谷中→新宿→永福→富士スピードウェイ…道の向こうに見えるのは…
昨日は、と言いますか、今日に日付が変わってから、若手能楽師二人に、もう一人教え子兼同僚も加えて計5人で夜中の「谷中サミット」。結局朝まで飲んでしゃべってました。ふむ、伝統芸能を志す「今どきの若者」は面白い!またサミットしましょう。
朝7時半には目が覚めてしまったので、私は谷中を散歩。ううむ、渋すぎる、楽しすぎる。いや、それ以上に私が変。だって、あのお寺ひしめく辻を、スキンヘッドに上下スウェット、iPhone片手に、いかにも二日酔いの顔して歩いているわけですからね(笑)。途中何人かのお坊さんとご挨拶を交わしましたが、「ん?誰だアイツ?どこの脱走僧だ?」という視線を感じました。すんません。
お寺と言えば超驚いたのが、サミット会場である教え子の能楽師の家のすぐ近くに「全生庵」があったからです。山岡鉄舟建立、三遊亭円朝の墓のあるこの名刹は、私の奉職する学校の母体である月江寺とも深い深い関係があります。そんなことを思い出したので、いざ住所を調べて探そうと思ったら目の前にあったのでそりゃあビックリしますよ。何かのお導きでしょう。縁というのは不思議です。
それにしても谷中の辻の魅力はいったいなんなんでしょうね。戦災を免れて残った江戸の風情。数々の細い路地の向こうに、私たちの記憶が堆積しているような予感がします。この道を行くと懐かしい誰かが、何かが待っているような…。
あっそうだ!ユトリロ展に行こう!
谷中を散歩しながらパリの街角を連想するのが、ある意味ワタクシらしいと言えばワタクシらしいですかね(笑)。
というわけで、谷中霊園を抜けて日暮里駅に出て新宿へ直行。ここもまた東京。東京は水平に歴史の地層が重なっています。山手線はそんな時を抜けて輪廻し続けます。
新宿西口、損保ジャパン本社ビル42階の損保ジャパン東郷青児美術館へ。1976年に完成したこの高層ビル。小学校の屋上から次第に出来上がるのを眺めていたっけ。考えてみると今回初めて登ったかも。
ユトリロ…今までけっこう好きな画家で、昔模写したこともありましたが、今日初めてこれだけ大量の作品を生で見て、正直「恐怖」を感じました。この道の向こうに、ユトリロが見ていたものはいったいなんだったのだろう。
ユトリロの数奇の運命はある意味有名です。10代前半からのアル中、母親と、自分より年下の父(!)による監禁生活。それは晩年、年上の妻によって踏襲されます。つまり、彼は一生涯、自由というものを得ることが出来なかったわけですね。そんな彼の描く「道」「辻」「路地」。
今までユトリロと言えば「建物」だと思っていたんですよね。しかし、違うということが今日わかりました。彼は「道」を描いたんだ。「道」の向こうにある風景を描いたんだ。それが実に怖かったのです。
私は例によって、絵画は全て「片目」で見ます。彼の遠近法はほとんど完璧です(本当にたまに破綻していますが)。だからこそ、あの無限に収束していく道の先に何があるのか、とても気になったのです。彼は最初のスケッチは実際に街に出て行なっていたのでしょうが、色を塗り作品として完成させていくのは牢獄の中だったのではないでしょうか。鉄格子にさえぎられ永遠にたどりつけないその道の奥に、いったい彼は何を見ていたのでしょう。
今まで私は彼を印象派の代表だと思っていました。しかし、なんというか、ある意味無機質なアールヌーヴォー的な感じがしたのが不思議でした。温かいと思っていた色彩も、案外冷たく感じられました。やはり、彼の孤独な精神がそこに描写されているかもしれませんね。
特に、あの人物は何なんでしょう。巧みな建物の描写に対して、あまりに稚拙な「フィギュア」たち。本当にただ人形をコトンと配しただけです。それも皆正面に背中を向けています。たまにこちらを向いている「人形」もありますが、その顔はまるで「へのへのもへじ」。横向きや斜めからの描写もほとんどありません。片目で見ても、全く厚みのない紙っぺらです。
そして、謎の「2・2・1」。昨日初めて気づいたのですが、その人形の置き方がほとんど、左奥から二体、真ん中に二体、そして一番右手前に一体なんですね。これは何を象徴しているのだろう…。
きっと彼は「人間」とは心を通わすことができなかったのでしょうね。それがある種のグラフィックアート的な「現代性」を感じさせてもいるのですが…。そういう意味では、近代の自己疎外の「地獄絵」のようにさえ感じられたのでした。
それに比べるとこの高層ビル街の方がずっとヴィヴィッドだな、などと考えながら私は新宿をあとにしました。向かうは車が置いてある杉並大宮八幡です。永福町駅からこれまた細い路地を楽しみながら神社へたどりつきました。この神社が「東京のへそ」と呼ばれるのもなんとなくわかります。この参道はいわば「へその緒」か。
さてさて、もともとはお昼から後楽園ホールで全日本プロレスでも観戦して帰ろうかと思っていたのですが、「道」つながりでまたまた変なことを思いついてしまい、そのまま東名高速を西へ。自然の中に作られた永遠に回り続ける、つまり目的地のない、際限のない「道」、富士スピードウェイを目指しました。
