『こぐまレンサ 完全版』 ロクニシコージ (講談社BOX)
久々にコミックネタ。ちょっと気分転換にと思ったら、なんだか余計に気が重くなっちゃった。
基本マンガ世界に疎い私ですが、いやあ、本当にこの世界も変わりましたね。この作品もとても子どもには読ませられません。暗いというか、重いというか、グロいというか。
それ以前に絵が下手すぎます。いつごろからでしょうかね、絵が下手でも内容が面白ければいいというようになったのは。
つまり、求められるものが変ってしまったのでしょう。どの世界でもそうです。本来基本であるところをなおざりにして、本来二次的であるはずの部分で勝負する。
いや、この作品も絵が下手なのに目をつぶれば(それが非常に難しいのですが)、そのストーリーや演出は、そのへんの小説なんかよりずっと面白いですよ。見事な伏線によって、それぞれの短編が一つの物語に収斂していく。ホントよく出来ています。言葉の選び方も素晴らしいセンスを感じさせます。
でも、なんでこれをマンガで表現しなければならないのでしょうか。小説でいいのではないでしょうか。いやいや、これこそが「MANGA」や「ANIME」の世界に誇るべきところであり、麻生さんの世界戦略であったとも言えるでしょう。それはよくわかります。
ただ、そうして、いろいろな世界で今までの価値観やジャンル分けが崩壊していって、たとえば絵のシロウトでも、プロとして週刊誌や月刊誌に連載でき、単行本を発行できる。これは新しい分野の開拓のためには大いに役立つ可能性がありますが、逆に本来伝えるべき文化を喪失させてしまう可能性もあると思います。
先ほど、本物のプロレスリング伝承に命をかけている方と電話でお話ししたんですが、まさにプロレスの世界もそうです。シロウトが神聖なリングに上がる、本来演劇やサーカスと呼ばれるものさえ「プロレス」と呼ばれてしまう、そんなことに心を痛めておられました。
この前のSLSで若手のバンドに感じたこともそうです。みんな歌詞の世界で勝負しようとしている。本来文学でやるべきことを、音楽に乗せてやろうとしている。音楽の才能はシロウトに毛が生えただけなのに。なかにし礼さんが言っていますが、文学の詩と歌の詩とは全く違うものであるべきです。それがごっちゃになってしまっている。
もちろん、そうしてプロの敷居が下がることには、いいこともたくさん付随してくると思います。それこそ新しい何かが生まれる可能性もあるし、実際本流に飽きた消費者たちが、新しい刺激を求めてそれらを楽しむことも多い。
政治の世界もそうです。今回の選挙で民主党の初当選者は143人にのぼります。初任者です。シロウトです。そんな集団で政治ができるわけないじゃないですか。民主党の約半数ですよ。全体でも4分の1を超えている。
私のいる教育界でですね、4分の1が初任者、いや教育実習生みたいな教師集団で、まともな学校運営なんかできるわけありませんよ。
と、なんか違う話になってしまいましたが、いや、さすがに世の中全体が本質を見失っているような気がしてならないんですよね。もちろん自分もですよ。
結局、マンガにしても、音楽にしても、プロレスにしても、政治にしても、教育にしても、面倒でかったるい地道で地味な努力が足りない、いやいや、もっと言ってしまうと、本来生まれ持った「タレント」がなくても、そうした神世界(あの神世界じゃありませんよ…笑)に足を踏み入れることができるようになっちゃったということでしょうかね。
それはそういう市場があり、需要があるからでもあります。電話の先のプロレスラーさんもおっしゃってました。客も本物を知らなすぎると。そのとおりですね。我々もホンモノを見きわめる力を失っているのです。
「こぐまレンサ」に話を戻しましょう。ロクニシコージさん、ある意味素晴らしい才能を持っていらっしゃると思うし、この作品も革命的な力を持っているかもしれません。でも、もうちょっとでもいいから、絵の勉強するなり、絵は誰かにまかせるなりしたら、もっと力のある、歴史に残る作品になったのではないかと思うんです。
でも、高校生に言わせると、このくらいの画力なんていうのは、全然日常的であって、別に気にならないというんですね。うまい人のはうまいと思うけれど、下手な人のも気にならないと。それはそれでそういう時代になった、自分がその時代についていけないということで、それでファイナルアンサーにしてしまってもいいんですが。なんとなく寂しい気もしますね。
面白い作品だっただけに、もったいない気がしたんです。ま、この気持ちも、オジサンの「昔は良かった」的感慨にすぎないのでしょうか。
Amazon こぐまレンサ 完全版 (講談社BOX) (単行本)
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コメント
前略 薀恥庵御亭主 様
御亭主様 御早う御座います。
毎日 楽しく拝読させていただいております。
愚僧の少年時代・・・
うまい絵だなぁぁぁ・・・
と感心した「漫画」は・・・
「ワイルドセブン」でした。笑
ストーリーも抜群でしたが・・・
とにかく「絵」が【カッコ】よかった。
本当に素晴らしい「漫画」でした。
とにかく「構成力の問題」ですね。
現代の「漫画」はなんとなく・・・
すべて「良く似た顔」ですね。笑
「構成力」が欠如しているのだと・・。
「映画」でいえば・・・・
「キャリー」が素晴らしかった。
「構成力」の【おばけ】ですね。
最後のシーンで思わず【チビリマシタ】。笑
合唱おじさん 拝
投稿: 合唱おじさん | 2009.09.02 09:18
合唱おじさん様、おはようございます。
ワイルド7!懐かしいですねえ。
好きでした。
あの頃は画力があるのは当たり前でしたね。
やっぱりあの頃はいい映画をみんなが観ていたんでしょう。
今みたいなテレビやインターネットのようなヴィジュアルに囲まれていると、絵心は育ちませんね。
投稿: 蘊恥庵庵主 | 2009.09.03 07:50