『爆笑問題のニッポンの教養 「シンプル最高/再考 ~原研哉(デザイン思想)」』(NHK)
いろいろな意味でタイミングのいい番組でした。
つい最近、武蔵野美術大学に入学したばかりの教え子とデザインの話をじっくりしたばかりでしたし、記事的にはサウンド・オブ・サイレンスの記事の中で「色即是空・空即是色」について書いたばかりでした。
原研哉さんの文章については、2月に東大の問題の記事でとりあげていました。そして、なんと言っても、今日ちょうど能楽師野村四郎さんのインタビューを読んだばかりだったので、番組の「空」とか「間」とか、そういうキーワードが実にしっくり解りました。
原さんの言うことと、野村さんの言うことと、あまりにも同じなのでビックリ。たとえば、あの香水の箱の傾きというか、歪みというか、ズレは、能の「スレ」そのものですね。ちょっとはずすと野暮になってしまう危険もある微妙なスウィング。
シンプル、エンプティー。複雑なものを通って簡素なものに到達する。そして、その「空」「間」こそ、無限の可能性を秘めている。何もないはなんでもあり。まさに「色即是空・空即是色」です。ワタクシ流に申せば、「コト」を極めて「モノ」に至るということでしょうか。
「当たり前を新しく」。これもある意味「空即是色」ですね。無意識を意識に変換するわけですから。なるほど、原さんが言うように、アートとデザインは似て非なるものどうしですね。アートは「自分の頭で考えろ」ですが、デザインは「他人の頭で考えろ」か。ふむふむ。
いつも書いているように、「コト」化していくことは、対象を殺すことです。生命力を奪って固定していく行為です。しかし、そこからはみ出して、また蠢き出すのが、「ホンモノ」です。私たちには「コト」化という本能があり、世の中のカオス(モノ)をサブミットして、随意な「コト」に変換して、器や箱に整理して、そして安心を得ようとします。たとえば言語化や習慣化や常識化がそれですね。
そこには安心はあるかもしれませんが、創造性はありません。原さんの言うデザインは、そこに生命の種を再び植え付ける行為なんでしょうね。もう一度芽吹かせるわけです。その効果的な方法として、シンプルとかエンプティーを使うのは、たしかに日本独自の手法でしょう。
なるほど、貴族的な豪奢な美を極めて、戦乱というカオスを経て、そして至った「簡素の美」「禅味」「幽玄」「空」「雅」「渋味」「粋」。それは実に高度な領域なのかもしれません。
「秘すれば花なり」…世阿弥。カッコいいなあ。しかし、変態チックでもあるな(笑)。
私も、こうした日本独自の美意識のようなものを、もっと世界に広めるべきだと思いますよ。もっと自信を持っていいでしょう。たしかに、そういうものは現代の経済至上主義、商業主義の中では、なかなか輝けません。しかし、今こういう時代を迎えて、ようやくまた日本的美意識が再評価されるのかもしれませんね。これからは、「空」や「無」や「簡素」や「知足」がファッションになっていってほしいものです。
先ほど、ウチの娘たちが、何かのごっこ遊びに興じていました。何もないところに、全てを生み出して、そしてそれを共有している様子を見て、これこそ、「空即是色」だなと思いました。こういう子どもの感覚、すなわち、「コト化=仕事」に毒されていない子どもの「モノノケ」性こそ、実は最もクリエイティヴなものなのかもしれません。そういう意味で、原さんはやっぱり大きな子どもなんですよね。素晴らしいことです。
一度全てを白紙に戻して「モノ」の本質に迫る。原さんのデザインに、そういう可能性を強く感じました。ああ、面白かった。
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