『パスファインダー』 大前研一 (ビジネス・ブレークスルー出版)
大前研一通信特別保存版PartIII
<道なき道を切り拓く先駆者たれ!!>
同僚がどこかでもらってきたとかで、私のところに回ってきました。
「Path Finder」とは「道を見つける人」、すなわち「開拓者」「先駆者」という意味だそうです。昔風に(?)言えば、「パイオニア」とか「フロンティア」ということでしょうか。
最近、どういうわけか、いわゆる「経営コンサルタント」の方の言葉を聞いたり読んだりすることが多くあります。別に私は経営者ではないんですが。それでも、いろいろと勉強になることが多い。
特に、船井幸雄さんや、ドラッガーの言葉は、教育の世界でも大いに役立つものばかりでした。
この前も書いたとおり、「マネージメント」とは「うまくやっていく」というのが本義であり、教育とはまさに「社会でうまくやっていく」ための知識や智恵や技術を伝授することとも言えます。ま、たいがいが古くさい先人の功績を伝えるにとどまっていますけど(苦笑)。
アップ・トゥ・デイトな世界で活躍しまくっている大前さんですから、当然そうした「教育」の現状にウンザリし、そして、モノ申したくなるのは当然です。そんな大前さんの気持ち、考えが、ある意味濃縮されているこの本。現役の現場の教員としては、なかなか耳の痛い名言が揃っていて、かなり楽しめました。
大前さんは、そういう日本の立ち後れた、そして荒廃したと称される「教育」には見切りをつけて、ご自分で大学院や大学や、そして高校までも「経営」されるに至っています。まあ、究極的にはそうするしかないでしょうね。
しかし、この本を読んだかぎり、つまりは大前さんの気持ちや考えを受け止めてみて、どうも現場の者としては違和感を抱かざるを得なかったのも事実です。
それは、おそらく、「経営」や「幸福」のステージ、次元が、船井さんやドラッガーと違うからでしょう。それはすなわち「教育」のステージや次元とも関わってきます。
単純に言えば、「自分」が幸せになるか、「他人」が幸せになるかという違いです。お分かりになりますか?大前流ですと、とりあえずは「自分」が生き生きと社会で活躍し、お金も得て、そして、「日本」が世界の経済の中で「勝ち組」になることを考えるわけです。
もちろん、それは大いに結構であり、また、まずはそこから始めなければならないというのもわかります。自分が貧乏だったり、会社が潰れそうでは、「大志」を持って、それを実現することなど無理ですからね。
しかし、そこで満足してしまう「経営」や「教育」もあると思うんです。ある意味、そこで満足しているのがほとんどとも言える…。
私もちょっと前まではそんな感じだったかもしれません。極端に言えば、自分さえ「勝ち組」になり、裕福になって欲しいものが買えればいいと。極端に言えばですよ。
しかし、そういう考え方、生き方の空しさのようなモノが、最近突如として私を襲うようになったのです。これはもしかして「悟り」なのか(笑)。
船井さんやドラッガー、そして、そうそう稲盛和夫さんや松下幸之助さんもだな、彼らはちょっと、いやだいぶ違うような気がするんです。彼らの「幸福」はスケールが大きいと思うんですね。私もお釈迦様に教えてもらったわけですが、やっぱり、個人の「幸福」は他者の「幸福」がなくては成り立たないのですね。というか、「他者の幸福」以外に「自己の幸福」はありえない。もともと、自分という存在が完全に他律的であり、また自他は不二なわけですから、当たり前といえば当たり前です。それを我々は忘れてしまっている。そう、それを忘れさせる麻薬、ある意味悪魔が、「カネ」=「マネー」なのです。
とってもおこがましい言い方ですが、大前さんは多少その麻薬に汚染されているところがあるような気がしました。いやいや、もちろんそれでもいいんです。さっき書いたように、現代社会はとりあえずこういうシステムなわけですから、カネ抜きには「理想」は追えません。実際、船井さんもドラッガーも稲盛さんも松下さんも、みんなカネ儲けの上に自らの「大志」を顕現させています。
しかし、やはりですね、教育の現場でもそうですけれど、その先の先にある「理想」や「真理」や「大志」をしっかり明らかにした上で、どうこの社会でマネージメントしていくかを考えなければならないと思うんです。
これも極端な論になりますが、たとえば私が高校の進学クラスを担当していたこの20年間を振り返るとですね、ただ「いい大学」に入れることを目的としてやっていたかもしれないわけです。それでその瞬間は、生徒も私も満足を得ると。しかし、長期的に、あるいは俯瞰的に考えると、それは単に「カネ」の世界での「勝ち組」を生産したにすぎなかったものかもしれない。もしかすると、地球環境を破壊するハカイダーや、格差社会を助長するしねしね団を養成していたかもしれないのです。
そういう反省…もしかすると悟り…のもとに、今回の中学校は「経営」していこうと思っているのです。
というわけで、大前さんの多くの名言には、たしかに若者の背中をドンと押す力はあると思いますが、いわゆる「仏様の指」のような繊細さと慈愛はなかったように感じました。まあ、アメリカそのものですからね、彼は。アメリカにそんなことを期待してもしかたありませんか。
ずいぶんと辛口なことを書いてしまいましたが、「大志」と、そして「義侠心」と「利他の精神」を持った若者には、大変に有用な本だと思います。おっしゃることはほとんど全て正しい。しかし、それを全て実現して満足する、そんな若者にはなってほしくないと思う、今日この頃のワタクシでありました。
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