トマソンと「物語」
今日は学校が創立記念日ということで休日。仕事と趣味をかねて昨日から東京に来ております。
昨日は午前中、プロレスリング伝承者の方と150分にわたってじっくり対談。学ぶこと多数。響き合うこと多数。自分のやるべきことに示唆を与えていただきました。
午後から夜にかけてはコンサートに向けての練習&卒業生にレポートの指導など。あとは飲み会。
そして今日は、仕事関係で何人かの方にお会いし、そして、その合間に急きょバロック・バンドの練習に参加。さらにそのメンバーの方の案内で新宿界隈あやかし探索。すぐれた先達のおかげで超充実いたしました。いやあ、東京は面白い。渾沌。垂直のみならず水平に歴史の地層が形成されていますね。
そして、あやかしの地下水脈から湧き上がり、こぼれ落ちる霊気のすさまじさ。先達はそれを見事に感知して私をあちらの世界にいざなってくださいました。
その「あやかし」については、社会的にいろいろと問題もありますし、私自身が勉強不足の点もありますので、今日は別の「もの」を紹介いたします。
都市というシステム化された日常的論理の中に現れた「もの」。その一つが「トマソン」です。トマソンとは「超芸術」であり、Wiki的に説明するなら「不動産に付属・保存されている無用の長物。創作意図の存在しない、視る側による芸術作品」ということになります。赤瀬川原平さんらが発見、命名。
街に自然に(しかし不自然に)存在する意味不明な物件ですね。そういうものに対してある種の感動や感銘や共感をおぼえるのが、トマソニストとでも言うべき人種であり、私は物件に限らずあらゆる事物・事象に関してトマソニストでありたいと思っています。
ある意味「あやかし」に対する感受性というのも、やはりトマソニスト精神に通ずるものがありますね。その証拠に我が先達は私が見逃してしまいそうであったトマソン物件を発見しました。
これはなんなんでしょうね。上の写真を見てのとおり、一本の道に突然コンクリートの壁が現れ(しかし、半分だけ)そしてそこから不思議な角度で鉄骨風なゲートが張り出している…。そこをフツウにおばちゃんが通り抜け、自転車が疾駆していく。
もう少し近づいてみますと、こんな感じになっています。このコンクリートの塗り壁も、どこか取ってつけた感があり、つまりは誰かのなんらかの意図というものが感じられます。そして、やはりゲート様の「もの」の微妙な存在感というか、非存在感というか、非日常的な感じがたまりませんね。なんでこういう角度なんでしょう。フツウは道に直角、すなわち壁の延長線上に位置させるべきでしょう。それが、この角度ですからね。謎です。
長さ自体も斜めに設置するには中途半端でして、向かって右側にも人ひとりが通れるくらいの空間ができています。かといって可動式でもありません。赤い靴を履いているような足下のカラーリングも美しい。
ゲートを恭しくくぐり抜け、反対側の世界に出まして振り返ってみますと、このようになっています。なんと、壁のあちら側(こちら側)には自動販売機が設置されていたのでした。これは予想外でした。まさかこの門をくぐると、そこにペプシが派手ばでしく待ち構えているとは。あの塗り壁の無機質な世界の裏側に、これほどきらびやかな世界があるとは。まさに陰陽表裏一体。そして、無造作に配置されている赤いコーンが、ゲートの足下との絶妙なバランスを取っています。お見事。
けっこう人通りが多かったので、あまりゆっくり物件を観察できませんでした。まあ、なにしろ新宿の大通りを入ったすぐのところですから、地元ではもちろん有名な物件であり、ある意味日常の風景として、住民たちは慣れ親しんでいるのかもしれません。私には亜空間への入り口にしか見えませんが。
さて、こうしたトマソン物件の面白さ、魅力というのは、やはりその「モノ性」にありますよね。意識としての「コト」の外側に存するある種の自然体。都市というのは「脳化」の顕著な産物で、ほとんど「コト」のコンプレックスと言える存在です。その中に潜む、いや潜んでいないな、あまりに堂々とした非論理性、非実用性。これは刺激的です。我々が論理や実用だと考えているコトというコーティングの下から破り出たような生命力。これぞ「モノ」の怪たるトマソンの魅力です。
