土方巽〜白井晟一…秋田で昭和の奇才の面影に触れる
一昨日のON、そして昨日の王仁三郎。それだけとっても昭和という時代はすごかった。最近になって、自分も多少は浴したその時代の空気の面影や残滓や名残というものを、あらためて見つけ感じています。
これは単なるノスタルジーではありません。時を経てなお残る空気には、エントロピーの法則に反するエネルギーが存在するのです。物質は拡散しても魂は逆に凝縮していく。その魂は、おそらく昭和当時よりも、強く我々に訴えかけてくることでしょう。
そして、今だからこそ、こんな時代だからこそ、それを感受して受け継ぐメディアになりたいんです。
さあそんな高邁なこと書いてますが、実はそんな難しいこと考えていません。ただ、縁のあった「モノ」にはしっかり触れておきたいというだけ。
ということで、まずは羽後町田代天神堂にある義母の実家にごあいさつにうかがいました。そこはあの写真集「鎌鼬」の撮影された場所です。細江英公さんが舞踏家の土方巽を連れて、その義母の実家の前の田んぼにやってきたのは、1965年の9月中旬でした。今からちょうど44年前ということになります。
この季節に秋田にやってきたのは、実は初めてのことです。今までは3月、5月、6月、7月、8月、11月、12月、1月に訪れたことがあります。稲刈りのシーズンは初めてなんです。秋田にとってこの季節は本当に特別なゴールデン・タイムですよね。たわわに実った黄金色の稲穂が頭を垂れて、稲刈りの時を今か今かと待っているんです。
田代地区では、今でも高い稲架(はさ)を組みます。土方がするすると登って鴉になりきった、あの稲架ですね。それがちょうど今組まれていました。
羽後町でも平野部ではもう稲刈りを始めているところもあって、そんなところからは、私にとってはほとんど初めてかぐ、そしてカミさんにとっては懐かしいという、あの稲刈りの匂いがしてきました。
このような高い稲架は、秋田県内でも次第に珍しいものになっていっているとのことでした。
カミさんのおじいさんやおばあさんたちにご挨拶をしたのち、私は一人でその稲架を撮影に行きました。
そして、私は思わず鳥肌を立てました。そこには驚くべき「モノ」が転がっていたんです。それは、食べた後のスイカの皮でした。えっ?なんで?そんなもの、たまたまそこに捨てたんじゃないかって?
いやいや、土方巽をよく知る人なら、きっと私と同様びっくりすることでしょう。土方と言えばスイカなんですよ。一昨年訪問した土方の故郷、羽後町の新成地区はスイカの生産地として有名です。
それはまるで、今そこの稲架に土方が登り、天空を見つめながらスイカに食らいつき、そこにその皮を放り投げた、そんなシーンのようでした。鳥肌も立ちますよ。
いったいこれはどんないたずらなんでしょうね。まあある意味私にしか分からないことかもしれませんが、そういう私がピンポイントでこの時期にここにいるというのは、やはり何か因縁があるのでしょう。
さて、田代から十文字に帰ってきまして、私とカミさんは次の目的地お隣の湯沢市に向かいました。湯沢市はカミさんが高校時代を過ごした場所です。懐かしく甘酸っぱい思い出の地なのかと思いきや、なんでもほろ苦く、どちらかというと辛い思い出の地だそうです。まあ、私が高校時代を過ごした静岡なんかも、できればあんまり行きたくない場所ですよね。
さて、その湯沢市周辺には、最近興味を持った建築家白井晟一の作品(建造物)が多数残されています。白井は疎開先であった秋田を気に入り、戦後もしばらく当地のために様々な建物を設計しました。それがさりげなく残っているんですよね。白井晟一と言えば、私も大好きな丹下健三と双璧をなす日本を代表する建築家です。ある意味聖地なんですよ。しかし、地元の人にはそんな知識や意識はほとんどありません。ここ数年の間にも、貴重な作品である雄勝中央病院などが取り壊されてしまいました。あの病院、祖父が入院していたので、私も行ったことがあります。実はその時は、その建物が白井作品だとは夢にも思わなかったので、しっかり観察しませんでした。全く灯台下暗しと言うか、知らぬが仏と言うか、いやこういう場合は言わないな…。
白井晟一について、いや、建築についてはそれほど詳しくないので、今日はとりあえず写真だけご覧いただきましょう。実は白井作品以外にも、湯沢市にはめちゃくちゃたくさんのトンデモ建築が現存しておりまして、もう完全におなかいっぱいだったんですよ。今度は、知りあいの有名建築家(兼白井マニア)の方をお連れして、建物探訪の旅を企画したいと思います。では、どうぞ。
↓次は最近世田谷から移築された試作小住宅。1953年の作品。
今回は時間がありませんで、この3作品しか見ることができませんでした。というか、ほかのトンデモ建築に目を奪われて時間が過ぎてしまったというのもあるんですけどね。
とにかく、これは専門家を連れて解説をいただきながら再訪問するしかありません。少し足をのばすとさらなる白井ワールドが現代に息づいているらしい…。楽しみです。
ふぅ、それにしても濃いなあ。昭和。そして昭和が残る地方都市がまだまだたくさんある。我が富士吉田もすごいけれど、湯沢市もそれ以上でした。
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