『不滅の歌謡曲 (NHK知る楽 探求この世界)』 なかにし礼 (日本放送出版協会)
全8回シリーズの、今日は7回目の放送でした。「ヒット・システムの明暗」、最も楽しみにしていた回です。私にとってのリアルタイム歌謡曲にようやくなりました。
つまり、歌謡曲の歴史のほんの先っちょしか、私は知らないということですね。先日、私はビートルズ第2世代だというようなことを書きましたが、歌謡曲についてはいったい第何世代なんでしょうか。
まあ、そんなこと言ったら、私の演奏するバッハは、じゃあ第何世代なんだってことですけど(笑)。
私は古楽界の人間ですので、そのバッハの時代の音楽を勉強してきました。それと同じように、ここ数年は歌謡曲の世界にもどっぷりつかっているで、こうして歴史を勉強しなくてはならない、というか、したくてしかたないわけです。
このブログでも、読むJ-POP 1945-2004、増補 にほんのうた 戦後歌謡曲史、歌謡曲の構造などの書籍を紹介してきました。
それらは評論家や学者さんなどの手によるもので、どちらかというと音楽的な見地から書かれたものでした。
それらに比べますと、なかにし礼さんの「不滅の歌謡曲」は、「作詩家(作詞家ではない)」の立場から書かれたなかなかバランスのいいものです。「言葉」の面と「音楽」の面と、そして「ビジネス」や「社会」の面から歌謡曲を解き明かしていきます。いや、逆に「歌謡曲」からそれらを解き明かしているとも言えるかも。
ある意味では、やや雑駁な印象を与えかねない内容と構成ですが、そんなところに、なかにしさんの溢れ出る歌謡曲への愛情や、歌謡曲を通じて我々に伝えたいことを感じることができるとも言えるでしょう。
テレビの教養講座のテキストですから、そんな感じでもいいと思います。
第1回から第6回までもなかなか面白かった。なかにし礼さんのこだわりというか、伝統と革新のバランス感覚というか、まあ結局は和と洋のせめぎ合いということになるのかもしれませんけれど、そういう衝突と和合から生まれる「ムスビ」の力をしかと感じましたね。
意外と言えば意外だったのは、「五七五」と「起承転結」をわざと崩したということでしょうか。それはある意味日本語や日本の伝統的表現を壊したとも言えるわけです。破壊は創造の母、破壊の勇気が時代を動かしていくわけですね。
三拍子に関する考察は、まあ普通としまして、軍国主義と歌謡曲の関係の部分は、比較的語られなかったことだったので勉強になりました。
そして前回と今回。歌謡曲が戦後の音楽産業の変化にさらされて変質していきます。今日の第6回でもそうでしたが、その辺の変化に対するなかにしさんの反応というか姿勢というのが、実に微妙で面白かった。時代を変革した自分を超えて、さらに誰かによって時代が変わっていく。そして、自分は前時代の遺物になりかける…。そんな時の複雑な心境が、回顧という形の中でも、痛いほど伝わってきましたね。
たとえば、シンガーソングライターの登場。ある意味「シロウト」集団が音楽界を席巻していきます。そこで一瞬たじろぎながらも、結局はその土俵で大ヒット作「時には娼婦のように」を世に出します。頑ななようで実は柔軟という、なかにしさんの特性がよく現れている事件ですね。いろいろな矛盾を自分の中で消化していける、なかにしさんのそういう心の強さを感じずにはいられません。
そして、先日のSLSで私も再確認した桑田佳祐(サザンオールスターズ)の偉業に対するコメントが面白かったですね。やはり、桑田さんは革命を起こしたと。日本語をぶちこわしたと。そう、彼の日本語はすでに純粋な日本語ではなくなっています。英語と同レベルの「雰囲気語」なのです。それはある意味では、なかにしさんの最も嫌うべき存在なはずです。全ては「詩」から、全ては「言葉」の力からと言うなかにしさんの歌謡曲観からすれば、許さるべからざるもののはずです。
しかし、結局認めていましたね。受け入れると。私も最初はなんなんだ?と正直思いましたが、やはり桑田佳祐さんがなしえた革命はすごいと認めざるを得ません。
つまり、こういうことなんです。実は非常に単純。たとえば、私が小学生の時、英語も分からずビートルズに感動した、あれです。言葉の意味は分からずとも、ああして最大級の感動や共感を得ることができる。言葉の雰囲気や、純粋なメロディーや和声やリズムの素晴らしさというものがある。
実際の私たちの生活の中では、言葉にできない感動や感情というものが本当にたくさんあります。桑田さんは、それを日本語風な言葉で表現してしまった。純粋な音楽を輝かせる一つの演出としての「雰囲気語」とういものを発明してしまった。これはすごい。実際、私も四半世紀ぶりに桑田節を生で体験し、どうにも表現できない、甘酸っぱい切なさや、どこか頼りないけれども忘れられない幸福感というものをしっかり味わってしまいました。
というわけで、今日は結局、天才なかにし礼の言葉から、天才桑田佳祐の偉大さを実感してしまったのでありました。日本の歌謡曲は、彼によってやっと「日本語」から、「言霊」から解放されたのです。そんな彼が「 愛の言霊(ことだま) ~Spiritual Message~」なんか歌ってたんだから、やっぱりすごいですね。
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