世界は「誤り」でできている
これは、昨年の今頃話題になった鳩山現首相のホームページにおける「誤字」の一部です。「日本の自由」を「日木の白由」と書く人に、「ご埋解いただきたい」としょっちゅう言われてもねえ(笑)。
ま、これはおそらくOCRの読み取りミスだと思いますが、一国の首相にならんとしていた人が(あるいはそういう人の周辺の人が)こんなザマでは、この国の将来も憂慮されて当然ですよね。
こういうデジタル時代になって、この機械読み取りミスや誤変換という新たな「誤植」「誤字」が生まれました。もちろん、似たような「誤り」は人間にも起きてきましたが。
そうそう、最近中学生を教え始めて、そういうデジタル的なミスが目立つのが木になりました…じゃなくて気になりました。形の似た字を混用したり、まさに「誤変換」というような漢字間違いをしたり。つまり、文字をデザイン(図形)としかとらえていないのでしょうね。しかたがないので、いかに意味や文脈から漢字をとらえるかということを、ここ1ヶ月ずっとやってきました。それでもなかなか治りません…いや、直りません…いや、病気がだから「治りません」でいいのか。
中国製の製品のパッケージや説明書のVOW的誤字は、これはいいんですよ。彼らにとって平仮名やカタカナというのは「デザイン」に過ぎませんから。私にとってもアラビア文字は図形にすら感じられませんし。
今の子どもたちがそういうふうになっているのは、まあ結局大人の我々が楽をしようとして便利な(余計な)ものを作ってしまったからですね。前も書いたとおり、「今どきの若者」は「昔の若者(今どきのオヤジ)の産物」なのです。
子どもと言えば、今日カミさんが面白い話を聞かせてくれました。カミさん、子どもの英語教室みたいなものをやっているんですが、今日は村の保育所で英語の伝言ゲームをやったんだそうです。で、あるチームには「BAG」という言葉を回したと。そしたら、もう二人目の子から変異しちゃって、なぜか「ビッグロー」という謎の語になり、そしてアンカーまでちゃんと「ビッグロー」が伝わったらしい。保育所の先生と大笑いしながら見てたというのです。
ふむふむ、私はこれを聞いて、なるほど、これって「歴史」のあり方そのものだな、と思いました。
ちょうどこの前、チェーンメールの記事のところにも載せました、あの「不幸の手紙」が「棒の手紙」になっちゃったってやつも、同じようなことです。
基本、私たちはまじめなんです。ちゃんと情報をコピペしなきゃ、って思ってる。たぶんそういう性質こそが「生命」の条件なんでしょうね。DNAにプログラミングされてるんでしょ。だから、そういう突然変異もちゃんと受け継がれてしまう。
歴史においては、そういう「誤り」「間違い」をあえて作り出すこともされてきました。それはいわば「嘘」が「真実」になるということですね。しかし、それ以前に、本当に単純なミスや不注意、うっかり、思い込みなどによって「誤り」が生じて、それが伝承されるということはあるものです。
今日も実はいろいろあっていろいろ考えたんですけど、たとえば禅の作法とか、能の舞や謡の微妙な部分とか、けっこう一番大切なところが「口承」「口伝」なんですよね。それが数百年の間に見事に変容してしまって、大本がわからなくなってしまっている。それは当然です。みんな必死に、命がけで「一子相伝」してきたわけでしょ。でも、その「子」がみんな完璧だったわけはなくて、結局微妙な誤謬の塵が積もって結構大きな山になってしまっているわけですよ。だから流派や門派によって同じコトが全然違うコトになってしまっている。
では、ちゃんと「テキスト」という「コトの葉」で記録しておればいいかというと、それがまた厄介でして、そうした「誤り」もしっかり記録されてしまい、さらに「文字」の権威によって、そちらの方が正しいとされてしまったりするのです。
そんなことを考えていたら、チェーンメールの記事にタイムリーなコメントをいただきました。その、へうたむさんの言葉をお借りすれば、「水源」の誤りがけっこう世の中に流布していくということですね。私たち下流市民が「正しい」と思っていることは、実はほとんどが「上流」から流れてきたものをそのまま受けとっているだけなのです。
やっぱりこの世の中は、子どもの伝言ゲームのように、たった一人の「誤り」…それも案外源流の方に存する…によって形成されているのかもしれません。私たちは基本「まじめ」ですから、みんなで一生懸命その「誤り」を記録し、記憶し、コピペし、下流に送り続けているのかもしれません。その現場が「学校」だな(苦笑)。
ま、それが生命の本質なんでしょうね。この前追悼した荒川修作さんのような「天才バカボン」が時々ああいう勘違いを堂々としてしまったりするから、私たちは進化するのでしょう。つまり、「誤り」という「突然変異」と、それをまた必死に継ぐ「凡人」たちによって、歴史は校正されず構成され続けるのでしょう。
最後に、冒頭の鳩山さんの誤字(ある意味麻生さんの誤読よりひどいな…笑)にまつわる2ちゃんの名レスをコピペしておきましょう。こういう意図的な「誤り」は面白いですね。てか、このシャレ(心、オチ)、当然分かりますよね?
