『生誕百年 太宰治はなぜうける?』 (NHKクローズアップ現代)
ゲスト、「人間合格」の井上ひさしさん。
空前の太宰ブームだとのこと。「人間失格」が5倍売れ、「走れメロス」が7倍売れているとか。
太宰も喜んでいるでしょう。いや、「オレが生きてるうちにこのくらい売れてくれればよかったのに」と思っているかもしれません。上のリンク先で紹介したような太宰の本来の意図(?)とは違うところでもてはやされていることに、「人をだますのは簡単だ」とほくそえんでいるかもしれません。「100歳まで生きて小説書いておけば良かったな」。
番組では、大学のセンセイが、「太宰の文体が若者のブログの文体に似ている」とか、「太宰の文章には(アキバ事件の)加藤とは違い救いの言葉がある」とか、いかにもなことを言っていました。私はそれをあちゃーという気持ちで聞いていたわけですが、まあ、そういういかにもな、その時代的な解釈を常に受け入れ続けるのが、ホンモノのすごいところであることは認めます。
昨日演奏したバッハの音楽なんかもそうなんですよ。バッハはいつの時代にも言われ続けました。その時代時代の大衆音楽に似ていると。あるいは、その時代時代の大衆音楽風なアレンジをされてきました。もちろん微塵も動じないわけでして、そんなのは別にエライ先生が力説しなくても、もともと当たり前のことです。
太宰がなぜすごいか。なぜうけるのか。それは非常に単純化してしまえば、彼がイケメンだからです。
いやいや、ここで言うイケメンとは、顔がイケメンということではありません。生まれた時から、文章がイケメンなんです。だから、「生まれてすみません」なんですよ。「イケメンに生まれてすみません」。ホントに癪にさわるヤツですよね。
イケメンがかっこいい理由なんてありません。嫌う人、ちっとも萌えない人もいると思いますけど、好きな人にとっては理由なんていりません。そしてまた、イケメンのくせにダメぶって、甘え上手で、でもちょっとユーモアもあって、そりゃあ惚れますよ。超イケメンなのになまってるし。ま、ギャップ萌えなんでしょうかね。
加藤との違いは一言、文章がイケメンかそうじゃないかですよ。若者のブログの文体に似てる?冗談じゃない。ブサイクのたれ流しと一緒にしないでくれよ。
現代の社会状況、「不安」を描ききっている?違うでしょ。現代のディスコミュニケーションと重なる?全く読めてない。弱さを演じる強さ?プッ!ww
でも、こうして本当の天才、本当の古典、本当の日本語に若者たちが接するというのは悪いことではありません。若い時にじゃんじゃん洗礼を受けなさい。自分が全然イケメンでないことを教えてもらいなさい。太宰も一緒に悩んでくれる…のではなく、結局天才に見下ろされ、なかばバカにされているということを知りなさい。
でも、でも、大いに勘違いもしなさい。それが若さですから。若さとはある種の自己イケメン幻想である。
今年はですね、私は得意の太宰の授業をしていません。別件で忙しく、3年生の演習という味気ない授業しか担当していないからです。また、三沢さんの死によって塗りつぶされてしまい、結局命日も誕生日にも太宰のことをほとんど忘れていました。命日の前日に天下茶屋に行ったくらいですね、今年は。しかし、生誕100年という節目の年に、そういう状況になったのは、それはそれで良かったのかもしれません。落ち着いて太宰にいろいろ教われる(もしくは襲われる)からです。
何度も書いているように、私はいろいろなことを太宰に直接聞いているんです(笑)。こうして、耳もとでボソボソといろいろ教えてくれるのは、作家では太宰だけですね。それも私だけに教えてくれるって言うんですよ。なんででしょうね…って、私の頭がおかしくなったと思わないでくださいよ。いや、かなりおかしいな。
でも、それがすごい快感なんですよ。そういう魔術を持っているのが太宰の魅力でしょう。私ね、今こうしてどうでもいい文を、ブログというどうでもいいメディアでたれ流してますけどね、実は野望があるんです。つまり、私はこの歳になってもまだ勘違いし続けるんです。太宰の前では。今どき、そんな夢を見させてくれる人、そんなにいないですよ。
それにしても、彼はいたずら好きですね。あんまり仲良くなると、調子に乗ってしかけてくるんで要注意です。適度に距離を保っておつきあいしていこうと思っています(笑)。
あっそうそう、人間合格の人の名言。
「人の中に小さな宝石があって、それを作家が発見する」
我々凡人が見逃してしまう宝石を、いとも簡単に見つけて示してくれる、それが作家さんなんですね。
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コメント
こんにちは!
私もその番組を楽しみにして観てましたが…。
感想は「?」(笑)
物事には、本当に色々な捕らえ方はがあるのですね!
まさか、若者のブログと一緒なんて!!
私の捕らえ方とは違ったので結果的には面白かったかな?
太宰治さんは、確かに色々な面のイケメンだと思いますが、
私から見ると、
「ずばり、母性本能を物凄くくすぐる男性」
なんだと思います!
だから、文章にも魅力があるのではないかなぁ?
今更ですが、先生の太宰授業面白かったです♪
是非もう一度聞いてみたい!!
投稿: ノリ | 2009.06.25 12:25
ノリよ、よく分かってるね。
母性本能くすぐりダメンズって感じかな。
でもね、やっぱり文章が天才的なんだよ、結局。
オレは母性本能もくすぐれないし、
ダメンズにもなりきれないし、
顔も文もイケメンじゃないし、
やっぱり憧れるね、男としても。
投稿: 蘊恥庵庵主 | 2009.06.25 18:49