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2010.04.04

フジファブリック 『エイプリル』

 4月は出会いと別れの時です。特に教員という仕事をしていると毎年それを実感します。この前までここにいた生徒たちが、それぞれ違う方に向かって行って、そこで新しい、私の知らない人たちと出会っている。
 このモヤモヤ、ムズムズした気持ちはなんだろう。それは「嫉妬心」かもしれません。自分のものだと思っていた生徒たちが自立していく。私のことなんか忘れてしまう。そんな、ある意味、娘を嫁に出す父親のような気持ちになっているのかもしれません。
 考えてみれば、自分だってまた新しい生徒たちと出会っているに、ずいぶんと身勝手な感情ですよね。
 この曲における「エイプリル」とは、おそらく、そんな、高校を卒業したのちの4月のことではないかと思われます。彼は高校卒業後、周囲の人たちとは違って進学もせず、決まりかけていた就職先も蹴って、音楽のために上京しました。3年で芽が出なければ地元に帰ってくるという条件でした。
 単身上京して、ある意味何もないところから始めなければならなかった、その彼の4月の不安はいかほどのものだったでしょう。友人、仲間たちは、皆、大学というシステムの中に取り込まれて、天国のような桜色の世界にいるわけですから。
 孤独な戦いの始まりが、きっとその1999年の4月だったのでしょう。
 今、世の中は入学式シーズン。そして、東京や甲府の桜は見事に満開です。でも、富士吉田はまだ冬景色。道端の雪はさすがにほとんど消えましたが、富士山はもちろん、周囲の山々にも白いものが残ります。
 そんな、独特の「遅れ」感が、この富士吉田にはあります。この感覚、私もここに住んだり、勤めたりするようになって、初めて知りました。北の地方の遅れとは違った「取り残され」感は独特のものなんです。「違う景色」なんです。
 今日は復活祭。この寒々とした曇り空の下、志村くんも復活してくれないかな、なんて考えていましたが、残念ながら彼のお墓は静かなままでした。イエスはずるいですね。かっこいいことしやがって。
 本当に「神様」は「親切」であって、かつ「意地悪」です。フジファブリックと出会えたことに、私は感謝します。ある意味必要以上に神様は「親切」だったかもしれません。そして、結果として、神様はとんでもなく「意地悪」にもなりました。
 そう、「意地悪」とは、実は「親切」がなければ存在しえないのです。単なる「意地悪」というのはないのです。「親切」の裏返しとしての「意地悪」。「親切」の裏切りとしての「意地悪」。もちろん、その「親切」は、こちらからあちらへの「親切」でもあります。どうでもいいヤツに何を言われようとされようと構いませんが、こちらが「親切」にしようと思っている人が自分の思い通りにならないと、それは「意地悪」ということになってしまいますよね。
 なにげに、この歌詞は深い。「出会い」があって「別れ」があるように、「親切」があって「意地悪」があるのでした。そして、「何かを始めるには 何かを捨てなきゃな」。
 彼は、何を始めるために、一番大切なものを捨てたのでしょう。それは、きっと私たちが知りえない、高い高いステージでの「天命」を全うするためなのでしょうね。
 孤独であることは純粋であることです。「誰か」に助けを求めている「不純」な自分がいても、結局は自分の力で、自分だけで、自分の人生を歩いていった彼。振り返らずに行く彼の、その後姿に隠れた「涙」の一つ一つが、彼の残してくれた珠玉の言葉と音楽なのに違いありません。

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コメント

おはようございます。

エイプリル、大好きなんです。
『振り返らずに…』のフレーズでいつも必ず涙がでます。
別れの曲はたくさんあるけど、ここまで心情や情景が胸に突き刺さる曲は初めてでした。

卒業や別れと言えば3月なのにと思っていましたが、
そういう背景があったなんて…志村くん…。

彼にはもう違う景色が見えているのでしょうね。
彼の魂が安らかでありますように。

投稿: タラ | 2010.04.05 08:52

おはようございます。
志村くんのその後ろ姿の写真を見ると、胸が締め付けられます。

ただただ、自分の人生へ歩いている。その先を、案じていたかのような…。

志村くんの生きざまは、常に自分の「今」ある現実から目を背けずに、感じたまんま、素直に表現されていたのでしょうね。
こんなにも、自分の人生の中で、色んな感情を感じた音楽は、フジファブリックが初めてです。
志村くんの、背中に学ぶことが本当に多いです。

投稿: 里沙 | 2010.04.05 09:33

twitterでフジファブリックの検索をしてこちらに辿り着きました。
はじめまして。

教室から見える富士山の奇麗さに見とれました。
素敵な所でお仕事していらっしゃるんですね!