休み時間ヒマだったので、上司のパソコンに
「うんゆ」→「運輪」
「こくどこうつうしょう」→「国土文通省」
「せんじつは」→「先曰は」
「けっさん」→「抉算」
「ねんどまつ」→「年度未」
「しゃちょう」→「杜長」
「おくえん」→「憶円」
などを辞書登録しておいた。
辛いまだバレていないようだ
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コメント
前略 薀恥庵御亭主 様
愚僧は近年 徳に老眼が進んで
おります。笑
何となく「謙×「嫌」ですね。笑
誤字で考えると・・・
「魑魅魍魎」・・・化物之関連
「地味毛量」・・・頭髪業関連
「乳美望良」・・・美容業関連
「血身猛猟」・・・暴走族関連
「痴身亡僚」・・・政治家関連
「千味望量」・・・外食之関連
「遅未望輌」・・・列車之関連
「恥身忘霊」・・・愚僧自身事
本当に自分は「罵゛鹿」です。笑
馬鹿おじさん 拝
投稿: 合唱おじさん | 2010.05.27 18:05
泡和環輪ぁ~ (^^;)、ご引用いただき恐縮です~。
‥‥ふむ~、OCRでしたかぁ。OCRには思い至りませんでした、あまり使わないソフトでして、かつ、使えば誤読だらけなので、そうとうきっちり校正しないと使いものにならないと思い込んでいたもので…。
>…下流に送り続けているのかもしれません。その現場が「学校」だな(苦笑)。
う~ん.... 私も、‘汚水源’になったかもしれない記憶、少なからず…。
荒川修作氏についての貴記事、拜見しました。NHKが謝罪したというお話、かなり違う性格の話ですが、「にんげんドキュメント」という番組で、80歳を過ぎて一人でお遍路さんをしているという人物を紹介、ところがこの人は、殺人未遂で手配されていた人物だったのです http://imurat20.hp.infoseek.co.jp/sub2-001.htm 。
NHKにはクレームもあったことが推測できますが、この人、近年稀なる、一種、中世的人間像を呈して印象的です。文覚上人の出家譚に仮託されたと思しい説話(『源平盛衰記』。読み本系『平家物語』にもあったと思いますが、蔵書処分で確認不能~~;)や、御伽草子『三人法師』(原拠は『沙石集』)などに見える、殺人を犯して剃髪する発心譚を思い起こさせました。あれ、違うテーマに。すみません。
投稿: へうたむ | 2010.05.28 02:28
合唱おじさん様、へうたむ様、コメントありがとうございました。
お二人ともお見事な宛て字でございます。
このような技は日本独特のものです。
優れた教養が必要ですね。
あっそうそう、殺人未遂お遍路さん、私たまたま録画してあったんです。
今ではお宝映像ですよ。
あれ観た時は、マジで感動したんですが…笑。
投稿: 蘊恥庵庵主 | 2010.05.31 14:45