「すべからく」ってどういう意味?
研修の休み時間に(研修中じゃないっすよ)読んでいる本があります。老荘思想の本。とっても分かりやすくて、いやなんか分かりやす過ぎて拍子抜けするほどです。マンガのやつより分かりやすいって…いったい。その本はいずれ読み終わったら紹介しましょう。
で、その本を読んでいて、とっても気になることがあったので、ここに記しておきます。どう考えても著者の勘違いです。というか、けっこう世の中で間違って使われている言葉ですね、「すべからく」。
たとえばこういう文が出てくるんです。老子自身がこう言ってるんです。
「世の中、すべからくそうじゃ」
「すべからく、所詮は、それを見る者が勝手に決めることじゃ」
「物事すべからく『必ず一つだけの意味や性質になる』ということは、あり得ぬのよ」
2ページの中にこうして3回も出てくる。これら、どう考えても「全て」の意味で使われていますよね。そうとしかとれません。
おかしいですね。老子自身がこういうふうに間違って使っているっていのは(笑)。てか、著者(翻訳者?)もですね、老荘思想についての本を書いているわけですから、当然「すべからく」の意味は知っているべきです。
そう、「すべからく」は多く文末に「べし」を伴って、「当然〜べきだ」という意味を表すのが本来です。
皆さん高校時代の漢文の授業を思い出して下さい。「須」という字習いませんでしたか?再読文字っていうやつですよ。懐かしいでしょ。「未(いまだ〜ず)」や「将(まさに〜す)」とかがよく知られていますね。「未来」は「未だ来ず」、「将来」は「将に来んとす」です。
で、「須」は「須く〜べ(し)」と読んで、「当然〜べきだ」と訳すんですよね。「必須」の「須」ですよ。
実はですね、私も高校に入るまでは、「すべからく」は「全て」だと思っていました。私が「すべからく」という言葉を覚えたのは幼稚園の年長の時です(笑)。ウルトラセブンの再放送を観て覚えました。あの実相寺昭雄の名作「第四惑星の悪夢」の冒頭、ソガ隊員が「潮の満ち干が月と関係があるように、万物はすべからく天体の動きに影響をされながら生きているんだ…」って言ってたんで…。つまり、脚本の川崎高(実相寺昭雄)&上原正三、二人とも間違って覚えていたっていうことでしょうか。
と、ここに挙げた例だけでなく、実はほとんどの人が間違ってるみたいですね。今、ウチのカミさんにも聞いてみましたら、自信満々で「全てにわたって!」と答えました。
「すべからく」は「す」+「べし」のカリ活用連用形「すべかり」のク用法ですね。「いわく(いはく)」とか「おもえらく(おもへらく)」とかと一緒です。「すべし」ですから「当然〜べきだ」となるわけですね。
その「すべ」の部分がたまたま「すべて」の「すべ」と一緒だったから生じた単純な間違いだと思います。まあ、これに限らずこういう勘違いや誤用が定着しちゃう例というのは他にもたくさんありますけどね。今日はちょっと時間がないのでいちいち挙げませんが。
それにしても、老子自身が間違ってるっていうのは面白いですね。いや、「すべからく」は日本語だから仕方ないか(笑)。
老子たるものすべからく「すべからく」の意味を知るべし。
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