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2010.05.06

日本の、これから「草食系で何が悪い 若者と語るニッポンの未来」 (NHK)

ダイジョーブだよね?若者とニッポン
20100507_65800 むふむ、さすが三宅レフェリー、いやいや三宅アナ。ぜったいにかみ合わないはずの試合を見事にまとめあげていましたね。和田京平さんなみの腕前です。
 って何の話かと言いますと、今日のNHKの討論番組の話です。「草食系」vs「肉食系」。同じ数ずつ集めて逃げられないようにしたら、そりゃあ普通に考えて「肉食系」が勝つに決まっているじゃないですか。それを「草食系」の引き分け以上に持っていって、「モノガタリ」にするのがレフェリーの仕事です。
 といいますか、NHKの内部にもどんどん「草食系」が増えてきているのでしょう。ここ10年くらいのNHKのオタク擁護指向を見てもわかりますね。制作側における「草」と「肉」の力関係の逆転が感じられます。
 自然界を見て分かる通り、いくら「肉食系」がいばっても、「草食系」は減りません。減らないどころか、常に数の上では勝利しています。人間界もようやくそういうフツーの状況になってきたということでしょう。
 ただ、世の中が全部「草食系」になればそれでいいかというと、もちろんそんなことはありません。たぶん平和だけれどもつまらない世の中になるでしょうね。今日もたまたまある人とそういう話になったのですが、昭和のぶっとんだ偉人や豪傑のような肉食獣がどのジャンルにもいないじゃないですか。みんな平均化してしまって、実につまらない世の中になっている。それだけは間違いありません。
 さて、私の「草食・肉食論」はこちら、「世代論」はこちらこちらに書きましたので繰り返しません。
 ただ、次のことだけは確認しておきたいと思います。
 まず、「草食系」の特徴とされた、「車いらない」「酒のまない」「飲み会きらい」「終業後直帰」「出世に興味ない」「終身雇用がいい」「ウチにいるのが一番」「海外旅行にいかない」「家族大好き」「地元大好き」「恋愛に興味ない」「小さな幸せを望む」「頑張るのはかっこわるい」「嫌銭」といった属性は、決して悪いことばかりではないということです。
 全てを逆にしてみれば、そんなことは分かりきったことです。「車買って走り回るのが一番」とか「毎晩酒飲んで家には帰らない」とか「家族や地元から離れたい」とか「頑張ってカネを稼ぐのが人生」とかね。
 で、そういうある意味「正常」な世の中にしたいから、「異常」に頑張ったのが昭和でしょう。自分の息子たちが平安無事に、自分の時間や、自分の家族や地元を大事に生活できるようにと願いながら、お父さんたちは頑張ったわけですよね。それが、いざ自分の息子たちが「草食系」になると、いきなり「そんなんで生き抜いて行けるのか!?」みたいに熱くなるのは、そりゃあちょっと変じゃないですかと。
 いくら世がグローバル化しても、アジアの諸国がニッポンより頑張っていたとしても、本当は悠然と構えていればいいのです。お前ら今頃「肉食系」やってんのかよ、もうそんなの流行らないよ…と。
 この前「成長→成熟」という記事を書きましたね。つまり、そういうことなんですよ。もう私たちは、というか私より上の世代の、昭和の企業戦士たちが、十分に世の中を成長させてくれまして、そして、ある意味彼らの目標とした理想の社会が完成してしまったのです。
 だから、今どきの若者が「草食系」であるというのは、これはもう当たり前、単に「肉食系」オヤジの皆さんが用意してくれた環境に適応して最適化した人種であるというだけのことで、別に心配する必要がないということです。
 実際、いくら景気が悪いとか、勝ち組負け組とか言っても、ニートでもフリーターでも引きこもりでも死ぬわけじゃない。「肉食系」のストックがまだまだたくさん家にあるからです。それをチビチビいただいて生きていける限りは、当然そういう「草食系」がはびこりますよ。別に自然なことですよね。
 昭和の「肉食系」オヤジたちは、「飢え」を体験していたのです。「飢え」の記憶というのは、つまり「生命の危機」の記憶です。これは絶対に消えませんし、「死」の予感が「生」の方向性を決定するというのもまた当然の理です。だから、彼らも間違っていませんでした。
 もし将来、再び「飢え」を感じる時が来たら、今の「草食系」もちゃんと「肉食系」に進化することでしょう。心配いりません。
 最初からかみ合うはずのない試合だったわけです。どっちも正しいし、どっちもベビーフェイスで、どっちもヒールですから。もともと対立構造ですらない。そして、最初に書いたとおり、単なる力関係で言えば、勝敗は見えていたわけですから。
 しかし、十分に観客(視聴者)が楽しめたのは、これはやはりレフェリーが見事だったからでしょう。また、それ以前に「ストーリー」を書いた制作者が優秀だったからでしょう。そういう意味で、実にプロレス的な番組でありました。私もカミさんも、妙に燃えていました。「うぅぅ、こいつムカツク!」みたいな感じで(笑)。最後は時間切れ引き分けという感じでしたが、どちらにも「怒り」を覚えたという意味で、実に素晴らしい試合でしたね。
 あっ、最も印象に残ったレスラー(?)は、やっぱり「肉食系」女子レスラー室井佑月と、「草食系」男子レスラー石原まこちんでしたね。キャラが立ってるわ、二人とも。さすが。

