悪魔のヴァイオリン…レイチェル・バートン・パイン
アーロン・ロザンドの所有していたヴァイオリンの名器グァルネリ・デル・ジェスが9億円以上の高値でロシアの富豪に売却されたとのこと。
こういうニュースが流れるので、ヴァイオリンというのはなんだか高い、ハイソな楽器だと思われちゃうんですよね。ちなみに私の所有するヴァイオリンの中で最も安いものは7000円ですから、えっと、何挺買えるんだ?ええと、計算しますとだいたい13万挺ですね(笑)。
そんなにすごいのでしょうか。ちょっとYouTubeで聴いてみましょう。
ロザンドの弾くシャコンヌ
YouTubeで聴くというのもなんですけど、それでも良く鳴っているのは分かりますね。改造に改造を重ねられ、ほとんど胴体以外はオリジナルとは別物になっているわけですが、たしかに名器という感じがします。
しかし、私の感覚から言いますと、この時代の名器と言われるヴァイオリンというのは、たいがい乾いた音がするものです。失礼な言い方をすれば、もうお婆さんという感じで、潤いがなくなっているような気がするんですが。ただ、声だけはデカイ。色気がないように思うのは私だけでしょうか。
ロザンドの演奏もどうかと思いますよ。まずちゃんとチューニングした方がいい(笑)。彼のバッハ無伴奏の録音もかなりひどい音程ですが、このライヴでもけっこうやらかしてますね。あんまりそういう細かいところを気にしない大器なのでしょう。
デル・ジェスとは、「イエスの」ということです。グァルネリ一族の中でも最も有名なバルトロメオ・ジュゼッペ・アントニオ・グァルネリの作ったヴァイオリンだけがこの称号を得ています。
今回のデル・ジェスの一つ「コハンスキー」は1741年製ですから、大バッハの晩年、息子たちが活躍を始める頃生まれた楽器ですね。
私たち古楽器奏者としては、モダン楽器に改造されたそれよりも、当時のオリジナルな形でその音を聴いてみたいですね。私が富豪だったら10億円で買い取って、そしてオリジナルな状態に戻しますね。
さて、ここから思いつくままに話を飛ばして行きましょう。
デル・ジェスを使っているヴァイオリニストはたくさんいますが、比較的潤いのある音を出していたのが、イツァーク・パールマンです。彼のバッハ無伴奏の録音は、基本デル・ジェスを使っていますが、一部はストラディヴァリです。なんでもこの録音中にメニューインからそのストラドを譲り受けたとか。どういう世界なんだ?
パールマンのデル・ジェスによるシャコンヌも聴いてみましょう。
彼らしく艶やかですね。これだったら許せる。なかなかいい演奏です。やっぱりヴァイオリンは色気がないとね(あくまで私の趣味ですけど)。
パールマンは小児マヒのため下半身が不自由で、いつも椅子に座って演奏していました。同じく下半身が不自由で常に座って演奏するヴァイオリニストにレイチェル・バートン・パインがいますね。彼女も現在デル・ジェスを弾いています。
彼女は若手ヴァイオリニストの中でもかなりユニークな存在です。いやあ、この人はホント上手ですよ。超絶テクニックの持ち主です。クラシック音楽界で言われる音楽性とか、そんなこと以前に、ヴァイオリンが持っている色気や、妖気、そして悪魔性を実にうまく引き出していると思います。
普段はとっても明るい彼女ですけれど、実はヴァイオリンの悪魔性にかかわるとんでもない過去があるんですよね。彼女が自らの足を失ってしまった話です。
今から15年ほど前、ヴァイオリンのレッスンのため列車で移動していた彼女は、その目的地に着いたので、いつものように列車を降りました。その時、その肩にかけていた名器アマティがとんでもない事故を引き起こしてしまったのです。
なんと、アマティを入れたケースのストラップが閉じたドアに挟まってしまったのです。そして、彼女は列車に100メートル以上引きずられてしまいました。
結果として彼女は片足切断の大けがを負ってしまいました。なんということでしょう。やはりヴァイオリンの名器にはいろいろな意味で悪魔が潜んでいるようです。昔からそういうことは言われていました。
こんなことを言っては不謹慎ですが、腕を切断されていたら、彼女はもうヴァイオリンは弾けませんでしたね。彼女は悪魔と取り引きしたのでしょうか。足を失った代償に妖艶な音色を手に入れたのです。
そんな彼女が「悪魔のヴァイオリン INSTRUMENT OF THE DEVIL」というアルバムを出しているのは面白いですね。非常にすさまじい演奏です。NMLに加入している方はぜひ、聴いてみてください。こちらです。
バロックからヘヴィメタまでこなす彼女です。このインタビューを聴いて観てみてください。
Violinist Rachel Barton Pine From Mozart to Metallica - More amazing video clips are a click away
なかなか魅力的な女性ですね。7月にキム・スヨンの代役として来日しまして、好評を博したようですね。はっきり言ってキム・スヨンよりずっといいヴァイオリニストだと思うのですが…。
長くなりますが、最後に彼女の面白い動画をどうぞ。彼女、バロック・ヴァイオリンも弾くんですよね。バッハの無伴奏はバロック楽器で録音しています。で、この動画ではなぜかバロック・ボウでイザイを弾いています(笑)。その理由は彼女の口から語られています。なかなかの自由人ですな。もともと曲も変ですけどね(バッハが混入してます)。
Amazon Instrument of the Devil
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コメント
レイチェル・バートン・パインは特に技巧的な曲を弾くと、他の人が弾いた同じ曲より迫力がありますよね。なんかに取り憑かれているとしか思えません。
CDしか聴いたことがないんですけどね。
ピリオド新しいのが欲しいよー。
投稿: mya | 2009.10.26 09:18
myaさん、どうもです。
ヴァイオリンは悪魔と天使が同居してなんぼですよ。
ピリオドかあ…デル・ジェスなんてどうでしょう?ww
投稿: 蘊恥庵庵主 | 2009.10.26 20:09
前略 薀恥庵御亭主 様
「熟読」させていただきました。
愚僧・・・楽器の「腕」はありませんが
一応・・・「耳」を持っております。笑
「動画」を拝聴いたしましたが・・・
御亭主様の申される通りでした。
きっと・・・
「音」が生きているのでしょうね。
「テクニック」だけではありませんね。
ある種・・・「楽器」に選ばれし「人」
だけが奏でることのできる「音」ですね。
愚僧も「尺八」を吹けませんが・・・
何本か持ってます。笑
「古い尺八」は・・・愚僧を憎んでいます。
「音」が出ません。笑
一番仲のいい・・・ 友達は・・・
「塩ビ尺八」君・・・です。笑
最近では・・・
「アンパンマン」を一緒に吹いてます。笑
この「塩ビ君」・・・
私のことを気に入ってくれているようです。
私も「彼」が大好きですし。
いつも 遊んでくれます。大親友です。
「楽器」に愛されることが大切ですね。
また「天満敦子」様のコンサートに行きたく
なりました。
「耳有阿呆一」こと「合唱おじさん」 拝
投稿: 合唱おじさん | 2009.10.26 20:45
合唱おじさん様、こんにちは。
楽器に愛されることは本当に大切ですね。
特に古い楽器には、以前使っていた人たちの魂が乗り移っていますから、そういうつもりで接する必要がありますね。
私もどちらかというと、一番安い楽器に愛されているようです(笑)。
高い楽器は案外言うこときかないんですよねえ。
こちらの愛情も高いレベルが要求されるようです。
投稿: 蘊恥庵庵主 | 2009.10.27 17:05