『猫の事務所』 宮沢賢治
宮沢賢治はくせものです。いまひとつ踏み込めない領域です。これからの挑戦事項の一つとも言えますね。恐いけれど楽しみでもあります。自分が成熟しないと、ぜったいに分からない世界です。
ずいぶん前に『銀河鉄道の夜 第3次稿〜』という記事を書きました。実は今日、そこにも登場している、あの名作DVDを子どもたちと観たのです(とりあえず冒頭部分だけですが)。たしかにあれは、世界に誇る名作日本アニメ映画ですが、やっぱり何かが欠落している感じがするんです。綺麗すぎるというか。
もちろん、子どもたちにはあれでも充分すぎるほど難解だと思いますよ。でも、それでもやっぱりその深奥に潜む「魂」の震え、わななきというようなモノはなかなか表現できていないと思います。
そういう意味において、その他の作品、たとえばこの「猫の事務所」や「よだかの星」が小学校や中学校の「道徳」の教材として使われたりするのが、私は生理的に許せません。「いじめや差別はいけませんね」って、おいおい、そういう表層の問題ではないだろと。
宮沢賢治を理解するために(実はそれが第一目的ではないのですが)やっているのは、戦前の「心霊ブーム」についての研究です。それは現在のスピリチュアルブームや新宗教ブームとは比にならないほどの熱烈さと社会的、そして芸術的影響がありました。ある意味、民主主義や科学や戦争などというもの(たいがい輸入品ですね)さえも、そういうスタンスでとらえられていた時代なのです。
そういう時代の象徴的産物が宮沢賢治作品群であると、まあ私は単純にそう考えているわけです。ですから、戦後ぬくぬくと育ち、生命の危険もそれほど感じず、日本の伝統的文化さえ知らず、心霊世界をオカルトとして楽しんだり蔑んだり商売にしたりする現代っ子の我々は、そんなに簡単に賢治を理解できるはずがありません。
特に日教組的な教育現場では、その理解は本当に難しいし、逆に誤った解釈が助長されてしまうでしょう。実に憂慮すべき事態だと思います。
ただ、子どもたちに対して、そういう深奥の部分を予感させておくというのはありだと思います。その点、あのアニメ映画は貴重であるし、よくできているとも言えますね。来年度中学で見せたいと思っています。逆に言えば、原文を授業で扱うのは憚れるということであります。
さてさて、そんなわけで、大人の皆さんにぜひ読んで考えていただきたいのが、この「猫の事務所」です。ウチも今、猫がたくさんいまして、最近は外猫まで家に入り込んできて、まあそれこそ、いろんな人間模様…ではなく猫模様が展開しております。人間界で言ういじめの構造もできあがっていますし、孤立している猫もいます。でも、そこで、たとえば人間様が「はい、解散!」と言ってしまうのはどうでしょうか(笑)。やっぱり、この作品をしっかり味わうには、宗教や心霊の勉強をしなくてはなりませんね。
最後の「僕は半分獅子に同感です」は、実に面白い。私はその意味がよく分かりますが、皆さんいかがですか?
私、大人の皆さんにだったら授業できそうです(笑)。
Amazon グスコーブドリの伝記―猫の事務所・どんぐりと山猫
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コメント
こんにちわ。
戦前の日本で表現されていらっしゃった方達は、その本質と向き合っていたのでございましょう。
しかし、戦後生まれの私達は、その本質から逃げる事。曖昧にする事。うぬぼれる事に嫡子してきたように思われます。
私は、只今、その真実に気付き始めております。
誠の心は、鬼のこころ。
幾日か前の、山口先生の記事が
今になって身に染みます。
なんだろうか・・・私は何も考えずに、ただ、タイピングしてるだけです。
きっと今からもそうでございましょう。
私を私と思わないで下さい。
投稿: 里沙 | 2010.02.17 14:33
里沙さん、こんばんは。
そうですね。戦前の表現者はそれまで見えていた本質が見えにくくなってきたので、けっこう躍起になっていたんですよ。
戦後はもうほとんどその気配する残されていませんでしたから、一部の天才が霊脈によってそれを感じ取って表現していただけです。
志村くんは平成の世において、本当に貴重な存在でした。
投稿: 蘊恥庵庵主 | 2010.02.17 18:26