追悼 加藤克巳さん…厳選一首
昨日は作詞家吉岡治さんの追悼記事を書きました。今日は同様に昭和の「言葉」の世界を駆け抜けた歌人を追悼しなければなりません。加藤克巳さんが16日に94歳で亡くなったということです。
加藤さんは、「前衛歌人」としてあまりに有名な方でしたが、実は歌の伝統、日本語の伝統を人一倍大切にする方でした。
たしかにシュールレアリズムやキュービズムを感じさせる歌風で、「歌壇のピカソ」と言われたのもうなずけます。しかし、それはいわゆる「前衛短歌」「現代短歌」とは一線を画するものだったと言わざるを得ません。
まさに最近、その言葉の力に興味を持ったところだったのです。実はそれまで、私にとっての「前衛短歌」「現代短歌」は、寺山修司しかいませんでした。単なる勉強不足です。和歌はそれなりに読んで詠んできたけれども、短歌についてはあまりに知らなすぎました。
にもかかわらず、突如その「短歌」の世界に革命を起こそうするある歌会にお誘いを受けてしまったので、さあ大変。得意の付け焼き刃勉強が始まりました(笑)。
その時、目にとまったのが、加藤克巳さんだったのです。その出会いからたった1ヶ月。加藤さんはその闘いの生涯の幕を閉じてしまいました。たった1ヶ月です。その長年に亘る膨大な数の歌、全てに目を通したわけではありませんが、「日本語」を通じて、自己の内面に深く突き進んでいくその迫力は充分に感じとることができました。
たとえば私が「前衛」「現代」もどきを作ることは簡単です。いかにでもそれらしい「難解」な作品を量産することができるでしょう。そうです。音楽でも美術でも、あるいは建築などでも、ある意味いくらでも「モダン」もどきを作ることはできます。いや、作るのではなく、適当にメチャクチャにやるだけでも、それらしいものはできてしまいます。実際、そういう職業芸術家もいたりしますからね(笑)。
しかし、もちろんピカソがそうであったように、基礎が出来ていてそれを崩すのと、最初から崩れているのとでは、あまりに違いすぎます。当たり前ですね。
いわば「秩序」「規範」「社会性」「伝統」に対する反抗だけではだめなんです。しごく当たり前なお説教になってしまいますけど、結局は積み上げた山を再び崩すのでなければ意味がないのです。「秩序」も「規範」も「社会性」も「伝統」も知りつくして、そこを抜けていかねばならない。単にそういうことなのです。
少し違う角度から申しますと、自分の発する「情報」…それがすなわち「作品」になるわけですが…にどこまで責任を持てるかということです。もっと言えば、「命」をかけられるか。自分の存在意義をかけて発信できるかということになるでしょうか。
案外、「創造」は無責任なものです。私が「もどき」を作るのも、ある種の創造行為ですから。ただ、それを他人に向けて、社会に向けて「発信」するには責任が伴うんです。もちろん、その一つの表れが「お金」ということにもなりますね。
その点、加藤さんの長年にわたる「自己との戦い」、「言葉との格闘」、「伝統との対峙」、そして「作品の変化」には、壮絶なるまでの「覚悟」が感じられました。まさに命がけでした。94年という歳月の全てを、そうした「創造→発信」に凝縮しつづけた大歌人と言えるでしょう。
そんな偉人の無数の歌から、私の好きな作品をいくつか紹介しようと思いましたが、正直選び出すとキリがなくなってしまうので、あえてたった一つに絞りたいと思います。それなりの「覚悟」で選んで「発信」します。これです。ある意味、芸術の極点でしょう。
在るというか まさしくここにあるという いびつなまさに石一つある
(第七歌集「万象ゆれて」より)
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