神は、神審は、どこに行った?
今年でちょうど50年になります。初の天覧試合でのサヨナラホームラン。長嶋茂雄による神事。まさに岩戸開きの一振りでした。
ちょっと前の話になりますが、SAPIOの2月18日号は「昭和天皇と私たちの幸福な日々」ということで、まあ、そういう特集でありました。
小学館のSAPIOは、保守嫌米嫌中嫌韓という感じで、私は嫌いではないのですが、普段はあんまり読む気の起きない雑誌です。嫌いではないけれども読む気が起きないというのは、たぶん、自分に似ている人と二人っきりになるのは気恥ずかしいというのと似た感情だと思います。
そんなSAPIOさんでありますが、やはりこの記事には不思議な興奮を覚えてしまいました。そうそう、この記事だけは、今日ネットで読めるようになりましたので、ぜひどうぞ。こちらです。
また、懐古的な記事になってしまって申し訳ありませんね。しかし、どうしてもここのところ、「神の不在」を感じるんですね。たとえば、もうすぐWBCが始まりますが、やっぱりあそこに「神」はいないような気がする。いや、イチローはそれに近いかもしれないけれど、しかし、何かが違う。彼は神から技を託されている存在かもしれないけれど、神を招来する働きはしていないような気がする。天覧試合でサヨナラホームランを打って、日本の経済を動かしてしまうような力はないような気がします。
前回WBCでは、王監督が神を招来しました。王監督はそういう意味で、やはり長嶋茂雄と同レベルの人です。あの優勝の瞬間、たしかにスポーツが、野球が、クラシックな神事的意味を取り戻したと感じました。
つまり、スポーツにせよ、芸術にせよ、政治にせよ、神を招いて人心を動かす、そういうミーディアム的な存在が必要なのであって、ただ単に小手先の技術博覧会ではいけないと思うのです。
最近特に興味のあるプロレスや歌謡界なども、全くその通りです。もちろん、そこには、審神(さにわ)たる芸能者と、もう一つの仲介役であるヤクザの存在が欠かせません。
そういえば、バルトが神話作用で、既に嘆いていましたね。欧州では1950年代には、すでに「神の不在」が顕在化していたのでしょうか。いやいや、それよりさらに半世紀以上前に、ニーチェが「神は死んだ」と宣言していましたね。
そう考えますと、かの戦争での日本は、既に神が不在になりつつあった、つまり人間中心の科学万能主義に取り憑かれ、そして偽神たる「カネ」の力で経済社会に成り下がった欧米諸国に対して、非近代的な神的世界をもって対抗した国だったとも言えますね。
そして、敗戦。しかし、神は負けていなかったのでした。武力で負け、(戦後)民主主義を注入されても、神的世界は生き続けました。神がいたから審神がいたのか。審神がいたから神が降臨したのか。
でも、最近はどうでしょうか。どうも、違うような気がしますね。結局、カネという悪神、悪魔が世界をひっかき回し、人心をひっかき回し、本当の神と私たちを隔絶しているように思います。
この神話的な天覧試合には、たくさんの審神たちがいました。それは、長嶋茂雄、王貞治、藤田元司、小山正明、村山実ばかりではありません。もちろん、昭和天皇自身が最強の「イタコ」でありました。今、彼らの神懸かり合戦を復習してみることは、実に意味のあることだと思います。
古来ずっと存在し続けている神話や物語とは、そういう復習の意味を持つものです。今回のSAPIOには、そうした神話的世界を語り継ごうという意志が感じられ、私は好感を抱きました。
私は、小学生当時、大田区に住んでいまして、毎日曜日には、早朝自転車を駆って多摩川の巨人軍グランドのあたりに行き、神審者たちの隣で草野球という神事にいそしんでいました。時々、長嶋茂雄や王貞治をはじめとする神審たち、まあ当時の私たちからすると本当の神に見えましたが、彼らが私たちのところに降臨して、サインをくれたり、場合によってはキャッチボールをしてくれたり、いっしょに土手の反対側にあったお店でコーラを飲んだり、そんな体験をさせてくれましたっけ。まさに、神が、神審がそこにいて、私たちの日常と神話的世界をじかに結んでくれたのです。素晴らしい時代でした。
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