エイプリルの歌詞の意味、考えたことがなかったので目からウロコです。
確かに、志村君にはそんな背景があったのでしょうね。
でも4月をそんなセンチメンタルに歌った人は今までいなかったのでは
ないでしょうか。
歌詞が気になったのうたまっぷで「エイプリル」で検索したらフジファブリック1曲のみでした。

3月までは仲間と繋がっていても4月になるととたんに皆それぞれに
新しい環境で生き始めて昔のことを忘れ始める、そんな寂しさ、分かりますね。
わたしも教員です。
毎年巣立って行く子供たちと、同じ環境に残る自分との関係に必ず
寂しさを感じてしまいます。


投稿: アカネ | 2010.04.05 13:41

先週のM-ON!の放送を見てから「クロニクル」ばかり聴いています。志村くんはひとりで色んな葛藤と戦っていたんでしょうね。この背中を見ると涙が出ます。
彼にとってエイプリルは、不安との戦いだったのでしょうね・・・。
天命を全うした志村くんは穏やかに過ごしてるんでしょうか・・・。
彼が今幸せならそれでイイです。
寂しいけど。

投稿: ごまハナ | 2010.04.05 21:46

奇遇です!


私も最近始めた自分のblogに

志村君の月命日の日


『エイプリル』載せさせてもらっちゃいました(^w^)


深くてよい歌詞ですよね★★★

投稿: ノリ | 2010.04.05 22:00

『エイプリル』は私も聴いていて切なくなる曲のひとつです。
出会いと別れをこういう言葉で表現するのは自分では出来ないなぁと思いながらやけに納得してしまいます。
私はアルバムの中で『CHRONICLE』が一番心にしみます。
志村くんが電車に乗れなくなったような事が私にもあったからでしょうか。
このアルバムはノンフィクションだと話していたように私にはどの曲も共感出来るところが多く聴いていると胸が締め付けられるのに何度でも聴いてしまいます。
発する言葉に嘘がないからなんでしょうね。
3日にCSで『CHRONICLE』の特集もやっていたのですがナレーターの人が『志村くんが命懸けで作ったアルバム』と言っていました。
本当に放送されたのは志村くんが亡くなる前だったのですがまさに命懸けで作ったアルバムだったのかなと思いました。
何だか長々とスミマセン…

投稿: サオリ | 2010.04.06 10:30

皆さん、コメントありがとうございます。
「エイプリル」、ホントに名曲ですね。
文学的にも音楽的にもシンプルなんですが、あまりに本質をついていて、ちょっと怖いくらいです。
やっぱり彼は天才です。

投稿: 蘊恥庵庵主 | 2010.04.06 17:24

庵主さま、本当に復活してほしかったですね。
すごく詳しいとか、先生ほど聴きこめてないので発言しにくいけれど、それでも、ソフト帽の詩人の方も好きだったマタイ受難曲いろいろ重ねてしまって。
『エイプリル』ずっとタイトルに込めた思いは、20代の等身大の4月だと思ってたんです。
それぞれのリスタートって意味あいでとらえていて。
でも、20代つまり社会人になると、人事異動、歓送迎会の“出会いと別れ”になりがちですよね。
そっちではなく、あの10代の4月を言ってるんですね。
先生にとっての4月もやはり10代と過ごす特殊な“出会いと別れ”なわけで、いわゆるサラリーマンが過ごす4月とは違いますよね。
だからこそ、これほどまでに、彼の言いたかった『エイプリル』が伝わっているのだなって思いました。

投稿: 千帆 | 2010.04.06 19:36

もー、泣けるーsign03sign03sign03sign03sign03sign03sign03sign03sign03sign03sign03sign03sign03

ノリのブログで初めてこの歌を知って、詩を読んだ瞬間に家族が浮かびました。


先生といいノリといい。。。って、勝手に泣けてくる身勝手なアタシですが、大切な思い出を忘れないように前を向いてこれからも生きて行きたい、そう思えるスゴく心に響く歌ですね。

富士山て、アタシには当たり前の存在ですが、アタシの父親は、富士山が大好きで、ちょっちゅうダイヤモンド富士とか見に行ってたので、その理由とか知りたいなー、って改めて思いました。

感謝です。

投稿: カオル | 2010.04.07 04:22

千帆さん、こんにちは。
志村くんの本当の意図はわかりませんが、なんとなく私はそんな気がしたんですよね。
やっぱり富士吉田の記憶がこの曲にはあるなと。
富士吉田の4月はホント独特です。
まだ雪も降ったりしますし。


カヲルよ、そうか…そうだよねえ。
お父さんも富士山から天に昇っていったんだろうね。
富士山の麓で生まれ育つっていうのは、やっぱり特別なんだよ。
世界でも特別な場所だし、もっとオレたちも感謝の気持ちを持たないとね。

投稿: 蘊恥庵庵主 | 2010.04.10 11:16

(こちらへのコメント遅くなりました )
CSでのフジファブリックの特集番組を少しずつ見ています。
「少しずつ」というのは、
“大事に見たい”という思いと、“ひとりで見たい”という思いからです。

志村くん、天のドアを開ける前にちょっと振り向いて
戻ってきてほしかった・・・。


普段から人や動物の“後ろ姿”にはとても惹かれます。
それは可愛かったり、たくましかったり、
悲しかったり・・
志村くんの後ろ姿は、ただただ切ない・・・。

投稿: kirari | 2010.04.11 14:54

kirariさん、まったく切ないですよね。
今思うと、彼の背中には特別な何かがあるように感じます。
なんというか、静かなんですよねえ…。

投稿: 蘊恥庵庵主 | 2010.04.13 16:40

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