『ロケット団解散!?』に見る日本文化論
いきなりポケモンの話ですみません。でも、ちゃんと最後は文化論に持っていきます(笑)。
今日帰宅したら、ちょうどポケモンが始まりました。ここ富士山では、テレビ東京のアナログ波を直接受信しています。2011年になったらウチではポケモンが見られなくなる予定ですので、今のうちしっかり見ておけ!と娘たちにはよく言い聞かせてあります。おそるべし、国家権力。私は、当然それに抗いますよ。いかなる手段を使っても…笑。
さて、そういう強大な力に健気に立ち向かう、実は小市民的な存在なのが、日本のアニメやマンガの悪役たちです。もう皆さんもお気付きと思いますが、日本では、ヒーローやヒロインよりも、悪役の方が愛される傾向があります。いつのまにか善悪転倒する…とまではいきませんが、人気は悪役の方があるということが多い。
まず、彼らは努力家なんですね。懲りない。毎回ドッカーンとやられて、星になっちゃったり、ドクロ雲になっちゃったり、大変なんですけど、また次の週にはしっかり頑張ります。根性があるというか、なんというか。
私はアニメやマンガには詳しくないので、子どもたちが観ているものしか知りませんけど、たとえば、このポケモンのロケット団や、アンパンマンのバイキンマン&ドキンちゃん、マイメロのクロミ&バク、ヤッターマンのドロンボー一味など、みんな実に愛すべきキャラですね。
もちろんこういう悪役人気というのは、外国にもあるとは思いますけれど、なんていうか、日本のそれは本当に一つのパターンになっていると感じます。これはおそらく日本人の歴史的な心性に基づくものですね。
今日のポケモンでは、その愛すべき悪役の代表格である「ロケット団」が解散するという、実に衝撃的な、ポケモンという作品のみならず、日本の文化をも揺るがしかねないタイトルでした。先週、次回予告があってからというもの、きっと多くの日本人がハラハラドキドキしながら、今週の放送を待っていたことでしょう。
よく考えてみれば、悪の団体が解散するというのは、これはめでたいことです。やっとサトシやピカチュウたちに、いや地球に平和が訪れるわけですからね。しかし、なぜか不安になる。
つまり、彼らは必要悪なわけでして、彼らがいて初めて「正義」なるフィクションが成立するわけですね。そう、私が最近研究している、ヤクザみたいな存在なんですよね。この前、振り込め詐欺の記事で書きましたが、我々が悪に手を染めないために、相対的に「善」であるために存在してくれている「悪」なわけです。
まあそれにしても、今回の放映でのムサシの魅力はホントにお見事でした。もともととっても美人で姐御肌で、私からすると完全に萌えの対象であり、ポケモンセンターで「ムサシのフィギュアはないんですか?」と聞いてしまうような存在なのですが、今日のムサシにはもう、「萌え=をかし」を超えて、完全に「あはれなり」すら感じてしまった。武士道だ…。愛ではなくて「義」でした。
特に、絶体絶命に陥った際、コジロウに語った「死んでも来世があるんなら、また会いましょうね、あたしたち!」…これには泣けたなあ。なんていうか、仇討ちの物語というか、彼らの「夢」って、もしかしてとっても崇高なものなんじゃないかなって思いました。命をかけてるわけですから。ムサシとコジロウの関係って、あれって恋愛なんていう陳腐なものを完全に超えてますしね。「義」で結ばれた関係なんです。
あと面白いのは、さっき挙げた悪役たち、みんな女中心ですね。強い女が一人いて、ちょっとなさけない男たち、でもちょっとカワイイ男たちが、へーこらしてる。これって、やっぱり日本の根源的な女系文化の象徴でしょうね。西洋の男系的視点からすると、やっぱりそれって悪になっちゃうんだなあ。
いつかも書きましたけど、サトシたちって、ポケモンたちを馴致して人間社会に取り込み、まるで闘牛や闘鶏、闘犬のような遊びに興じているわけですから、とっても西洋的な自然支配観が表れた「正義」ですよね。それに対抗し、悪の枢軸を演じつつ、ゲリラ戦にいそしむ彼らに、いつかの日本を見るのは、私だけではないかもしれません(なんちゃって)。
ああ、そうだ。ついでに語っちゃおう。プロレス論です。ミッキー・ロークの「レスラー」、公開が非常に楽しみなんですけど、あれってキリスト教の受難の物語、すなわち「パッション」であるという話が「kamipro」に載ってました。なるほど。「キャッチ・アズ・キャッチ・キャン」が、アメリカで「受け」中心のパッシヴなショー・プロレスに変貌していったのは、キリスト教の受難と復活の影響だと。なるほど、と思いました。
では、日本でも独自の発展を遂げたパッシヴなプロレスのベースは何かといいますと、やはり臥薪嘗胆して捲土重来を期す武士道的世界観だと思うんですね。やられてもやられても歯を食いしばって立ち上がっていく姿。命をかけて「義」を貫く姿。負けることが分かっていても、強大な敵に立ち向かっていく姿。そして、そうした敗者、弱者に対する共感としての判官贔屓。そこにドラマを見出し、自らを投射して感動するという、いかにも日本人的な何かがあるような気がします。
な〜んて、そう考えると、ウチもロケット団みたいなもんだな。カミさんが自己中心的で懲りないムサシ、私がヘタレなコジロウ(笑)。黒ニャースもたくさんいるし。子どもたちは…ソーナンスとかマネネとか?ははは、でも、たしかにウチは武士道に則った「必要悪」かもしれませんね。いや、それを目指そう!愛される悪役になるぞ!なんちゃんて。
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コメント
じゃあ・・
死んでも来世があるんなら、また会いましょうね、
あたしたち! ( ̄ー ̄)ニヤリ☆
投稿: 庵主セコンド | 2009.03.06 13:34
ゲゲゲッ!
来世なんかないよ〜ww
な〜んて、夢の実現って楽しいから、ぜひよろしくお願いいたします。
投稿: 蘊恥庵庵主 | 2009.03.06 14:11