『マタイ受難曲(バッハ作・メンデルスゾーン編曲)』 シュペリング指揮
バッハのマタイ受難曲全曲を演奏するというのは、古楽奏者なら一生の夢ですよね。今日はそれが叶うチャンスだったのですが、それ以上に重要な仕事があったので、泣く泣くお誘いをお断りしました。はたして死ぬまでにもう一度チャンスがあるでしょうか…。
そう、今日はムジカ・ポエティカによる「マタイ受難曲」全曲演奏会が行われたのです。結局聴きに行くこともできず、非常に残念でした。
上記サイトにありますように、今回は通奏低音にジルバーマンのフォルテピアノが用いられるなど、実験的な要素も多く、また知り合いの演奏家がたくさん出演されていることもあって、非常に興味深い内容だったのです。
今回は残念ながらご縁がなかったということですか。というか、私自身、マタイについて、あるいはキリスト教についてまだまだ勉強不足ですから、時期尚早と判断されたのでしょうかね、神様に。
バッハのマタイ受難曲は、言うまでもなく人類史上最高の音楽の一つです。それはすなわち宇宙史上最高の音楽であることをも意味するでしょう。おそらく高度な知能を持った宇宙人なら、この音楽を深いところで理解できるはずです。ある意味これ自体が一つの宇宙なのです。
こんな人間の智恵の結晶のような作品でありながら、バッハ存命当時はそれほど高い評価を得られませんでした。ご存知のように、世に広く知られるようになったのは、メンデルスゾーンによる蘇演ののちです。つまり、理解されるのに100年かかったということでしょうか。他の芸術分野にもそういう天才的作品というのは多々ありますね。
さて、今日は自分が演奏できなかったから、というわけではありませんが、まあ毎年レント(受難節)には必ず誰かの受難曲を聴いていますので、家で一つ選んで聴いてみました。それがこれ。我ながら意外なところをついてきた(笑)。
メンデルスゾーンは14歳の誕生日に祖母からマタイの筆者譜をプレゼントされました。ロマン派の天才少年はバッハの音楽の深さ、恐ろしさを瞬時に感じ取ったと思われます。そして20歳の時、ついにその蘇演の機会を得ます。
当然、時は流れています。バッハの時代の音楽はある意味古くさい様式でしたし(おそらく私たち現代日本人が江戸の歌舞伎や浄瑠璃を見聞きするのと同じような感覚では)、だいいち楽器がありません。ですから、通奏低音のチェンバロは当然のごとくピアノ(フォルテピアノ)で代用されました。その他、オーボエ・ダモーレはクラリネットで…などなど。
そういう意味では、今回のムジカ・ポエティカの演奏は、バッハとメンデルスゾーンを結ぶ試みとも言えますね。ピリオド楽器とモダン楽器が混ざっていますし。
私は詳しくは知りませんが、メンデルスゾーン版は微妙に和声も「現代風」になっているとか。また、とにかく3時間以上に及ぶ大曲ですから、一部カットして短くしています。当然の措置でしょうね。当時の音楽は「礼拝」ではなく「演奏会」のためのものでしたから。
さて、それで今日聴いたのは、1829年の蘇演としての初演のものではなく、のち1841年にバッハゆかりのライプツィヒ聖トーマス教会で行われた再演の蘇演(復元)ということになります。
ここでは、さらに面白い音世界が広がっています。レチタティーボを支えるコンティヌオの和音は、チェンバロでもなくピアノでもなく、なんとコントラバスとチェロ(!)です。これはこれでなかなか味わい深いものがありますよ。そして、初演で割愛されたいくつかのコラールやアリアが加えられています。
考えてみると、1841年と言えば、産業革命の同時代的「気分」も高まり、まさに「神なき時代」を迎えようとしている頃です。そういう中で、バッハのマタイ受難曲という「芸術」自身が「神」になっていった過程として、この事件をとらえるとまた興味深いものがありますね。そして今に至ると。もちろん私にとっても。
ちなみに、バッハのもう一つの大受難曲である「ヨハネ受難曲」は、シューマンによって1851年に蘇演されています。そちらのこれまた蘇演であるマックス指揮の録音では、フォルテピアノがジャラジャラ鳴っていまして、おそらく今日の武久源造さんの演奏もかくありけるかと思わせるものがあります。いや、武久さんのことだからもっと派手にやってくれているのでは…笑。う〜ん、やっぱり聴くだけでもいいから行きたかったなあ。
とにかく、マタイもヨハネも、ぜったいに死ぬまでに弾きたい!!そのためにはまずは勉強ですね。
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