『出口王仁三郎 帝国の時代のカリスマ』 ナンシー・K・ストーカー(著)井上順孝(監訳) 岩坂彰(訳) (原書房)
昨日の「銀河鉄道の夜」にも、エスペラント語がたくさん出てきました。作中、いろいろなところに書かれている謎のアルファベット群は、エスペラント(人工国際語)です(関係記事はこちら)。
宮澤賢治がエスペラントに興味を持ったのは、友人の佐々木喜善の影響であると思われます。喜善は柳田国男の「遠野物語」の成立にも大きな役割を果たした民俗学の研究者です。彼は大本の信者でエスペラントの講師も務めていました。言うまでもなく、大本の聖師出口王仁三郎は、その宗教的思想を実現するメディアとして、この人工国際語を称揚しました。
そのあたりの事情もこの本には詳しく書かれています。
まあ、とにかくこの本は勉強になりました。立派な学術論文にして、最も平易な王仁三郎入門本となっていると思います。これは画期的なことですね。
そのような一見両立し難いことが実現したのには、ひとえに筆者が外国人であったということが大きく関わっていると言えます。今まで、本当に多くの人々が王仁三郎について書こうとし、そして実際書いてきたわけですが、それがなかなか作品として魅力を帯びるのが難しかった。それは、王仁三郎が言語化しにくい存在だからだと思います。
王仁本の中で稀有に魅力的なのは、出口京太郎さんの「巨人 出口王仁三郎」と出口和明さんの「大地の母」です。これらはもうお分かりのとおり、「身内」による作品であり、だからこそ書ける王仁三郎の本質があると同時に、どうしても完全に客観的とは言い難い面も現れてしまいます(もちろん、それこそがこれらの本の「物語」としての面白さなのですが)。
しかし、一方で学問的にアプローチしようとすると、先ほど書いたように、学問の手段である「言語」が言語でなくなってしまう、すなわち私の言い方ですと、「コト」が「モノ」になるという事態に陥るのです。ですから、日本の宗教史、いや近代史を語る上で、ある意味「天皇」と同等に重要であるはずの王仁三郎が、なかなか学問の対象にならなかったのです。「天皇」も同様でしょうか。物語にはなりえますが、歴史にはならない。つまり、学校では教えられないと。
そんな中で、この画期的な「学問」を成し遂げたのは、やはり外国人でした。面白いですね。英語という異言語、ミーディアムを介した結果、こういう奇跡が起きるんですからね。その現象自体が王仁三郎的ですよ。
やはり、王仁三郎はこうして最低限でも(!)世界レベル、地球スケールでとらえないとダメなのです。そういう俯瞰の位置から、しかしその全体を見るのではなく、それぞれの側面をそれぞれの視点で研究し、それをモザイクのように組み合わせて、ようやく全体像が見えるのです。それほどの大化け物ですから、いきなり全体をとらえようとすると呑み込まれて動けなくなります(偉い人たちが王仁三郎と対峙して身動きできなくなっている様子はこちらを参照)。
筆者ストーカーさんは、実に面白い側面に注目しました。それは、宗教家としてはなく、また予言者としてでもなく、芸術界としてでもなく、一人間としてでもなく、「カリスマ的宗教起業家」としての側面です。
それが奇跡的に功を奏しました。近代化の波の中におけるそうした「起業家」的側面は、見事、他の側面をも照射する結果となったのです。
実は、今回この本を9月頃からじっくり何度も読んでいたのです。それは、まさに自分が今「起業」しなければならない立場だったからです。中学校の新設です。
私の中では、「起業家」とは、単純に「世の中のニーズにこたえる自分を、多くの人に知らしめることができる人」だと思っています。つまり、時代のメディアをとことん利用して、世の中のニーズをとらえ、一方でそれに応えるアイデアを持つ自分の存在を、これまたメディアを使って発信する能力に長けている人ですね。
これを、ワタクシ流に言うなら、「自分自身が最強メディア(ミーディアム=霊媒師)になる」ということなのです。王仁三郎はそういう意味で、本当に尊敬すべき、目標にすべきカリスマであります。
本当に私の実務的にも勉強になりました。この本とこういうタイミングで出会えたのも、ありがたい奇跡であり、お導きであったと思います。
最後に、この奇跡をもたらした「優秀なメディア(ミーディアム)」のお二人の隠れた偉業についても書いておきましょう。監訳の井上順孝さんと、訳者の岩坂彰さんです。日本語→英語→日本語という、実は最も難しい作業(その難しさはこちらを見ればわかりますね…笑)を、ここまで完璧に為しえたお二人に、我々日本人は感謝せねばなりません。本当に読みやすい。
おそらく、現代が王仁三郎を欲しているのでしょう。王仁三郎的世界観に飢え乾いているのでしょう。だからこそ、この奇跡が成就したのだと思います。そして、おそらく、それは王仁三郎の計画(仕組み)通りだと思いますよ(笑)。
やっぱり、21世紀は「コト」より「モノ」の時代だ!
