『明治・歌の文明開化』 (NHKドキュメント日本のうた100年…5)
たしかに素晴らしい番組でした。1997年に制作された「ドキュメント日本のうた100年」のうちの一つ。おととい「BS20年ベストセレクション」として放映されたものを今日観ました。いろいろなことを考えさせられましたね。
昨日、八ケ岳の麓でバッハを演奏してきました。来週とクリスマスイヴに行われるコンサートの練習です。BWV61「来たれ異教徒の救い主よ」やクリスマス・オラトリオからの抜粋。大変美しい。弾いている自分の心も洗われる。
しかし、一方では、どこか不思議な感覚にも襲われるのです。違和感とまでは言いませんが、しかし、どこかこそばゆいというか、これってありなのかな?というような…。
時々書いていますが…つまり、現代日本人でドイツ語もラテン語もわからん、そして、それこそ「異教徒」である私が、坊主頭に数珠を手首にぶらさげてバロック・ヴィオラを弾いて感動している姿が、はたして正しいものであるのか、ということです。
もちろん、基本いいかげんな私ですから、そんなことをいつも真剣に考えて悩んでいるわけではありませんが、しかし、時々そんな気持ちになるのも事実です。異文化にどっぷり浸かって、異文化をさも解ったように楽しみ、一方で自文化についてはあまり興味を示さないし、実際ここのところ日本の古い音楽を演奏することがほとんどありません。これでいいのか?
しかし、今日、この番組の録画を観て聴いて、はっと気づかされたことがありました。なるほど、異文化だからこそ解ることもあるし、自分のことには無頓着なのもある意味普通のことであり、そして、何よりそのような自他の区別自体に意味がないのではないか。あくまで一人の人間と文化との出会いなのだ、と。
昨日のコロンボにおける「ニッポン」の表現もそうですし、もう一つ前の記事に書いた、外国における「ギャル文化」の受容もそうです。たしかに、本家からするとつい笑ってしまうような状況ではありますが、しかし、それこそ浮世絵の「発見」のごとく、異文化からのアプローチによって初めて気づかされる価値や本質というものがある。「状況」と「本質」は違うのです。
番組では、前半は伊沢修二と滝廉太郎を中心に、明治の日本人がどのように西洋音楽を受容していったのか、日本人がどのように西洋化していったのか、しかし、逆にそれが「日本人としてのアイデンティティー」を強化していったのかが考察、紹介されていました。
当時の政治的な意図と、日本人の受容力の高さが合致して、ほとんど考えられないスピードで西洋化を実現してしまった歴史…それはもちろん音楽に限りませんが…にも、最近とても興味を持っているので、実に勉強になりました。
そして、後半、クローズアップされたのは、小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)です。実は、私の母方の曽祖父は、当時焼津で医師をしており、ハーンとは昵懇の仲だったということもありまして、私はハーンの「日本受容」「日本発見」という、ある意味鏡像的な歴史にも強く興味を持っております。
そんなこともあって、この番組で紹介された「瞽女唄」と、それを聴いて発せられたハーンの言葉には、本当に感動しました。感動というよりも、はやり発見ですね。これもまた私にとっては、異文化と自文化の発見に違いなかったのです。
新潟は黒川村胎内の施設に住む小林ハルさん。幼い頃から目が不自由だったため、生涯を瞽女として過ごした方です。ある意味最後の瞽女。放映当時97歳だったハルさんの歌と三味線。それはもう我々が知っている「音楽」というものではなく、もっと根源的な「うた」でした。音程?リズム?ハーモニー?そんなものは二次的なものにすぎません。
そして、その「瞽女唄」を聴いたハーンが書き残した言葉。これがまた素晴らしかった。これは外国人でなければ書けない文です。すなわち、異文化からの視点でなければ発見されなかった日本の歌の本質が、実に見事に表現されているのです。それがまた、私には大発見でした。涙が出ました。
今日は特別、その部分を皆さんにも聴いていただきましょう。こちらをクリックしてください。
本当に勉強になりました。解説で小島美子先生も知らないことがたくさんあったとおっしゃっていました。河内紀ディレクター、そしてNHKさん、まさにGJ!です。
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