『音・ことば・人間』 武満徹・川田順造 (岩波書店)
往復書簡(同時代ライブラリー)
レヴィ・ストロースが亡くなったとのこと。100歳。やはり長生きするだけあって善人であったにちがいありません。
レヴィ・ストロース…私自身、フランスの現代思想に冷ややかな嫌悪感(それはすなわち嫉妬でもある)を持っているためか、この前ちょっと名前が出たヴィトゲンシュタインと同様、正直よくわからない存在の一人です。やっぱり名前からして仲良くなれない気がする(Levi-Strauss…アメリカではジーンズ屋と間違われたとか)。
ヨーロッパの言語で書かれたものを原語で読むなんて芸当はハナからあきらめている私は、言語ゲーム(彼らの使っている意味とは違いますよ)をしているようにしか思えない構造主義者たちの文章の日本語訳…それたいていジャパニーズ・ポスト・モダンなファッションを身にまとっているわけですが…を読むはめになります。いまだに大学入試(センター試験を含む)でそういう時代錯誤な文章が出題され続けているからです。
私がヒマだったら、ソーカルがやったように、日本語でそれらしい論文でも書いてみたいものです。ま、そんなヒマはありませんし、それをやるんだったら、最近発見された「巣守」みたいに、源氏物語の真似でもした方がずっと自分にとっては有益ですね。
さて、そんなこんなであまり好かない日本版構造主義なんですけれど、そういう時代の息吹を思いっきり浴びて、しかし、より日本的なるもの、日本語的なるもので、それら西洋の化け物を退治してしまった名著がこれです。
川田順造さんは、直接レヴィ・ストロースに師事した文化人類学者さんですね。武満徹さんについては、もうこのブログでも何度も語ってきましたから、説明は加えません。
この本は、往復書簡集です。それが良かったのでしょうね。日本語が死なないで躍動している。結果として、そこには立派な日本音楽が立ち上がり、その時代の空気を含みつつ、それまでの日本の重ねてきた時間や、現代の(すなわち未来の)時間までを、しっかり含んでいます。結果としてものすごく非西洋的な匂いになっていて、私は好きなんです。
二人の濃厚なセッション、インタープレイが、現在絶版であるというのは、実にもったいない。こういう文章を若者にぜひ読んでいただきたいですね。
内容的には、音楽論、言語論、そして「モノ・コト論」と、それこそ私のために書かれたのではないかと思うほど(笑)興味深い。正直、私には理解不能な会話もありますが、それでもそこにある種の気品というものが漂っていて、決して本家に対するような不快感はありません。まさに源氏物語を読んでいるような幸福な不可解感があるんです。
正直言いますと、セッションという意味では、明らかに川田順造さんの方が不利です。大家相手に本当によく頑張っていると思いますがね。まあ、相手って武満徹さんですから。
私、昔からこういう往復書簡のようなものに大変憧れを持っていました。やはり一人で何かを書くよりも、ずっと音楽的な(あるいはプロレス的な、あるいは性的な)感じがするからでしょう。互いが刺激し合って、どんどん新しい自分が生まれていく。高みに上っていく。そういう他力的な文章、自家中毒(オタク的、構造主義的)にならない健全な文章っていいですね。
インターネットのおかげで、そういうこともやりやすくなったと思うんですが、いかがなものでしょう。
Amazon 音・ことば・人間
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コメント
前略 薀恥庵御亭主 様
これも「往復書簡」でありましょうか。笑
随分 永いこと御迷惑をおかけいたして
おります。
愚僧・・・「武満 徹」様といえば
映画「怪談」「切腹」であります。
世界最高峰の「音響効果」だと感じています。
小林正樹 様 の「切腹」
近衛十四郎様 の「素浪人花山大吉」
赤塚不二夫様 の「ウンコールワット」
望月三起也様 の「ワイルド 7」
それからぁぁ・・・「トムとジェリー」
ですとか・・・。
「効果音」と「セリフ」と「登場人物」
の調和。
「音」と「言葉」と「人間」の
奇跡的な出会いが「感動の作品」を
生み出すものなのでありましょう。
これが・・・
ひとつ間違えると・・・
「不況環怨」× 「不興話穏」×
「布教話遠」× 「不協和音」◎
「不協和音」となって作品が台無し
となってしまいます。苦笑
愚僧 ニュースの「ブロードキャスター」
が大好きでよく観てましたし・・・
「ニュース23」もよく観てました。
後発番組になりますと・・・何となく
違和感を感じて・・・観てません。
「番組の体質を変えない勇気」も必要なのかも
しれませんね。
御亭主様との「往復書簡」にて・・・
愚僧 成長させて頂きました。
本当に有難う御座います。
「浮狂話音」の合唱おじさん 拝
投稿: 合唱おじさん | 2009.11.05 13:22
【訂正】
コメントを読み直しておりまして・・・
「違和感を感じる・・・」に
違和感がありました。笑
愚僧の愚かさ。本当に・・・嫌に
なります。
「違和感を覚える・・・」に訂正させて
くださいませ。
投稿: 合唱おじさん | 2009.11.05 13:29
合唱おじさん様、貴重な往復書簡をありがとうございます。
まさにネットのおかげさまですね。
武満徹さんのすごいところは、聖俗両方OKなところですね。
投稿: 蘊恥庵庵主 | 2009.11.08 20:36