溜息をつく…
↓この画像には深い意味はありません。
生徒たちの入試結果が出始めて、まあいろんな溜息が出ること出ること。
そんな人たちに対して、お決まりの文句「溜息つくと幸せが逃げるよ」を駆使して励ましてくれる優しい友人もいたりして。まあ、この季節らしい風景であります。
今日もそんなシーンがあったので、私は思いつきでこんなこと言いました。「溜息ついてるうちは幸せってことだよ」。
たしかに本当に不幸な状況では溜息なんかついている余裕はありません。溜息には、どこか「慰めてもらいたい」という感情がこもっているような気がします。そして、その前提には、「慰めてくれる人がいる」という幸せな状況があるように思ったんですよね。実際、今日の状況はそうでしたから。
もちろん、独り言のように、一人でつく溜息というのもあります。しかし、それはまさに独り言であって、やっぱり「自分」という「聞いてくれる人」、そして「慰めてくれる人」がいる幸せな状況なのであります。
ところで、皆さんはどんな時に溜息をつきますか。やはり思い通りに行かない時、自分の無力さを感じた時などでしょうか。
ちょっと言葉のお勉強になっちゃいますけれど、「溜息をつく」の「つく」は漢字で書くとどういう字になるかわかりますか。そう、「吐く」です。これで「つく」と読みます。
同様な「つく」を使う用法としては、「嘘をつく」、「悪態をつく」などが浮かびますね。平安あたりの古い文献を見ますと、「ばり(糞)をつく」とか、「へどをつく」など、やや汚いもの、好ましくないものを体内から排出、排泄するという意味に使われています。
そんなところからも、「溜息」が古くからあまり良いものと思われていないことがわかりますね。
ハルヒも「憂鬱」・『溜息』・「消失」・「陰謀」・「分裂」・「退屈」・「暴走」・「動揺」・「憤慨」ですからね(笑)。やっぱり「溜息」はマイナスイメージです。
しかし、「一息つく」のように、悪いイメージではない用法もありますし、だいいち「溜息」自体が、常に悪い時にばかり吐かれるものではないことも忘れてはなりません。
たとえば、一仕事終えた時。これは安堵や達成感の「溜息」でしょう。また、ものすごい感動に出会った時。筆舌に尽くし難い時、まさに言葉にならない「息」が放出されたりします。
そう、いずれにしても、「溜息」とは、自らの力を大きく超えた何かに自分が支配された瞬間に吐かれるものなのですね。
私のいつもの「モノ・コト論」で言えば、言葉という「コト」、自分の脳内で処理できる「コト」を超えた「モノ」に出会った時の表現なのです。それは不随意・不如意の感銘ということになります。つまり、これもいつも言っている、本来の「もののあはれ」なのです。「不随意な状況、自らを超えた力を感じた時の嘆息」です。「あはれ」は「Ah!」ですから、まあ溜息と言ってもいいでしょう。
そう言えば、ヴェネツィアの「ため息橋」、あれは牢屋に入れられる前に囚人たちがそこからヴェネツィアの美しい風景を見て溜息をついたところから付けられた名前だと聞きました。まさに「どうしようもない運命を観じた」瞬間ですね。
で、少し冷静に考えてみて、なんで、人はそういう時に深く息を吐くんでしょうかね。呼吸、すなわち「いき」と言うのは、まさに「生きる」ことに直結した営みです。それを「溜め」て出すわけですから、やはり生理的、心理的に深い意味があるのでしょうね。
私も、気づくと溜息をついていることがあるのですが、そんな時は、これはまさに「空気の入れ換え」、リフレッシュだと思うようにしています。吐いて、そして新しい空気を吸うわけですから、幸せが逃げるどころか、新しい幸せを呼び込む行為なんですよ。
まあ、人から見ると、そりゃあ悪い空気を排出していることが多いわけですから、あんまりうれしくない状況でしょうけど、「ああ、あの人は今生まれかわった」と考えればいいわけでしょう。
そんなわけで、私は「溜息」をあんまりマイナスイメージでとらえていないんですよ。自分のも他人のもね。
そして、その溜息たちの共有こそが「もののあはれ」の美学だと思います。日本文化の大切な部分…溜息って、実はとっても重要な貴い行為なのではないでしょうか。
…と、ここまで書き終わって、ふぅ〜(今日もなんとかまとまったかな…いつも構想なしに書き始めるので、自分の力じゃない感じがするんですよね…笑)。
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