BUMP OF CHICKEN 『魔法の料理 〜君から君へ〜』
2週続けて新曲をリリースしたバンプ。こちらの曲は「みんなうた」で月の始めから流れていたので、もうずいぶん聴いていました。
これは名曲ですね。バンプらしい、藤原基央くんらしい名曲です。スタンダードになりうる力を持った曲です。
正直、うまいなあというか、ずるいなあというか、大人としてちょっと嫉妬してしまうほどのセンスを持っていますね、彼。
これは大人のための「童話」であり、大人のための「童謡」であります。大きくなった「子ども」が、未来の「大人」に語る形をとっていますが、実際上この詩、いや散文に共感し感銘を受けるのは大きくなった「子ども」でしょう。
誰もが持っているであろう「子どもの記憶」。それはほとんどが「夢想」をベースにした「モノ」です。私たちは「大人」になる、「大人」に仕立て上げられる中で、そうした「モノ」を捨てて行きます。その「モノ」を語ると「物語」になるわけですね。
藤原くんの歌詞はどれも「詩」というには饒舌すぎて、そこが「詩」を求める人にとっては、ある種の「説教臭さ」を感じてしまう原因となっているんですが、この曲に関しては、もう最初から「物語」をやろうというスタンスから始まっているので、実に功を奏していると思いました。
「みんなのうた」というある意味壮大な、時間を超えた「物語」の中でこれをやったか!という感じですよね。「みんなのうた」自体の歌とも言えます。私たちおじさんおばさんも、たくさんの「子どもの頃の思い出」を「みんなのうた」に乗せて大事に持っているじゃないですか。
彼のこういう「語る」音楽というのは、世界的にもなかなか珍しい。あえて言うなら、やっぱり西洋音楽の音楽史の延長にあると言えますよね。何度も言うように「キリスト教音楽」です。オラトリオやオペラの系譜ですよ。日本の「歌=和歌」の系譜とは全く違います。
散文詩という面でもそうですし、内容的にもそうですね。この歌詞なんかにも、たくさんの「否定的」「負」の言葉がちりばめられていますけれど、結果としてそういう「悲劇」をも肯定的にとらえる道を示しています。そこが、いつもの彼らのリアリティーなんですよね。きれいごとでは終わらない。悲劇に根ざした、現実を消化した上での、新しい「夢」「物語」を紡いでいくような感じがします。だから、子どもには分からない音楽であり文学なんですよ。
ところで、私、この曲を聴くと、どうしても思い出してしまう、別のミュージシャンの曲があるんですよ。それは、フジファブリックの「Clock」です。
『魔法の料理 〜君から君へ〜』のサビを聴いてみてください。2回同じ旋律、藤くんらしい伸びやかなメロディーが歌われますね。「君の願いはちゃんと叶うよ」というところと「これから出会う宝物は」のところです。ここのベースラインをよく聴いてみてください。1回目は「ドレミファソ」と上がっていきますね。2回目は「ドシ♭ララ♭ソ」と半音階的に下がっていきます。ここがこの曲のミソであり、うまい!というところなんですが(それぞれ次にファ♯に行くプチ転調もナイス!)、同じメロディーに全く違うベースラインが重なるということは、その全く違う二つのベースライン自体も重なる可能性があるということじゃないですか。
で、それを実際に重ねているのが、フジファブリックの「Clock」なんです。ベースではなく、金澤くんのキーボードなんですけどね。聴けばわかります。
どうですか。こんなことに気づくのは私だけかもしれませんね(笑)。しかし、あまりに対照的な歌詞の世界も含めて、私の中ではこの2曲が不思議とつながってしまうんです。
同じ「悲劇」の捉え方、表現の仕方もいろいろあるなと。この前、『HAPPY』のところで書きましたね。修行僧のように「現実」を直視しすぎるほどに直視し、独り「孤独」と闘った志村正彦くんと、言葉というフィクション(共同幻想)で「孤独」を駆逐していこうとする藤原基央くん。日本のロックの深さ、広さを感じさせるコントラストであります。
今30くらいのロック・ミュージシャン、たくさんいますよね。彼らの世代はなんというか、不思議と私たちの世代に通じるところがあるんですよね。なんとなく共感する部分が多い。それがどういう現象なのか、そのあたりもちょっと考えてみようと思っています。
Amazon 魔法の料理 ~君から君へ~
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コメント
はじめまして!よくブログを拝見させていただいています。
私もこの歌のサビが、フジの「clock」に似ているなぁと思っていました。「魔法の料理」を口ずさんで歌っていたところ、どうしてもサビから「clock」になってしまうので、あれ?あれ?と思いながらも、どちらも心から大好きなバンドなので、こんなこともあるのか面白いなぁと思いながら歌っていました。歌詞を見ると通じる部分があるのですね。興味深いシンクロです。
志村君関係の話題を載せていただきありがとうございます。いつも楽しみにしています。どんなささいなことでもとても嬉しいです。
坂村真民さんの詩集素晴らしいですね。最近本屋さんで購入しました。
お体に気をつけてお仕事頑張ってください。
投稿: ぐりとぐら | 2010.04.25 12:04
こんにちは。
フジファブリックの「Clock」好きなので何度も聞いていますが、この記事に書いてある金澤氏のメロディーライン、どこのところを言っているのか自分で見つけられないので教えてください。
投稿: アイロン | 2010.04.25 13:42
ぐりとぐらさん、アイロンさん、こんにちは。
コメントありがとうございます!