そう、今日ここではロックのイベントが行なわれているのです。「JAPAN JAM 2010」。今日の大トリは「吉井和哉 with フジファブリック」です。時間の関係でそこまでいられないので、会場すぐ脇にある中日向の浅間神社にお参りしました。
浅間神社は富士山の神様コノハナサクヤヒメを祀っています。フジファブリックの志村正彦くんとコノハナサクヤヒメの関係については、以前こちらに書きました。だから、今日のライヴの成功を祈って、彼と一緒に師匠奥田民生さんの歌声をゆっくり聴いてきました。
吉井さんと志村くん、富士山をめぐって二人ともに不思議なご縁を持たせていただいた私ですが、まさかこういう形での共演が実現するとは夢にも思いませんでした。なんとも運命というのは数奇なものです。
「Four Seasons」と「JAM」、伝説的な演奏になったようですね。感無量です。吉井さんの言葉、「本当はヴォーカルがいるんですが、今日はワケあって来てません。すぐに帰ってくると思います」には泣かされましたね。
もしかすると、人の命や人生という「道」は、あのサーキットのようにグルッと回っているのかもしれません。なら、やっぱり帰ってくるのでしょう。
いや、サーキットのようではなくとも、どの道も必ずほかの道とつながっています。それが「縁」だとしたら、やはり人の「道」も互いにつながってグルッと回っているはずですね。ユトリロもそのつながった先を探して、「道」を描き続けたのかもしれません。
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コメント
おはようございます。
昨日のJAPANJAMは、吉井さんが素晴らしい歴史を刻んだって、クイックレポにも書いてありました。
志村君、私一緒にきていたって確信出来ます!
それは、肉眼で感じることは出来ないかもだけど
心で感じるもの。
あの場に、志村君がいたから、あの素晴らしいライブが実現したんだって、すごく伝わってきました。
彼の愛は、人々の心を、愛で満たしてくれますね。
魂が生きていることを、実現してくれる人です。志村君は★
昨日のあの、お月様と金星のコラボも、昨日のJAMのライブとシンクロしますね~♪素敵★
投稿: 里沙 | 2010.05.17 11:14
庵主さん、こんにちは。
私も昨夜は某つぶやきサイトを見ながら、吉井さんのステージに思いをはせておりました。
誰もが予想と期待をしていた民生さんとのコラボにもテンションが上がりましたが、あのフジファブリックのメンバー紹介には…、別のものが込み上げてきちゃいました。
大トリとはいえ、なーんとなく吉井さんのステージは豪華すぎないかな、と思いつつ…。(笑)あの空気の中にいれた人達が羨ましいです。
私も来月、岡山でレミオのライブに参戦します。CDではPOPSなのに、ライブはROCK!そうなんですよ~。あのギャップは彼らの大きな魅力です!
投稿: mio | 2010.05.17 18:28
はじめまして。
昨日の吉井さんのステージを庵主様は見られなかったとのことで…残念です。
私は吉井さんが天にマイクを向けて言った「志村! 歌え!」に、たまらなく泣かされました。
見上げた空に、彼の歌声が響いていました。
投稿: AMI | 2010.05.18 00:30
皆さん、コメントありがとうございます!
私もあの場に志村くんがいたと信じています。
そしてとっても楽しそうにしていました。
ある意味、いつでもどこにでも登場できるようになったみたいですね、彼。
今度はどこに出没してくれのでしょう。
まずはスタジオでしょうかね。
いろいろ楽しみです!
投稿: 蘊恥庵庵主 | 2010.05.18 19:47
こんばんは!
JAPAN JAM 行ってきました。
庵主さんは来られなかったのですね。もしかしていらっしゃるかなぁ…なんて思っていたのですが。でもお近くまで来られて、志村くんうれしかったでしょうね!
吉井さんだけでなく、サンボマスターの山口さんも志村くんの追悼をしてくれて、最初から最後まで涙涙…のフェスでした。
志村くんは絶対にいたと思います。ステージの上に。みなさんそんな志村くんを自然に受け入れているようにも見えました。
今回は不思議な縁で急遽行けることになったので自分でもビックリしています。またまた志村くん、フジファブリックに感謝しています。
投稿: タラ | 2010.05.18 23:29
タラさん、いらっしゃっていたんですね!
うらやましいかぎりです。
私も近くで一緒の空気だけ吸ってきました。
私たちもですが、ミュージシャンの方々こそが、志村くんを感じながら演奏したことと思います。
音楽はあちらの世界にも通じているようですね!
音楽に感謝です。
投稿: 蘊恥庵庵主 | 2010.05.19 21:07