大フーガ(BWV542より)
時間がないので、今日は音楽の紹介です。
私にとってはとてもとても懐かしい曲です。高校のクラブ(弦楽合奏部)で演奏しました。演奏以前に編曲もしました。
それにしてもこの演奏というかオルガン、ピッチが高いですね。A=465くらいでしょうかね。どこのオルガンだ?当時のコーアトーンはこのくらいが普通なのかな。
皆さん、バッハのフーガと言えば、あの「鼻から牛乳」とか、音楽室で聞かされた「小フーガト短調」を思い起こすでしょう。
よくあることですが、そうした有名曲というのは、案外本人にとっては「駄作」であったりするものです。この2曲もまあ駄作とは言いませんが、「らしからぬ曲」であるのはたしかです。
で、そのあまりに有名な「小フーガ」に対して「大フーガ」というのがあるんですよ。誰が名づけたか知りませんが、たまたま調性が同じト短調だったからでしょうかね。「little」に対して「great」ということになっています。
ん?、ちょっと待てよ。「小フーガ」って全然「小」じゃないですよ。あんな長いテーマ(主題)のフーガ、バッハにないんじゃないですかね。ある意味「大フーガ(大テーマ)」。
こっちの正真正銘「大」もちょっと変り種と言えば変り種です。偉大なる「らしからぬ曲」でもあります。実はこの「大フーガ」の前に「前奏曲」があるのですが、それもちょっと変ちくりんな曲です。情熱的と表されることが多いのですが、私にとってはかなり「過激」な感じがします。それは下の動画(コープマン)の演奏でお聴きください。ほとんど現代音楽ですな。当時の人にはどんなふうに聞こえたのでしょう。
そのなんとも不思議な、「どこへ行ってしまうのだろう」という、ある意味非常にモダンな前奏曲に続いて演奏されるのが、この「大フーガ」です。これは前奏曲とは対照的に「キャッチー」です。つまり分かりやすい。たしかに壮大なスケールではありますが、全体としては初心者にも分かりやすい曲調と構造ではないでしょうか。
このコントラストがいいとも言えますし、バッハの絶妙な演出であるとも言えるでしょう。
そう、この曲は実はオーディション用に作曲されたものなのです。異説もあるようですけれど、とりあえず巷説を信じれば、ある教会のオルガニストの試験で、あの巨匠ラインケン先生の前で演奏したと。そして、先生感激しまくったとか。
このなんともキャッチーなテーマ(主題)は、当時オランダではやっていた民謡を変形したものだと言います。バッハ、うまいことやりましたね。ラインケンじいさんはオランダ人ですから。
結果合格はしたけれども、入学金ならぬ寄付金を払えなくて就職はしませんでした。もったいない。
そういえば、バッハはブクステフーデ先生のオーディションにも合格しましたが、跡継ぎにはなりませんでしたね。その時は、先生の美しからず若からぬ娘との結婚が条件だったそうで、ま、あの素晴らしいブクステフーデの音楽をもってしてもカバーしきれないほどのその娘さんとは、いったいどれほどすごかったのか(笑)、逆に興味がわきます。
で、そのオランダ民謡をもとにしたテーマですが、もともとメロディックなわけですから、和声的に工夫をこらすのは難しい。結果として、テーマが出現する部分は全体に単調になっています。そのかわりいわゆる「ブリッジ」の部分がかっこいいですね。定番の展開とかっこいい転調で聴かせます。
高校時代、これを編曲して弦楽でやろうと思ったきっかけは、有名なストコフスキーの編曲ではなくて、コンサートで生で聴いたブルガリアの名アンサンブル「ソフィア・ゾリステン」の編曲と演奏でした。これがメチャクチャかっこよかったんですよねえ。
パイプオルガンを模して倍音を超絶高音で再現したプレリュードもすごかったけれども、あの推進力溢れるフーガにすっかり高校生庵主はやられちゃいましてね、それで自分で編曲して後輩たちを巻き込んで弾いたわけです。そういう青春の思い出も詰まった曲ですね。たまに聴くと、なんか若かりし頃を思い出して、ちょっと気恥ずかしくなります。
下はコープマンによる全曲演奏です。ちょっと早すぎるかな。でも、いかにもコープマンらしく生き生きとした演奏です。
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