「時間」を扱ったということもありますし、
もしかして藤くんなりのトリビュートだったりして…。
ええと、上のYouTubeですと、46秒のところから始まる間奏のベースラインとシンセの音の重なりのところです。
この間奏が一つのポイントになってますよね、この曲。
それから、Aメロの冒頭部分も同じコード進行ですね。
投稿: 蘊恥庵庵主 | 2010.04.25 14:22
NHKみんなのうた、やってくれますよね。2,3月のレミオに続いてバンプ!NHKの担当の方と握手したい気持ちでいっぱいです。しかも歌詞はノーカット…初めて聴いたときは号泣でした。優しいのにザックリ切り込んでくる藤原さんの唄、これ現役の世の子供さんにはどう聴こえるんでしょうね?
「Clock」恥ずかしながら、ここで初めて聴かせてもらいました。Aメロからのベースとシンセ、ツボでした。ベースが一音(または半音)づつ下がるの(ベースクロシェっていうんですか?)大好きなんですよ。ちょっとこれは早々に手に入れたい曲になってしまいました。
私は「プラネタリウム」の最後のサビのベースラインが好きです。
投稿: mio | 2010.04.27 00:48
mioさん、こんにちは。
まったく「みんなのうた」はあなどれません!
フルコーラスっていうところがねえ…。
岡本真夜さんや上海のヤツが、典型的な「クリシェ」ですね。
クリシェはある意味、その人のセンスが最も問われる高度な状況とも言えるんですよね。
バンプもレミオもフジも、そのへんのセンスは抜群だと思いますよ。
投稿: 蘊恥庵庵主 | 2010.04.27 15:14
こんにちは、はじめまして。
きっかけは音楽関連の記事でしたが、毎度様々なトピックを拝見させて頂いています。
私自身も以前から藤原さんと志村さんには、もちろんそれぞれ異なる点も多々ありますが、
ある一種の共通のシンパシーを感じていました。
ご存知でしたら差し出がましいのですが、志村さんは雑誌で藤原さんを天才と評していたり、
ライブでの楽屋で「花の名」を大声で歌っていたというエピソードがあるそうです。
長年、双方のファンの1人としてそういったこぼれ話や今回読ませていただいた記事は、
自分が感じていた共通項や意外な繋がりを確認できる意味においても大変嬉しいものです。
投稿: So | 2010.04.29 01:32
こんにちは。
コメントの返答ありがとうございました。
いつも携帯から拝見させていただいているので先ほどパソコンから見ましたらyoutube載っていましたね。
バンプの曲も聞きました。
音階やコード進行などは詳しくないのでよくわかりませんが、CHRONICLEの曲は歌詞もメロディーも大好きです。
投稿: アイロン | 2010.04.29 11:25
こんにちは、今回の2作品についてはこちらのインタビュー特集記事でも詳しい制作経緯や解説が読めますよ。
ttp://natalie.mu/music/pp/bumpofchicken02
個人的に音楽誌の、内面を深く探っていくようなインタビューよりは分かりやすいです。
この曲が書かれたのは昨年の4月10日、藤原氏の30歳誕生日直前ということで「Clock」との共通性は偶然的な現象のようです。
この2曲のコントラストについて読ませていただいてから、興味深く聴き比べさせていただいています。
もし既に聴かれていたら余計な情報かもしれませんが、フル音源版はみんなのうた版より1分半以上長く、イントロや間奏、ゴスペルのようなパートがあります。
あとカップリング曲の「pinkie」「キャラバン」、特に後者はこれもある種“らしい”のですが珍品というか驚きのある曲でしたよ。
投稿: kafka | 2010.04.29 14:50
Soさん、アイロンさん、kafkaさん、コメントおよび情報ありがとうございます!
単独で聴いてもいい曲ですが、いろいろ比較したり関連付けたり、妄想したりしながら聴くのも楽しいですね。
それは作者にない受け手の特権ですからね。
ちなみに私、キャラバン大好きです。
珍しく(?)「詩」という感じですし。
投稿: 蘊恥庵庵主 | 2010.04.29 18:56