『現代の貧困−ワーキングプア/ホームレス/生活保護』 岩田正美 (ちくま新書)
格差論から貧困論へ。たしかに最近そういう傾向がありますね。
日本の貧困率はたしかに高い。先日も15%を超えるという発表があったばかりです。これは先進国の中では米国に次いで第2位の高さとなるそうです。
日本ってそんなに貧しい国だっけ?というのが、多くの人の感想ではないでしょうか。そういうふうに他人事のように感じてしまうのが、この「貧困」の問題点です。
もちろん、私もそうしたその他大衆の一人でありまして、本当に他者の貧困を実感できているのかというと、やはりそうではありません。比較的安定した収入のある仕事をしているからですね。
一方で、仕事柄そういう相談を受けることも多くあります。たとえば学費が払えないであるとか、進学させたいがお金がないとか、リストラされてしまっただとか。
それでも、理解はできるが実感はできないというのが実情ではないでしょうか。ある意味同情はできますし、様々な制度の利用などをすすめることはできますが、私自身が何かを施すとか、そういうことはできません。
この本にも書かれていたとおり、「貧困」には絶対的な基準と相対的な基準とがあります。上記の貧困率は相対的なものです。簡単に言えば全国民の平均収入の半分以下の収入しかない人の割合です。ですから、国が豊かであればあるほど貧困率が高まる可能性もありますし、その貧困の実態が世界的絶対的な見地から言うと、ちっとも貧困ではないという事態も考えられます。
しかし、その社会にとっての「貧困」とはまさに相対的な性質だから厄介なのです。つまり、社会の成員としての「貧困心」というのは、常に相対的に醸成されるものなのです。
私自身そういう体験があります。私はずっと今の職場にいて、安定的な給金をいただいているわけですが、バブルの頃はずいぶん周囲をうらやましく思ったものです。真剣に転職を考えました。相対的に収入が低かったからです。独身だっので絶対的には今よりお金持ちでしたが(笑)。今は全く逆の実感があります。
単純にそういうものなのです。そして、こういうことは実は金銭的なことに限りません。様々な範疇、場面において、我々は相対的な幸福感や不幸感を抱いて生きているわけですね。さらにそれをシェアする術を知らない。だから、格差も生まれる。
いや、本来的にシェアしたり、施したりできないこともありますよね。たとえば、容貌とか。私もぜひ誰かに施してもらいたいような容貌ですが、現実的にそれは無理というものです。つまり生来の不可避な運命的格差というのはいくらでもあるわけです。
そこのところが、格差や貧困をなくすことを理想とした社会主義や共産主義の決定的な不可能性であったと、私は思っています。
では、どうすればいいのか。現実的な日本社会での施策については、この本にも書かれていますし、民主党政権も多少は考えてくれています。しかし、それは前述の意味において、ぜったいに完全には解決しない問題です。
ですから、経済(カネ)については、第3のシステムを模索しなきゃならないんですよ。そのヒントが、たとえばシューマッハの仏教経済学などにあると思っています。そして、その他の分野については、やはり、昨日の話ではありませんが、自己を滅却して他者と不二になっていくしかない、すなわちお釈迦様のお悟りに達するしかないわけですよね。
これまたとんでもなく難しいことです。
いずれにしても、この豊かな国で貧困があるということは、資本主義市場経済のシステム上、どこかに富裕もあるということです。その平均化というのは、いつも言うように、自民党的、あるいはヤクザ的必要悪をもって実現するしかないのが実情です。悪をもって悪を制す。
最近、知り合いの若い女性からこんな話を聞きました。彼女なんだかいつのまにか貧乏になってしまって、財布に10円しかなくなってしまったそうで、やむにやまれず、お水な商売を始めたと。そうしたら二日目にいきなりお金持ちのお客さんから、いわゆる身うけ、持ちうけの話があって、いきなり大富豪のセレブになってしまったと(笑)。あるところには、やっぱりあるんだなと思いました。
反面、最近ワイドショーをにぎわしている、ああいう事件やああいう事件を思うと、それもまた危ない橋のような気もするしなあ。なんだか、世の中難しいですねえ。
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