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コメント

>自然界を見て分かる通り、いくら「肉食系」がいばっても、
>「草食系」は減りません。減らないどころか、
>常に数の上では勝利しています。
>人間界もようやくそういうフツーの状況になってきたということでしょう

番組中、宇野さんもおっしゃってましたが、
異様に全員が横並びだった日本も、
個性を主張する社会にやっとなってきたのかもしれませんね。

また、三宅アナの進行は本当に見事でした。
収録でも、見事に議論をまとめてくださり、
本当にありがたかったです。

投稿: ゆうた | 2010.05.07 17:48

ゆうたさん、こんばんは。
おお!出演者からコメントがいただけるとは…。
やっぱりいい時代ですね。
ゆうたさん、さすが草食ベンチャーですね。
非常にバランスのよい、ある意味雑食系と感じました。
いつか機会があったら、ゆっくりお話したいですね!

投稿: 蘊恥庵庵主 | 2010.05.07 22:08

>>昭和の「肉食系」オヤジたちは、「飢え」を体験していたのです。

違います。1950年代になってからは、経済白書で「もはや、戦後ではない」と言われるほど経済成長を遂げ、焼け跡世代が成人になる1960年代には「三種の神器」が普及するほど貧困問題は改善しています。特に、そのときに誕生したバブル世代は、もはや飢えすら体験していません。
逆に、90年代の就職氷河期から、厳しい就職競争と不安定雇用によって、若者の貧困が社会問題になっています。

投稿: おかず | 2010.07.23 21:39

おかずさん、コメントありがとうございます。
いきなり違いますと言われても…笑。
全国レベルで見ますと、「戦後」はもっともっと続いてましたよ。
ちなみに「飢え」の話はウチのオヤジ(昭和6年生まれ)の実話です。

投稿: 蘊恥庵庵主 | 2010.07.29 12:38

あなたは、飢えがないから若者は無気力であると言いたいようですね。

無気力は飢えがないから起こるものではありません。あらゆる手段を用いても欲求が満たされないことが、分かっているから起こるものです。

投稿: おかず | 2010.08.02 03:19

おかずさん、あなたは間違いなく肉食系ですね(笑)。
だって、ものすごく「気力」がありますもの。
私のこの駄文にこれだけ食いついてくる、それもこれだけ強い主張ができるのはすごいことです。
あなたの言うことはもちろん正しいと思いますよ。
異論はありません。

投稿: 蘊恥庵庵主 | 2010.08.02 19:24

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