富士にはニャンコがよく似合ふ
↓あまりに、おあつらいむきの富士である。
明日、太宰の命日ですね。来週の今日は桜桃忌。生誕祭。今年は太宰治生誕100年です。明日はちょっと東京に行く用事もありますので、玉川上水にでも飛び込んで、いや、お参りしてこようかな、などとも考えております。
いや、たぶん、行かないだろう。なぜなら、去年、三鷹の禅林寺に参って、本当に参ってしまったからだ。今度も何をされるかわからない。
…と、ホントに太宰の文体って伝染しますね。太宰体で文章を書こうとすれば、いくらでも書けますし、やはり、そうしますと太宰風な下卑た内容になっていくから面白い。
ま、今日はやめときます。再びワタクシ流の平成軽薄体に戻します。
あっそうそう、太宰と言えば、今、奥さんの津島(石原)美知子さんの「回想の太宰治」を読み直しているんですが、実はですね、私が平成の太宰治だと思っているある天才がいまして(誰とは申しませんが、このブログで何度も取り上げている男です)、彼の奥さんもまた、美知子さん同様、とっても大変な思いをしています。そこで、彼女にも「回想の○○○○」を書くことを勧めようかと思ってるんですよ。ナイショですけどね(笑)。って、まだその男は生きてますが。
ところで、今日、甲府の方に出張だったので、ついでと言ってはなんですが、帰りに御坂峠の天下茶屋に寄ってきました。ええと、どっかに書きましたけど、私、あそこに関しては、ある事情(太宰のいたずらその1)により、出入り禁止となっています。ですから、そうですねえ、7年ぶりくらいになるんでしょうか。いや、8年ぶりくらいかな。
その後、「富嶽百景」にも出てくる茶屋のT家の方々といろいろとご縁がありましたので、今回は勇気を出して店の中に入ってみました。
平日の夕方の中途半端な時間だったので、店内にはお客さんも店員さんもおらず、私の緊張感は行き場を失ってもやもやと漂ってしまいました。しかたなく、土産物コーナーのどうでもいい溶岩の置物などを手にしたり、いかにも大学生のアルバイトが書いたような手書きの張り紙の数々を無意味に眺めたりして、結局すぐにまた店の外に出ました。
ふぅ。井伏鱒二が去った後の、太宰治の感じたある種の居心地の悪さ(御坂で苦慮のこと)はこんな感じだったのかな、などと、すっきりしない富士を眺めながらため息をつこうと思ったら、あらら、そこに救世主が現れたではないですか!
猫です。猫がくつろいでいます。寝ころんで富士を眺めていた猫が、寝ころんだままこちらを振り返って「ニャー」。私は救われた気がしました。
そう言えば、太宰の作品には、猫が出てこないなあ。犬は出てきますね。太宰の犬嫌いは相当のものだった。「畜犬談」では、いかにも太宰らしく偽善、偽愛的な物語を展開しています。太宰は愛憎逆転させて小説を書く人です。
そう、猫、猫は出てこない…ような気がする。太宰好きと猫好きはなんとなく重なるような気がするんですけどね。
私の印象に残っているのは、「女人訓戒」という、女性の動物性を巧みに描いた小品の一節くらいです。
『日本でも、むかしから、猫が老婆に化けて、お家騒動を起す例が、二、三にとどまらず語り伝えられている。けれども、あれも亦、考えてみると、猫が老婆に化けたのでは無く老婆が狂って猫に化けてしまったのにちがいない。無慙(むざん)の姿である。耳にちょっと触れると、ぴくっとその老婆の耳が、動くそうではないか。油揚を好み、鼠を食すというのもあながち、誇張では無いかも知れない。女性の細胞は、全く容易に、動物のそれに化することが、できるものなのである』
とすると、あの猫、多分に女性的でもあった太宰治の化けた猫であったのかもしれない…なんてね。それにしても、「富士には猫がよく似合ふ」なあ。やっぱり小説の言葉というのは、作家の極度な(しかしあまり有意味でない)緊張が生むものであり、その力学が日常の風景、すなわち空間や時間を微妙に歪めて私たちに提示されたものなんですね。
そんな、あまりに基本的なことを、富士と茶屋と猫と太宰と自分に教わった、素敵な一瞬でした。
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