『YOUNG YAKUZA』 ジャン=ピエール・リモザン監督作品
まさに隠れた名作。日本では公開されませんし、DVDも発売されないでしょう。ですから、今のうち観ておいてください。
北野武監督と蓮實重彦さんの対談作品などでも有名なフランスの映画監督ジャン=ピエール・リモザンによる2008年作品です。ウワサには聞いていましたが、これはたしかにいいですね。
稲川会碑文谷一家熊谷組の「日常」を撮ったこの作品。ドキュメンタリーのようで、ドラマのよう、ノンフィクションのようでフィクョンのよう…実に異彩を放つ名作になりましたね。
まさに虚実皮膜の間。まるでプロレスの世界観のようです。いや、結局、ちょっと前にも書きましたように、こういうヤクザ界やプロレス界、そして芸能界など、本来の「物語」世界はこういうものなのでしょう。
2007年度カンヌ映画祭 ドキュメンタリー部門に出品されたこの作品。聞くところによると、この作品、熊谷正敏組長自ら撮影を提案したとか。たしかに、組長カッコよすぎます。絵になる男。目力、言葉力、そしてたたずまいが半端ではない。
他の組員たちも、途中まるで役者さんのように見えてきます。それほど自然でありながら、しかし、ちゃんとストーリーが感じられる。
かちんこも使って、ある程度のシナリオも組んで撮られたということですが、そのある意味美しすぎる各シーンが、まさに北野映画を思わせます。暴力の裏にある「優しさ」「愛」「切なさ」「悲哀」…やっぱり北野映画ですよね。
一般の仁侠映画や北野作品のような暴力シーンは皆無です。静かに淡々と「日常」が綴られていく。「非日常」はお見せできませんということでしょうか。
その結果、この作品における熊谷組長は、まさに「教育者」として映ります。いや、我々現代人が忘れてしまった大切な「モノ」を伝える伝道師のようでもあります。非常に正しいことを語り、そして「愛」に満ちている。たとえこれが多少のフィクションを含んでいるとしても、しかし、たしかに感動的であるのは事実です。
カトリック信者である組長が教会の神父さんを訪ねるシーンや、三社祭を颯爽と闊歩する姿には、どこか宗教的な香りさえしてきます。
ヤクザ世界の必要悪的な有用性については、今までも何度も語ってきました。私は単純なヤクザファンではありませんが、ヤクザ的世界の絶対的な必要性については認めています。
我々庶民が悪をなさないための抑制力であり、外敵から日本を護る防波堤であり、また資本主義における理不尽な富の偏在を再分配する役割を担うことは否めないと思います。それを弱体化してしまった私たちが、どんな危険にさらされているか、誰しもが肌で感じているはずです。
組長のみならず、いろいろな人の口から様々な名言を聞くことができます。ノンフィクションとしても面白い。フィクションとしても面白い。
なるほど、「美の国は道徳の世界より広大である」か。
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コメント
前略 薀恥庵御亭主 様
謹んで拝観させて頂きました。
仏道でも武道でも極道でも
「礼儀作法」は基本となります。
一般の御方様方よりも厳しい
日暮(ひぐらし)となります。
しかし・・・
これにも向き不向きがあります。
愚僧など・・・
逃げ出して出家したい気分です。笑
私も親父から厳しい「躾」を
受けた部分があります。
それは「ひとつ」だけ。
【自分より他人に「親切」にしろ】
それ だけでした。
それが一番の「礼儀作法」であります。
これが・・・いまでも
中々 実践できておりません。苦笑
合唱おじさん 拝
投稿: 合唱おじさん | 2010.01.21 17:32
合唱おじさん様、こんばんは。
ご覧いただきまして、ありがとうございます。
あのお茶の出し方など、禅宗の茶礼そのものという感じですね。
皮肉なことにこういうところに古き良きものが残っているのでした。
まったく、善惡とか聖俗とか、誰が決めるのでしょうね。
自分より他人に「親切」にしろ…深い言葉です。
彼らなど、自分の命はいつ捨ててもいいと思っているわけですから、
愛は負けても親切は勝つ…そんな言葉もありましたっけ。
投稿: 蘊恥庵庵主 | 2010.01.23 20:34