『霊の発見』 五木寛之・鎌田東二 (角川文庫)
霊といいますと、なんとなく、胡散臭い、あるいは嘘臭い、あるいはただ恐い、そんな感じを持つ方も多いと思います。とにかくあんまりそういうことを言っていると、現代においてはかなり怪しまれるようです。あるいは逆にメチャクチャ尊敬されるか。
この前、「鬼=もの」について書きましたね。昨日も「権現さま」の話を書きました。私はそんな感じで、自分の「モノ・コト論」の中で「モノ」を扱っているために、それほど抵抗はありません。また、もともと科学で証明できるものとか、目に見える、耳に聞こえるものの方が「全体の一部」であるという、実は当たり前のことを認めている立場というか、実感としてそれらに対する「その他」を認めて生きてきた人間ですから、一般の人よりもかなりそういう世界に近いところで生きている方かもしれません。
さて、この本ですが、なかなか内容が濃い。あの五木寛之さんと、「霊学」や「言霊学」の専門家にして、神道ソングライター、そして現在は京都大学こころの未来研究センター教授としても御活躍の鎌田東二さんの対談ですから、それは面白くなりますよね。
ここで語られる「霊」は、いわゆる死者の魂的なものだけではなく、神仏や物の怪など、それこそ「その他大勢」にわたっています。それは当然ですよね。我々の知っている「コト」より、知らない「モノ」の方が圧倒的に多いことだけは確実ですから。
五木さんはまあ作家さんですから、そういう世界をいくらでも表現できる立場だと思いますが、鎌田さんは学者さんですから、なかなか難しいとも思うんですよ。なにしろ、「霊」は、まさに「学問」や「科学」の補集合だからです。
鎌田さんの御著書は何冊も読んできています。特に「言霊」に関する学術的な研究書には大変お世話になっているとも言えます。それらでもそうでしたが、とにかく、そういう世界に対するアプローチのしかたがしなやかでしたたかなんですよね。自然体の強さというか。
普通、そういう世界を対象にすると構えちゃうと思うんですよ。胡散臭くならないようにするために。しかし、さすが御本人も神主さんであられ、また、石笛などを演奏される、それこそ「霊的」な生活を普通にしている鎌田さんですから、その辺のアプローチが本当に自然なんです。正直うらやましく思います。
この本が出版された2006年は、いわゆるスピリッチュアル・ブームの頃です。それらが商売になった、ちょっと異常な状況でした。それらがカネになり、そして一方で批判されていたのは、やはりそこに胡散臭さか伴っていたからでしょう。その胡散臭さとは、そうした本質的な実感を実は持っていない、すなわち霊的な生活体験を本当はしていない人々が、無責任に語りすぎた結果だと思います。
私は美輪明宏さんや江原啓之さんに関しては、それなりに認めていたわけですが、ただその取り巻きというか、メディアの側というか、カネもうけをしようとした側の胡散臭さは、やはり感じていました。
結果として、あのブームは、私たちから「霊的」な世界を遠ざけてしまったと思っています。
おそらくそうした風潮を受けての対談であり、出版であったのでしょう。無責任なメディアとは大違いで、実に深く重い、しかし肩ひじ張らない対話が展開されています。つまり「善意」に満ち溢れているのです。やはり「畏敬」こそ「愛」であり、「魂」であり「善意」なのだなあと再確認。現代にはそれらが欠けているのです。
今までそういう世界に抵抗があった方も、また逆に必要以上に(?)興味を持っていた方も、ぜひこの本を読んでいただきたい。私たちが知っている世界はあまりに狭いということもわかります。そして、「その他」の世界を知ることによって、我々の人生が確実に豊かになるということもお解りになるでしょう。
私がいちおう専門に勉強している出口王仁三郎も、もちろん世界史上最強の霊能者として何度も登場します。また、私の運命を変えた、富士北麓に伝わる古文書のことも一言出てきます。
私の心の中の風景を知りたい方もぜひお読みください…って、そんな人いないか(笑)。
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コメント
こんばんわ。なんとも素敵な本をご紹介して下さいましてありがとうございます。
今からの私にとっても、必要不可欠になる「霊的日常」。
五木寛之先生の著者は何冊か読んだことがありますので、是非とも勉強させて頂きます。
魂の恩恵の元に…
投稿: 里沙 | 2010.02.09 21:22
里沙さん、こんにちは。
これは本当にいい本ですよ。
ぜひお読みください。
五木さんのこの対談シリーズは全体に面白く勉強になります。
投稿: 蘊恥庵庵主 | 2010.02.10 17:54