私たちは、これを飼い馴らすために、説明を求められます。これはきっとこういう事情でこうなったのだろう。人は皆、それぞれの「モノガタリ」を始めます。「カタル」とは「固める」ことにほかなりません。カオスを修理固定するのです。それが私の考える「物語」ですね。
今日の東京は物語に満ちていました。こんなに語れる街だとは。
こうした「物語」を生む力は、たとえばユーモアや詩やプロレスといった非日常的な営みの中に散在します。私たちはそうした物語を欲しています。都市伝説はその一つの表れにすぎません。私たちの日常生活のすぐ隣には、必ずこういう物の怪が棲んでいるのです。実に楽しい。都市というウソ(コト・フィクション)に芽生えた徒花…いや、どちらが徒花かわかりませんね。
いや、実は自分こそがトマソンだったりして…笑。
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コメント
トマソンは「トマ損」ともいい、あの春でも秋でも常に回っている高価な米国製超大型扇風機が語源ですね。「役に立たない」というのが根底にあります。まさかこんなところで「名が残る」とは思いませんでした。よく言えば、記録より記憶に残る、といいましょうか。米国製超大型といえば、GMの破綻とトマソンの姿が重なって見えます。
一応念のためちゃんといっておくと、元巨人の助っ人外国人トマソン選手ですね。ご本人はご存知なのかどうか・・・。
投稿: AH | 2009.06.02 20:18
「超芸術」に思いを馳せる度、芸術の奥深さ、そしてどうでも良さに改めて気づかされる私です。
投稿: LUKE | 2009.06.03 02:17
AHさん、おはようございます。
GMのことを思うと、世の中何がトマソンかわからなくなりますね。
北朝鮮もトマソン?
例の古楽界の迷信というのも、もしかしてトマソン?
でも、不思議とトマソンに惹かれるんですよねえ。
LUKEさん、どうもどうも。
たしかに超芸術と芸術の境目なんて微妙ですね。
そして、実は芸術より超芸術の方が面白かったり、分かりやすかったりして。
投稿: 蘊恥庵庵主 | 2009.06.03 04:37
バロックヴァイオリンのパイオニアといっても良い演奏家の方と師匠のお宅でトマソンについて盛り上がったことを思い出しました。もう20年位前のことです。おぼろげな記憶によれば、霊南坂教会の話をしていて、そこからその周辺にある不思議なものたちへと話が行ってしまったのでした。そのほとんどは、アークヒルズによって消されてしまいました。
投稿: 貧乏伯爵 | 2009.06.03 10:21
ワォ
この写真新宿のどのあたりですか?
アタシもここをぐぐり亜空間へ行きたい。。。
投稿: カオル | 2009.06.04 02:23
伯爵さま、どうもありがとうございました。
霊南坂のあたりって宝庫だったんですよね?
そうですか、アークヒルズに消されちゃいましたか…。
なんとも味気ないやつにやられちゃいましたね。
カヲルよ、ここだよ。
http://maps.google.co.jp/maps?f=q&source=s_q&hl=ja&geocode=&q=%E6%96%B0%E5%AE%BF&sll=39.313482,140.565096&sspn=0.008932,0.014677&ie=UTF8&ll=35.701401,139.707628&spn=0.001172,0.001835&z=19
投稿: 蘊恥庵庵主 | 2009.06.04 08:44
とてもわかりやすい

ご親切にありがとうございました。
投稿: カオル | 2009.06.05 23:46
ぜひ、そのゲートをくぐった先にある戸山公園、戸山団地にも潜入してみてくれ。
異次元だよ。
投稿: 蘊恥庵庵主 | 2009.06.06 07:45