『誰がヴァイオリンを殺したか』 石井宏 (新潮社)
昨日に続きまして、石井宏さんの本。
こちらも私に深い関わりのある内容。よって楽しく読めました。
今日、ニュースでモーツァルト6歳のバイオリンが紹介されてましたね。下にある写真です。これですよ。6歳のモーツァルトが見たら驚きますよ。何?これ?って。
そう、ヴァイオリンに限らず、楽器というのはどんどん近代化が進み、生まれた時の形も音もほとんど残っていないのですね。
下の写真で言えば、あご当ても肩当ても本来はありませんし、指板もすげかえられています。あと分かりにくいのですが、駒や本体の中の魂柱やバスバーなども新しいものに代わっています。昔は(実はけっこう最近までなんですが)金属弦なんてありませんでした。羊の腸(ガット)を使っていました。つまり往時のままなのは本体だけということです。
そうした改造(改悪?)は、ほとんどが「大音量化」のために行われました。近代、現代がそういう方向に進んできたのはしかたありません。我々が望んできたわけですし、商業と音楽が結びつき、よりマスな「場」にこそ価値を見出すようになったわけですから。ロックのライヴなんか、耳栓必携ですからね(私は必ず持参します)。
そういう改造が施される前の、「本来の」ヴァイオリンはいったい、どういう音を奏でていたのでしょう。人の声(歌)を超えて人々を魅了したというその音色。私もそれを探し続けてウン十年(笑)。
最近少し分かってきたのは、やっぱり人を超えた天使と悪魔だということです。エレガントだったり野蛮だったり、まあ簡単に言えばとってもエロチックだったと。エロティシズムというのは、いろんな側面があるでしょう。それと同じような多様な魅力があったと思うんですね。そうした、人を超えた演劇性みたいなものが、バロックの時代性に合致していたと思うんです。
この前、悪魔のヴァイオリンについて書きましたね。この本でも、ヴァイオリンの本来のそういう面がたくさん紹介されていました。
特にパガニーニの再評価という部分は面白かった。当時の多くの芸術家が魅入られた彼の音は、きっととってもエロチックだったのでしょう。実生活での性豪ぶりは、今回この本で初めて知りました。やるな、パガニーニ。
私もいちおうヴァイオリン弾きのはしくれとしまして、そういう境地を目指したいところでありますが(笑)、まあいろいろな条件が整わず残念ながらパガニーニレベルまでは到達できそうにありません(当たり前か)。しかし、アマチュアならではの有利な面もあります。いろいろな社会的制約や常識を無視して実験やチャレンジをしても、まあそれほど非難されないですむわけですよ。
で、実は私なりにいろいろ考えているわけです。まあ、モダン・ヴァイオリンはほとんど弾かず、バロック・ヴァイオリンとエレキ・ヴァイオリンを弾いているというのも一つのチャレンジでしょうか。とは言っても、才能もないし、努力もしないし、なんの結果も出ていませんけど。
ただですね、石井さんみたいに、あんまり今のヴァイオリンやヴァイオリニストがダメだって言わない方がいいと思うんですよ。モダンにはモダンの魅力がありますし、モダン楽器のために書かれた優れた曲もたくさんあるわけですから。
バロック音楽を演奏する場合もいろんなアプローチがあっていいと思います。いつも言っているように、それって源氏物語を原文で読むか、現代語訳で読むかというような違いなんですよ。どちらにも意味も魅力もある。原文で読むのが絶対正しいなんて言えません。だいいち、原文で読むと言っても、その音韻も語彙も文法も完全に復元することなんか無理です。それ以前に、私たちは平安人ではありませんし。
しかし、そういういろんなアプローチの過程にこそ、我々が作品や歴史に触れる意味がある、そして我々が今に生きる価値があるわけですよね。
石井さんが異常なほどに評価している、バロック・ヴァイオリニストのアンドルー・マンゼ。そこまですごいでしょうかねえ。上手だと思いますが、それこそ色気が全然感じられませんよ。たしかに新しい表現を開拓した面はありますが、どうでしょう、彼がヴィヴァルディやあるいはパガニーニの時代に生きていて、人々を魅了することができたかどうか。はなはだ疑問です。絶対ステファン・グラッペリの方がうまいって!
ま、ここまで来ると、完全に趣味の問題ですよね。
ただ、石井さんのおっしゃる通りだと思ったのは、ヴァイオリンというのは、本当に弾く人によって音が違う。その人自身の音になってしまう。ほかの楽器よりそういう部分は大きいと思います。
私の音はけっこう個性的だと思いますよ。自分で言うのもなんですが、どんな楽器でもそこそこ響かせることはできると思っています。逆に言えばストラディヴァリだろうが、中国製の通販楽器だろうが、私にとってはどうでもいいのです。なんて、もうその時点で「私らしい」のでしょうか(笑)。
全然関係ありませんが…いや、大いに関係あるかも…、今日NHKの「どれみふぁワンダーランド」の再放送で、宮川彬良さんがクラヴィコードで(!)スティーヴィー・ワンダーを演奏していました。かっこよかった。ちゃんとバロック時代の衣装にあのヅラをかぶってましたよ。ちなみにチェロは思いっきりモダン楽器でした。でも、とっても楽しかった。ジャンルとかオーセンティックとか、どうでもいいなと思いましたよ。
明日、明後日、私はスズキの一番安いヴィオラにガット弦張って、バロック・ボウを振り回してバッハを演奏してきます。それ以前に、坊主頭に数珠して教会に乗り込むわけですからね。なんでもありです。ちなみに演奏する曲は「来たれ、異教徒の救い主よ」です(笑)。
PS 殺した犯人の一人が判明しました(こちら参照)。
Amazon 誰がヴァイオリンを殺したか
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