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2009.05.23

フジファブリック 『CHRONICLE』

51xp1xxzebl_sl500_aa240_ 生フジファブリック。私の好みを知ってて作ったんじゃないの?というくらい、ちょっとくどいくらいにツボを押さえてきましたね。
 TEENAGER以来1年4ヶ月ぶり、4枚目のフルアルバムは、スウェーデンはストックホルムで録音。志村正彦くんが全ての曲を主導して作ったと言います。
 志村くん、昨年の5月、伝説の市民会館ライヴを実現させ、一つの夢を完結させました。そして、折り返し地点を通過して、今度は過去を引きずるのではなく、全く新しい世界に挑戦したようです。
 それをもって、昔の方が良かったというのは簡単です。もう何度もレミオロメンのところで書いてますが、アーティストというのは、常に挑戦していく存在であり、また、少なくとも享受者たる一般人よりも才能も勇気もあり、常に数歩先を行くものです。ですから、それについてゆけないファンがいるのは当然です。
 これもいつも出す例ですけれど、あのビートルズをリアルタイムで体験していると考えてみてください。似たアルバムがありますか?似た楽曲がありますか?常に変化し続け、ある意味裏切り続けたのです。それも音楽史上最大級の裏切りばかりですよね。そこが彼らの偉大なところです。
 今回、私好みだと言ったのは、まさにヨーロッパのテイストが満載だということです。それこそビートルズから入って、ユニコーンの奥田民生も大好きなELOの熱狂的なファンになり、その後バロック音楽に進んだ私は、コテコテのヨーロッパ好きである(だった?)わけでして、それはつまり、近代和声やオン・ザ・ビートな拍動、破綻をきたさない構成美などが好きだったということです。あと、どちらかというと長調優先。
 今回のアルバムはそういう意味で、今までのような、非ヨーロッパ的な、ドロドロした、変態的な、土俗的な、日本的な、下吉田的な、西裏的な、吉田うどん的な、いわゆるフジファブリックらしさがなくなっています(吉田うどんはDVDに出てきましたが…笑)。潔いほどに。あるいは意識的になんでしょうかね、とにかくそれらが消えています。
 もちろん、多少は面影がないとは言えませんよ。間接的と言えば間接的ですが、ある意味民族音楽的でもあります。スウェーデンですから、純粋なヨーロッパではありませんし。
 そうそう、パロック音楽で言えば、まさにスヴェーリンクという感じですね。彼のオルガン音楽のようです。
 あと、そうですねえ、バロックではなくロックで言えば、同じ北欧のMewと似た印象でしょうかね。私好きなんですよ。こういうの。近代西洋音楽の理論からちょっとはずれたやつ。そのちょっとというのが難しいんですけどね。
 で、今回志村くんがやりたかったことは、いちおう音楽をかじって生きているワタクシからしますとね、三つのことに集約できると思いますよ。それが私には心地よかったけれども、もしかすると、全体的に単調なイメージを与えてしまったかもしれません。
 なにしろ、しつこいほどそこにこだわっている。明らかに確信犯的にいくつかのことをやっています。いや、もし無意識だとしたら、それはそれでヤバいかもしれません。ややストーカー的とも言えますよ。やっぱり変態なのか(笑)。
 まず第一に、サブドミナント指向が強いということです。Aメロの出だしが、トニック→サブドミナントと進行する曲が、ざっと聴いた所で15曲中5曲ありますし、サビでも使われています。また、Aメロがサブドミナントから始まる曲3曲あります。これは中世以前のヨーロッパによく見られるパターンですね。まあ、やさしく言えばフォーク・ミュージックだということですね。
 第二に、これが最も特徴的なところだと思いますが、サビに、ある古典的王道進行が使われ続けるということです。わかりやすくキーをCにして説明しますと、G→E7/G#→Amという、バロック以降多用されるようになったプチ転調法です。ドミナントからトニックに行くと見せかけて、平行調に一時的に転調するやつですね。それでだいたいすぐにまた戻る。ですから、結果としてG→E7/G#→Am→Gとなることが多い。それを今回のフジファブリックは15曲中8曲でやっています。
 実はこの進行って、胸キュン、切なさの記号になるんですけど、志村くんそんなに胸キュンしてるのかな(笑)。ちょっとこの胸キュンの連続は異常です。普通アルバムで2回使えばもうお腹いっぱいなんですけどね。私だったら、この変態的な連用はできません。おかげで、14曲目でも、コードがドミナントに行くたびに、「また胸キュンするんじゃないか?」とドキドキしてしまいました。結局胸キュンしないで終わるんですけどね。だから確信犯的に感じるんですよ。なんか振られたような、肩透かしくらったような、遊ばれたような気さえしてしまった。志村的思わせぶり…ってか?
 それから、それらと対照的にマイナー・コードで演奏されるロック色の濃い曲。今までにないタイトなリズムの曲たちですね。そしてそれらには必ず志村流ラップが盛られています。ロック&ラップ、それが4曲。
 というわけで、上の三つに分類されない曲は、厳密にはありません。12が微妙ですが、あれもロックンロールですから、サブドミナント指向が強い。ロックンロールはフォーク発祥です。
 これらの要素は、はっきり申して私の好みですので(ラップはちょっと苦手ですが)、全然問題なく受け入れることができましたし、私も大人(おじさん)ですからね、こういう変化には全然驚きません。自分自身の音楽の嗜好も極端に変ってきましたから。
 このアルバムは、今説明したある種の徹底ぶりによって、志村くんが、富士吉田の、それも西裏的な風情(それはある意味トラウマだったのかもしれない)を吹っ切って、世界にはばたく第一歩となる記念すべき作品となるでしょう。私は純粋にこのヨーロッパ的世界(くるり的とも言えるが…)を楽しめましたし、次は何をやらかしてくれるかという、彼らの新たな可能性を感じることもできました。もちろん、歌詞の世界でも全く同様のことが言えます。
 これから、毎回全然違うアルバムを出してほしいですね。最近型にハマってしまって生命力を失っていくバンドが多いんです。フジファブリックは、もっと自由に、ファンを困惑させ、市場を混乱させてほしい。次はアフリカで録音とか、中国で合宿とか、いいんじゃないですか?期待しています。

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