀しいかも。
 ま、とにかく無事帰宅、いや帰還することを祈っていましょう。おそらく無事帰ってきた折には、そうした奇跡の一人旅を紹介する特集番組とかやるでしょう。ぜひお楽しみに。

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コメント

前略    薀恥庵御亭主 様

「はやぶさ」は人間以上に
けなげであります。

「漫画」と「科学技術」を
失ったならば・・・
日本に「未来」はありません。

「漫画」規制と・・・
「科学技術」予算削減には
愚僧 絶対に断固反対です。

はやぶさおじさん     拝

投稿: 合唱おじさん | 2010.06.14 21:20

合唱おじさん様、いつもありがとうございます。
漫画と科学技術こそ、日本のお家芸ですよね。
本当の保守政党ができて、両者を庇護してもらいたいものです。

投稿: 蘊恥庵庵主 | 2010.06.15 21:28

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