Amazon 出口王仁三郎
楽天ブックス 出口王仁三郎
| 固定リンク
「経済・政治・国際」カテゴリの記事
- 『もしも徳川家康が総理大臣になったら』 武内英樹 監督作品(2024.08.16)
- 【厳秘】大戦終末に関する帝国政府声明の骨子(その3)(2024.08.15)
- 【厳秘】大戦終末に関する帝国政府声明の骨子(その2)(2024.08.14)
- 【厳秘】大戦終末に関する帝国政府声明の骨子(その1)(2024.08.13)
- 模擬原爆パンプキン(2024.08.09)
「書籍・雑誌」カテゴリの記事
- 南部と津軽と甲州と…(2024.07.31)
- 死なない力(2024.07.18)
- 『今永昇太のピッチングバイブル』 (ベースボール・マガジン社)(2024.07.17)
- ハイデガーVS道元…哲学と仏教の交差するところに、はじめて立ち現れてきた「真理」とは?(2024.06.03)
- 日本語はどこから来た?(2024.06.01)
「文化・芸術」カテゴリの記事
- いかりや長介と立川談志の対話(2024.08.19)
- 九州人による爆笑九州談義(筑紫哲也、タモリ、武田鉄矢)(2024.08.18)
- 全日本プロレス祭 アリーナ立川立飛大会(2024.08.17)
- 『もしも徳川家康が総理大臣になったら』 武内英樹 監督作品(2024.08.16)
- ラモー 『優雅なインドの国々より未開人の踊り』(2024.08.12)
「文学・言語」カテゴリの記事
- いかりや長介と立川談志の対話(2024.08.19)
- 九州人による爆笑九州談義(筑紫哲也、タモリ、武田鉄矢)(2024.08.18)
- 富士山と八ヶ岳のケンカ(2024.08.10)
- 上野三碑(こうずけさんぴ)(2024.08.06)
- 東北のネーミングセンス(2024.07.28)
「歴史・宗教」カテゴリの記事
- 九州人による爆笑九州談義(筑紫哲也、タモリ、武田鉄矢)(2024.08.18)
- 『もしも徳川家康が総理大臣になったら』 武内英樹 監督作品(2024.08.16)
- 【厳秘】大戦終末に関する帝国政府声明の骨子(その3)(2024.08.15)
- 【厳秘】大戦終末に関する帝国政府声明の骨子(その2)(2024.08.14)
- 【厳秘】大戦終末に関する帝国政府声明の骨子(その1)(2024.08.13)
「モノ・コト論」カテゴリの記事
- ハイデガーVS道元…哲学と仏教の交差するところに、はじめて立ち現れてきた「真理」とは?(2024.06.03)
- 文字を持たない選択をした縄文人(2024.02.14)
- スコット・ロスのレッスン(2024.01.12)
- AIは「愛」か(2024.01.11)
- Re:Hackshun【目せまゆき&成田山幽輔】安倍さんは、あの解散をどう考える?(チョコレートプラネット チャンネル)(2023.11.21)
コメント
王仁三郎様の霊教で、今の日本の本質も変わるとよいですが…。
それを望みたいですね。
山口先生は、その教えを称え、伝えて未来に繋げるのでしょうね☆
私もその教えにじゅんじたいです。
いつも、色々と教えて頂きありがとうございます。
投稿: 里沙 | 2010.02.19 12:13
里沙さん、おはようございます。
いえいえ、私はまだまだ勉強中です。
ただ、本当に王仁三郎は魅力的なんです。
ちょっと知ると必ずファンになってしまいますよ。
投稿: 蘊恥庵庵主 | 2010.02.20 09:34