フジファブリック『若者のすべて』〜浜崎あゆみ『You were...』
フジファブリックの志村正彦くんが天に召された昨年のクリスマスイヴから、もう10日以上経ちました。
哀しみは消えることはありませんが、しかし、毎日彼の残してくれた財産をしっかりと享け取りなおしていますと、その哀しみよりも、彼に、彼の世界に出会えたことに対する幸福の方がずっと大きくなってきます。
この間、多くの方にコメントやメッセージをいただきました。その一つ一つがまた、私の気持ちをも代弁してくれています。ひたすら感謝です。
今日も中原中也 『我が生活』の記事に貴重なコメントをいただきました。里沙さんが、私の言いたかったことを全部言ってくれました。ありがとうございました。やっぱり生まれかわりなのかもしれませんね。
さて、志村くんの優れた作品の中でも、特に私が好きな詩、曲がこの「若者のすべて」です。まさに中原中也に匹敵する抒情と叙景、そしてライム、妄想力。あまりにシンプルな日本語と音楽に、「若者のすべて」が表現されています。これを聴いて泣かないオジサンはいないでしょう。これは「男」の世界です。男にしか分からないかもしれない…。
この詩は、ぜひ授業で扱いたいと思います。新しい中学の初めての入試が目前に迫ってきました。残念ながら私の夢自体は夢で終わってしまいましたが、しかし、「夢の続き」はいくらでも見つけられます。
「ないかな ないよな」と思って、そこで諦めてしまったら夢は夢のままです。「そっと歩き出して」みると、そこには想定外の「もの」が待っているに違いありません。あまりの想定外に「まいったな」としても、そこには「変わる」チャンスがあるのです。
だから、私も私の夢をあきらめません。頑張ります。ありがとう志村くん。
皆さんもぜひお聴きください。こちらでPVが観られます。
歌詞の中で、私がごくワタクシ的に感動し、志村くんの天才ぶりを確認したのは、「運命なんてものでぼんやりさせて」という一節です。今日はあまり詳しく書けませんが、私の「モノ・コト論」の中での「もの」に対する感覚を見事に彼は共有してくれていると思うのです。
「茜色の夕日(フジファブリック)」に見る「もの」と「こと」という記事にも書いたとおり、私は、古語も含め日本語の「もの」は「自己の外部、不随意、不如意、未知、無常、漠然」を表す語だと考えています。
この「若者のすべて」でも、志村くんはそういうニュアンスで「もの」という言葉をさりげなく使ってくれています。特に、「運命」を「もの」ととらえたのは素晴らしい。普通、「運命」というと最初から決まっている固定された「こと」を表すと考えられています。「運命ってことだな」という具合に。
この前も赤い糸という記事を書きましたね。あれもあくまで受け入れるレトリックとしての「赤い糸」だと思いますよ。
普通は私たちは「運命」という「こと」を受け入れるのです。それを、志村くんは、逆にぼんやりさせる手段として使っている。そこが天才たる感性です。「運命なんてものでぼんやりさせて」…この一節だけでも、空前絶後の「詩」だと、私は思います。
面白いことに、「モノ論」における私のライバル(?)、日本語学界の大御所、故大野晋さんが「モノとは動かし難い不変な運命のことである」と定義しています。ある意味それは正しいのですが、ある意味では「運命」の本質をとらえていないとも言えます。彼は客観的すぎたのです。あくまで言葉は主観から発するものです。志村くん(と私?)は、あくまで、それを受け入れる対象としてではなく、「あきらめる」対象としてとらえたわけです。「詩」の感動とは、「主観」の共感にほかなりません。学者の学問(客観の共有)とは次元が違うのです。
おっと、ちょっと語りすぎましたね。
長くなりますが、今日は一つ、この「若者のすべて」と不思議なリンクをしている曲を紹介します。たまたまこういうタイミングで発表されたからこんなふうに受け取れるのかもしれませんが、あまりに偶然なシンクロがあるもので…。
もう一方の天才詩人(だった?)浜崎あゆみの新曲です。志村くんの死がなければ、単なるクリスマス失恋ソングだったのかもしれませんが、今のフジファブリックファン、志村正彦ファンの気持ちはまさにこんな感じでしょう。「夜空」「夢の続き」「忘れられたら楽だね だけどひとつも忘れたくない」…まるで物語の続きのような詩です。志村くんの男の世界とはある意味対照的な女の抒情詩がここにあります。
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コメント
時々お邪魔させていただいてますikukoです。
中原中也さんの記事、読んでたのですが、
里沙さんのコメントが入る前だったので、
今、あらためて読ませていただきました。
私も里沙さんと同じように、志村君達の音楽と言葉に触れて
自分を取り戻したひとりです。
フジファブリックを知った当時は、自分が消えかけてるコトにも
気づいていない状態でした。
それだけに、逝ってしまったことが、
すごくショックでした。
だけど、先生の告別式の記事で
「志村くんの才能に甘えていたのかも」という言葉で、ハッとしました。
私もきっとそうだったのだと思います。
まだまだ、表現していけそうにないんですが、
そうやって、みんなが、どこかで誰かと繋がっている事、
志村くんの残してくれたもの達を
自分なりの言葉で、誰かに伝えて行きたいと
今は、思っています。
投稿: ikuko | 2010.01.07 10:25
はじめまして。
以前から拝読させていただいてました。
フジファブリック。私は「桜の季節」から知ったのですが、そのときはまだ入り込めず。『クロニクル』で引き寄せられ、それから過去の作品も聴き直して、その味わい深さにハマっていったときだったので、とてもショックです。ライヴもイベントで2回観ただけで、いつかワンマンと思っていたのに叶わなくなってしまって。
でも、イベントで2回だけでも観れたことは幸運だったと思っています。
自分より若いミュージシャンで、まさに今好き!という方が亡くなってしまったのは、初めてのことでした。そして、突然のことでした。
しかし、それはきっと、志村くんが何かを私に教えてくれているんだと、自分勝手で都合良い解釈かも知れませんが、思うことにします!
