太宰治短編小説集「トカトントン」 (NHK BS2)
野田秀樹の朗読と渋江修平のアニメーション。そして言葉、太宰治。これは最強でしょう。
実際実に面白かった。この前紹介した「女生徒」、そして続く「雪の夜の話」、「キリギリス」、どれも良かった。でも、それらの主役は太宰の言葉でした。もちろん、それでいい…というか、普通そうなるでしょう。太宰に対抗するのは、実務上も難しいし、精神上もかなり難しい。だから、ああして現代メディアによる太宰言語の焼き直しで、もう充分に価値があると思いました。
しかし、今回の野田&渋江の挑戦、いやいやもしかして彼らは挑戦したのではないかもしれない、軽く太宰で遊んだのかもしれない、そんな感じさえする彼らの作品は、見事太宰と相並んだ感がありました。彼を凌駕するのは、まあ現実的には無理だとしても、一瞬でも彼を脇役に追い込んだのは、これはお見事。高く評価したいと思います。
「トカトントン」って、いろんな意味で難しい作品です。太宰作品の中でも、特に人気のある作品ですし、私もどちらかというと好きな作品です。彼らしさがとっても出ていると同時に、何か読後に感じる虚無を超えた「空」感。「空」間。これは最高です。
「トカトントン」という音はいったい何なのか。これを哲学することも、あるいは教室の授業で扱うこともできるでしょう。しかし、最近の私はもうそんなことは諦めています。というか、なるべくこの作品は読まないようにしています。
なぜなら、あまりに「禅」な気分になってしまうからです。太宰お得意の、掉尾の聖書引用…実際のところは、彼の頭の最初の最初にその一節があるのですが…は、なんとなくお説教くさい。それって、いつもいつも彼の彼自身へのお説教に違いないのですが、このたびのマタイ伝は、どこか嘘臭く、とってつけたような印象を与えていますね。おそらく、書き始めた途端に、物語が、小説が、勝手に動き出して、虚無の無限ループを起こしてしまったのでしょう。だから、「虚無(ニヒル)をさえ打ちこわしてしまう」ような「虚数世界」が立ち上がってしまうんですよね。
「虚数」ってまさに「虚」というか「嘘」っていう感じがするじゃないですか。人間の考えすぎなんじゃないのかって。「トカトントン」という音にももそういうところがある。
で、結局、そこを乗り越えてしまって、いや諦念してしまって、あるいはぶち壊してしまって、そうして到達する境地が、私は「禅那」だと思うんですよね。
だから、この小説…それは太宰の独言、あるいは太宰に語らせた誰か(神か仏か)の独言とも言えますが…って、結果としてキリスト教の敗北のような感じも与えるし、それ以前に我々の生活というか、思想というか、言語というか、いずれにせよ私たち自身の敗北のような感じも与える。
そこが私にはまだ不快なので、つまりまだまだ悟っていないので(悟ったら仏陀になっちゃいますけど)、ちょっと避けてる部分があるんですね。
それをこういう形でドカンと、もしかしてそんな悩みもなく抵抗もなく、実に面白く表現してしまった野田&渋江は、やっぱりおそるべしですよ。いじわるな考えを起こせば、いやいや彼らも困ってああいう手法をとったのかも、とも言えるかもしれませんが、しかし、実際問題としてああやって作品化してしまったのは、単純にすごいと思いますよ。
だって、この人気作品をああいうふうに料理すると、怒る人がたくさんいるわけじゃないですか。哲学したり、教材研究したりしてる人にとっては、ある意味(自分に対する)冒瀆だと感じられるでしょうからね。
まあ、そういう次元で、たとえば聖書なんかをパロディーにして、あるいは食いぶちにして生きていたのが、太宰治であったわけですが。
天才たち、おそるべし。
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コメント
DVDに焼いてください!
投稿: 渡辺しほり | 2009.11.22 02:15
うん、しほりにとっては4作ともいい教材になるな。
今度持ってくよ。
投稿: 蘊恥庵庵主 | 2009.11.22 12:21
前略 薀恥庵御亭主 様
「太宰治」に関しても無知です。笑
しかし・・・高校生の頃・・・
作品「津軽」の中で・・・
「紫色の衣服の似合う人物は・・・極めて
少ない」といった内容を読んで・・・
親父の紫色の法衣姿を観て・・・
妙に納得致した記憶が御座います。笑
愚僧は「津軽」が一番親しみやすいようです。
私のなかでは「頂点」の作品です。
「渋江修平」様は・・・
短編「葬儀屋になった男」がとっても
素晴らしいですね。
とにかく素晴らしい。
愚僧も・・・この頃 すっかり
「馬鹿坊主」が板についてしまって
「精進」が「停滞」しています。笑
人生「山あり谷あり遭難あり」でしょうが
今後は下り坂を・・・転倒しないように
「ぼちぼち」歩いていかねばなりません。笑
人間は・・・誰しも「頂点」がありますね。
映画「ライフ・イズ・ビューティフル」
映画「泥の河」
映画「雁の寺」
愚僧の憧れる映像作家の「頂点作品」だと
勝手に決め付けています。笑
愚僧に頂点が いつ訪れるのか・・・
判りませんが・・・楽しみです。苦笑
合唱おじさん 拝
投稿: 合唱おじさん | 2009.11.22 19:24
合唱おじさん様、こんばんは。
ライフ・イズ・ビューティフル、私にとってもナンバーワンの一つです。
泥の河、雁の寺もいいですねえ。
そして、「津軽」…ある意味太宰の最高傑作でしょう。
現地に行ってみて、初めてあの作品の良さがわかりました。
投稿: 蘊恥庵庵主 | 2009.11.25 17:19
前略 薀恥庵御亭主 様
愚僧も「二度」・・・「恐山」
に参拝致しました。
兎に角「食べるものが・・・
なんでも うまい。」最高。
文学には程遠い「合唱」でした。笑
投稿: 合唱おじさん | 2009.11.25 19:26
合唱おじさん様、そうですね。
東北はとにかくメシがうまい!
米一つとっても何か違いますね。
きっとそれが「文学」の栄養になっているんでしょう。
投稿: 蘊恥庵庵主 | 2009.11.27 18:27