『憚りながら』 後藤忠政(忠叡) (宝島社)
まず今日は一言短く。男らしく。「これを読め!」。
かなり売れているようですね。そして非常に評価が高い。こういう本が売れるということは、まだまだこの世の中も捨てたもんじゃないということです。よかった。
最近、山口組関係の本を読むことが多く、そして田岡三代目組長を礼讃する記事をずいぶんと書いてきました。彼はてっぺんの人間でしたから、ああやって「神」として君臨し、我々弱者に「慈愛」を垂れ続けることができました。彼は指も全部あったし、刺青もまったくなし。薬に関しては本気で撲滅運動をしていました。
しかし、そのピラミッドの下には、また違う世界が広がっています。もちろん私もそのことはよ〜くわかった上で、最近の「ヤクザ」肯定論を展開しています。こういう時代だからこそ、あえてこうして発信しているのであり、よけいなご心配は無用です。
ですから、「学校のセンセイがそんなこと言っていいのか」と思われた方、つまり心配してくれる方、および批判してくれる方には、ぜひもっと歴史を勉強してもらいたいと思います。個人個人に表裏、明部暗部があるように、もちろん社会もその両面、そしてそのマージナル・ゾーンがあってはじめて「現実」です。
我々教育者の責任でもあるのですが、ここ数十年日本人はそうした「文化」継承を怠りすぎました。実際私も学校教育においては、「表」と「明」と「善」しか学んできませんでした。今、私はそういう自分の歴史をも省みて、今こういう表現活動をしています。ま、現場ではそれなりに「憚りながら」やってますが(笑)。
さてさて、そのピラミッドの頂点のすぐ下、いわゆる「直参」であった後藤組組長さんのこのインタビュー自伝、本当にものすごいことになっています。「もの」すごいのです。それこそ、私たちが何も知らずうわべだけを撫でて生きてきた、その薄皮をはがしたところに見えてくる広大なる裏の世界、暗の世界、悪の世界。そのほんの一端だけなのですが、こうしてその世界の住人が語ってくれますと、もう本当に「物語」そのものになりますね。はっきり言って美しい。あの「『YOUNG YAKUZA』」の「美の国は道徳よりも広大である」という言葉を思い出します。
そして、今や後藤さんは組長ではなく、天台宗の僧侶ですからね。ま、得度しただけですが。
得度したという話を聞いた時、私は「Time is Money」のお話という記事の中で、「彼はまじめに悟ったのでしょう。本当の理想の『時間』は、『金』でも『暴力』でも『権力』でも買うことができないと…」と書きました。この予想はある意味当たったとも言えますし、ある意味全くはずれたとも言えますね。彼の欲望、野望は全く衰えることなく、いまだに燃え盛っていましたから。
それにしても、実に興味深い内容でしたねえ。私も静岡出身の人間ですし、彼のお膝元富士宮とは、今でもある意味お隣の関係ですし、浅間神社的に言えば表と裏の関係でもあります。そんな身近な土地で、このようなことが展開していたとは。もうそれだけでも正直ワクワクしてしまいました。
富士吉田も一言出てきますね。そうそう、実際こちらのヤクザとの抗争がいろいろありました。まさに職場のすぐ隣、西裏界隈がその舞台になっていました。なんか懐かしいな。
もちろん、そういうローカルな物語だけでなく、スケールの大きな物語がじゃんじゃん語られますよ。政治家、芸能人、そして某宗教団体のドン…みんな実名で登場します。こういう大物たちをこうしてストレートに指弾できるのは、まあ、後藤さんくらいしかいないでしょう、今の世の中では。特に某学会の某池田大作ちゃんに対する苦言は、正直痛快でさえありました。
後藤さんは自らのことを「しょせん、俺はチンピラだった」と謙遜していますが(いや、実際そうなのかも…)、一方で「小チンピラ」のことを徹底的に批判しています。なんか分かりますね。最近「小チンピラ」が増えたっていう事実。筋を通さない、肚のすわっていない男ばっかり。
特に世の中をリードすべき政治家に、そういう「小チンピラ」が増えてしまったのが、この日本がこんなふうになってしまった原因でしょう。やっぱり、政治家は正しい意味で「ヤクザ」であって、「宗教家」であるべきなんですよ。
そう、これもいつも言っていますけれど、日本の歴史って「表」と「裏」、「明」と「暗」、「善」と「悪」、「聖」と「俗」が、グルッと一周回ってつながっているじゃないですか。この本を読んでそのことを再確認しましたね。神社や寺の機能なんかその分かりやすい例ですよ。ローカルな話で言えば、浅間神社とか月江寺とかですね。門前にそういう輩が必ずいたんです。もちろんテキ屋はその流れです。
天皇家や芸能人も歴史的にずっとそういうシステムを保ってきたじゃないですか。それが当たり前だし、必然だった。論理とか学問とか、それこそ道徳なんかでは説明できない「モノ」がそこにあったわけです。それをお馬鹿な「常識人」…それが教員、先生であったりするから困るわけですが…が、否定してしまった。
ここのところかまびすしい「大相撲」と「暴力団」との関係なんか、ああやって報道して問題視すること自体、ちゃんちゃらおかしいと思います。いや、今の両者の状況はどちらも憂慮すべきですよ。でも、歴史的な必然性なんかを勉強しないで、ただ現状だけ見て「けしからん」とコメントしてしまう、報道や識者に、私は違和感を抱きます。角界とはなんなのか、しっかり勉強しなさい。
後藤さん、もしかすると最後の「語り部」かもしれませんね。僧侶になって、結局「シャバ」に帰ることも「カタギ」になることもなく一生を終わるんでしょう。まさに天皇が出家して法皇になるようなものか。一度謁見してお話をうかがいたいものです。
最後に一つ。この本には、後藤さん以上の「極道」が登場します。それはお読みになってご確認下さい。最強です。
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