そして私は、浜崎あゆみさんも大好きでして、でもなかなかこう、フジファブリックと繋げてくれる人がいないというか(笑)、だからそれが嬉しくて、今回コメントさせていただきました。以前に、浜崎あゆみさんに関する記事も読ませていただいてます。
それに、志村くんの訃報を知って、私が想いをめぐらせた曲がまさに「若者のすべて」だったので(自分のブログでも「若者のすべて」というタイトルで記事を書いてました)、そこにも反応せずにはいられず、コメントさせていただきました。
そっか。「You were...」が私の中でまたグッと深みを増します。ありがとうございました。
初コメントなのに、長々すみませんでした。
投稿: pineapple | 2010.01.08 00:10
はじめまして。
自分が志村さんについてのあれこれをまとめるにあたって泳いでいたら辿り着きました。
志村さんの特に歌詞は、あれから見返しても見返しても底知れぬ深さで、
そうやって彷徨っている最中に素敵な文章を読ませていただきました。
本文と逸れますが、彷徨ってる中で僕がすごく感じたのは、
各曲の冒頭の歌詞の秀逸さでした。
そこから一気に志村さんの世界が始まって。
鮮やかすぎますねー。
…と、いきなりお邪魔しました。
どうもありがとうございます。
投稿: いぬたく | 2010.01.08 10:56
私が素直に感じたコメントを日記にてご紹介して頂いて本当にありがとうございました。
実は、庵主さんなら私が感じた事を理解して下さり、受け取ってくださると感じたので、コメントさせて頂きました。
今日、久しぶりに庵主さんの日記を見ていたときに、私のコメントのことがかかれてあったので、とても嬉しかったです。本当にありがとうございました。
それと同時に非常に嬉しかった事は、庵主さんが私と同じ思いでいらっしゃったことです。
やはり、運命的なコメントだったのでしょうね。
私も今、志村さんが残してくださった音楽や思いに出会えた事の幸福の方が大きいです。
先日、「スペースシャワー」の金澤さんのコラムを読まさせて頂き、金澤さんへ、メールを送らせて頂きました。
必ず、志村さんは志村さんの愛していらっしゃった仲間のそばで、ずっとフジファブリックでい続ける事。
そして、何より、今からのフジファブリックの一番のFANであるという事をお伝えさせていただきました。
そして、民生さんの事、こちらでコメントさせていただいた事も綴らせていただきました。
志村さんの大きな愛(魂)はずっと、フジファブリック愛していらっしゃる方達に、降り注いでくださると確信しています。
それだけ、大きな愛なのです。
庵主さんがおっしゃっていた、「志村さんの才能に甘えてはいけない」。その通りだと思います。
志村さんは、音楽を通じて、私達が感じなければいけない感情を代弁して伝えてくださった。
だからこそ、これからは、志村さんから与えていただいた「愛」を私達が素直に感じていかなければならない。
すごく大きな「使命」を全うされた志村さんに、これからは、私達が志村さんから与えて頂いたものを、愛を未来へ繋げていく番だと思います。
どんな形であれ、素直に感じる「愛」、光へ繋がる「愛」は伝わるし、全ての宇宙で繋がるのですから。
私は、毎日、職場へ行く時、家に帰るときに、車の中でフジファブリックの音楽を聴いています。
純粋で、素直な詩と音楽に触れると、私の中にあった不純なものが浄化されていくのです。
志村さんの音楽は人の心を癒して、不純な気持ちを取り払ってくれる不思議な力を感じるのです。
これからも、ずっと、生きる知恵を下さると確信しています。
長くなりましたが、またお邪魔させて頂きますね。
投稿: 里沙 | 2010.01.11 18:20
今ちょうど、富士吉田では「夕方5時のチャイム」が鳴りました。
毎日、胸に響きます…。
投稿: 蘊恥庵庵主 | 2010.01.15 17:04