『バカポジティブ』 関根勤 (ヴィレッジブックス新書)
軽くて重い本。さっと読めてしまうけれど、ずっと残る本。
一昨日の「ものまね」記事に登場した清水ミチコさんとも仲良しの関根勤さん。彼は自分のものまねを「その人に対する屈折した愛情」と表現しています。それもある意味私からすれば、相手との一体化、すなわち「もの(霊・他者)まね(招く)」を表現した言葉だと思っています。
思えば、彼を初めて見たのは「ぎんざNOW!」の素人コメディアン道場でした。私は小学4年生くらいだったかな。正直その時は、これほど息の長い芸人さんになるとは思いませんでした(失礼)。
その知性と人柄が感じられる芸と、芸能界での存在感はいかにして醸し出されてきたのか、それがはっきり解るこの本の内容でありました。ある意味芸能人らしからぬ所こそ彼の芸人としての個性なのです。
「バカポジティブ」…これに関しては、ある意味私も負けませんよ(笑)。「ポジティブ・シンキング」ではなくて、まあ根っからの「ポジティブ」ですからね。いやいや、やっぱり私も彼と同じように、暗く辛い青春時代の裏返しとしての「ポジティブ」かもしれないな。ポジティブとは、ネガティブの存在が前提となるのかもしれません。
性悪説がたぶん正しいのと同様に「性ネガ説」を私は支持します。私たちはそうして生まれて、どこかでそれを乗り越えて(悟りを得て?)「善」や「ポジ」になっていくのでしょう。それをして、「偽善」とか「偽ポジ」とか呼ぶのもいいでしょう。たしかにそういう部分もあるからです。
私はどこかで「真善とは神仏以外にあり得ないので、偽善が人間界では最上」というようなことを書きました。それと同様に「偽ポジ」は「真ネガ」よりエライと思うんですよね。
この本を読んで、「謙虚」についても同じように思いました。誰しも「目立ちたい、偉ぶりたい、人より上に立ちたい、自慢したい」というのは生来持っていると思います。それを、ある「経験」を通じて、ある「智慧」を得て克服していく。それは実に難しいけれど、それを実現した人は立派です。「偽謙虚」が人間界では最上なのです。
まさに関根勤さんは、「偽善」「偽ポジ」「偽謙虚」「偽いい旦那」「偽いいパパ」です。こんなこと書くと一瞬失礼な!と思われてしまいそうですし、御本人は一瞬むっとなさるかもしれませんが、先ほど書いたように、考え方を変えて冷静に見回してみますと、やはりそれらの属性は後天的に、ある種の苦しみの中から、ある種の努力を経て獲得したものであると思うのです。それは本当に立派なことです。
芸能界という、そういうことの為し得にくい環境の中で、それを地道にやってきたからこそ、きっと今の彼の立場があるに違いありません。
彼は無類の格闘技好きです。そういう面でも親近感を覚えるわけですが、たとえばプロレスにおいても、「ベビーフェイス」や「ヒール」と言った「演技」が必要なように、人生にもそういうことが重要だと思います。私たちは他人からの評価、査定によって、初めて自分の人格を形成できます。ある意味演じているうちに、それこそが実際の自分になっていくのです。「自分に正直」とか「生まれた時の姿のまま」というのは、実は努力不足であったりするので注意が必要です。自分に正直だと、だいたい人は不機嫌になります。それをゲーテは「怠惰」と呼びました。
関根さんは、そんな意識を持っていないかもしれませんし、純粋にご自分を高めていらっしゃったに違いないのですが、きっと私のこの「屈折した愛情表現」を解って下さると思います(たぶん)。
浅井企画にいた教え子の芸人が、ずいぶんと世話になったようです。いや、今でも可愛がってもらってるのかな。私にとっても、彼らは「手のかかる、世話の焼ける、でもほっとけない」カワイイ教え子なのです。きっと関根さんにとってもそうなのでしょう。そういう意味では、教育に関する「ツボ」が一緒なのかもしれませんね。いや、単にあいつら変すぎるので、自分の趣味として楽しんでいるだけとも言えるかも(笑)。ま、実はそういう「人間に対する興味」こそが、「教育」であり、「愛」であり、「善」や「ポジティブ」や「謙虚」の基本なのかもしれませんね…。
とにかく、この本、私としてはとっても同感な部分が多く、いや、それ以上に「すごいな〜」という部分が多く、本当に感動しました。やっぱりある世界で一流になって、しかし目立ちすぎることなく、つまり憎まれることなくやっていくには、こういう生き方をするのが一番いいのだなと。
一度お会いして直接教えを頂きたいものです。教え子くんに頼んでみようかな。
あっ、ちなみに一番参考になったのは「シモ」の話でした(笑)。
Amazon バカポジティブ
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コメント
こんにちは。以前に一度コメントさせて頂いたおもちと言います。
「偽善」の話、とても面白かったです。庵主様とは少し角度が違うとは思いますが、藤原さん(バンプ)も昔、アルバム「orbital period」発売当時のインタビューで「偽善最高!」ということをおっしゃっていたので。さすがに「最高!」なんて言い方はされてなかったですが(笑)。「偽善は悪いことみたいに世間一般では言われてるけど、決して、悪いことだとは決め付けられない。偽善以上のものってあるの?」みたいな内容でした。藤原さんの説明は、正直、分かりにくかったのですが、庵主様の文章を読んでストンと納得がいきました。
それと、「自分に正直は、実は努力不足」の指摘にもドキッとしました。本当にそうかもしれません。。。自分を甘やかしてるだけなのかもと、自分を省みて反省するところが大いにありました。
関根勤さん、私も好きです。でも、私はむしろ娘さんの関根麻里ちゃんの方が好きです。笑顔が可愛いし、あの「お父さんちょっとウザイ」という私にも身に覚えのあるアノ感じが面白いです(笑)。そして、私服のセンスが悪い(らしい・笑)ところもキュートだなぁと思います。
それでは、長々と失礼致しました!
投稿: おもち | 2010.02.24 01:06
おもちさん、コメントありがとうございました。
そうですか、藤原くんもそんなこと言ってましたか。
彼もここを読んでいるというウワサなので、もしかすると…(笑)。
麻里さんのことも書こうと思ってて、つい忘れてしまっていたので、コメントで触れてくれて助かりました。
まったく同意します。
彼女をテレビで観るのをひそかに楽しみしているんです。
投稿: 蘊恥庵庵主 | 2010.02.24 09:01