太宰治短編小説集「女生徒」 (NHK BS2)
不覚にも、泣いた。ボロボロ泣いた。
最近実に涙もろいのですが、それは大変素晴らしいことでもあります。この種の涙は、きっと「世の中にまだ知らない美しいものがあった」という発見の涙なのです。だから、もっと泣きたいとも思います。
10月に放映されて、しかし、すっかり見忘れていた評判の映像を、今日再放送で観ることができました。たしかにこれは素晴らしい。
太宰も素晴らしいし、森山宏昭さんも素晴らしいし、NHKも素晴らしい。そして、なんと言っても、「女生徒」山下リオが抜群に泣けた…。
太宰の「女生徒」を現代の映像作品としてよみがえらせた佳作でした。どんな長編の映画にも負けない、美しく、脆く、澄みきった、そして実に嘘っぽい作品に仕上がっていました。
そうです。こうした虚構の美、「コト」の美、言葉の美こそ、太宰治の魅力そのものです。それを、お見事、現代に生きる言葉を抽出して、さらに現代の「コト」である映像を加えて、立派な作品に仕上げていました。
こういう換骨奪胎を許す「現代(今)性」…それが「普遍性」を超えた太宰の生命力だと思いましたね。
「少女のままで死にたくなる」…よくこの「女生徒」は現代の女子高生のブログみたいだなんて言われますけれど、とんでもない。こんな女子高生のブログがあったら、ぜひ紹介してほしいものです。ここまで、公共性を持った詩を書く女子高生がいたら、私は彼女の前に跪きますよ(笑)。
それは、あの当時でもそうでした。これからもそうでしょう。だから、普遍性を超えているというのです。悔しいけれど、この「女生徒」は天才です。そして、彼女は、どうしようもなく「男」なのでした。
それにしても、太宰のことを忘れて観てもまた、充分に感動的な作品でしたね。ウソがこれほど美しく泣けるとは、もうそれだけで私は満足です。
舞台となった土浦と古河の風景。それは田園であったり、里山であったり、これもまた見事に人工的な美しさを湛えていました。人間が「美」を感じ「涙」するスポットは、実は、まったき自然ではなくて、「人のワザ」の中にあるのですね。
その真実を悟って、こうして見せてくれる太宰は、悔しいけれど、残念だけれど、やっぱり神々しい男でした。
↓縦書き文庫で原作をどうぞ。
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