『おくりびと』 滝田洋二郎監督作品
遅ればせながら観ました。学校で生徒たちと一緒に鑑賞。たしかにいい映画でした。
内容的には、先月書いた「フィクションから生まれるリアルのお話をちょっと」という記事で予想したとおりでした。あえてその時書いた文を引用します。
…まず、日本の2作品がアカデミー賞を受賞したことです。「おくりびと」、実はまだ観ていないのですが、観ていなくともじゅうぶんに想像できます。作品としての物語というのももちろんありますが、それ以上に、それ以前に、「納棺師」というお仕事の持つ美しいフィクション性が感動を呼んだのであろうと。
人間の死はあくまで現実です。それは単純に悲しいもの、あるいは悲惨なもの、汚いものとしてとして片づけられるものではありません。そこに、実に形式的で、様式的で、ある意味フィクショナルな儀式が加わることによって、ある次元に高められるわけですね。そこには、単純な現実を超えたリアルが生まれます。それぞれの人の持つ、それぞれの感情が昇華され、オーガナイズされ、一つの形に収斂していく。
そのような「カタリ(語り・騙り・形り・固り)」がなければ、私たちはたいがい残酷な現実にさらされて途方にくれるものです…
このように予想し、まったくその通りだったということ自体、日本映画の一つの「型」を示しているとも言えましょう。私はそれが好きです。小津安二郎作品がそうであるように、「もののあはれ」を「型」を通して静謐に語り続ける。それが欧米でも評価されたというのは、喜ばしいことですね。
内容については、本当に多くの方々が語ってくれているとおりですので、今日は少し違った視点から感想を書こうと思います。
まず、全体を通じて、同じ本木雅弘さん主演の「ファンシイ・ダンス」との共通点を多く感じました。まあ、それこそ、日本映画の脚本の「型」であり、王道なんですけどね。
厭われる仕事。それにいやいやながら従事しなければならない主人公。離れていくパートナー。次第に「形式美」に目覚め、それにはまりつつ、成長していく主人公。予想外の事態がターニング・ポイントとなって、一気にクライマックスへ。
もちろん、「ファンシイ・ダンス」は笑いの映画、「おくりびと」は泣きの映画という違いはありますが、基本は一緒ですね。そして、本木さんの「仕事」を通じての成長の物語としても、両者は見事につながっているなと思いました。「おくりびと」を観た方は、ぜひとも「ファンシイ・ダンス」もご覧になってください。
本木さん、その「ファンシイ・ダンス」でも、本職の曹洞宗の僧侶をもうならせる演技をしていましたが、この「おくりびと」でもしっかり役者としてのプロ根性を発揮していますね。納棺師の作法についてはよく分かりませんけれど、とりあえず私の専門(でもないですけれど)チェロの演奏(の型)については、充分に努力の跡がうかがえました。なんの映画やドラマでもそうですが、その道のプロから見ると、ずいぶんと不自然に見えることが多い。特に、ヴァイオリンやチェロは難しいと思います。私も四半世紀弾いてますけど、まだまだかなり不自然です(笑)。本木さん、よく頑張っていたと思います。
「ファンシイ・ダンス」でも感じましたが、本木さん、とっても器用な上に、身体の線が美しく、何をやっても様になるんですよね。ある意味本職よりも美しい。セリフや表情ではなく、挙止動作で魅せる役者さんは、実は珍しい。それこそ、日本の伝統的な芸能の線上にいるような感じがします。貴重な役者さんです。
山崎努さんをはじめ、その他の役者さんもお見事。案外広末涼子さんもいい味を出していました。役者さんにとっては、案外死体役が一番難しいんじゃないかな、なんて思いながら見ていました。動きと言葉を奪われたら、これは役者さんにとってはきついですよね。
映像的には、全体にスローなズームインが多用されていて、観る者の集中力を高める工夫がされていました。また、庄内地方の美しい田園風景や霊山鳥海山が巧みに挿入され、素晴らしい効果をあげていました。
そうそう、ちょうど明日からあのあたりに行くんですよ。カミさんの実家秋田に行く途中、鶴岡や酒田、由良を通りますからね。出羽三山や鳥海山を望みながら。ちょうどいいタイミングでした。ロケ地巡りしていこうかな。せっかくだから。
最後に。主人公をチェリストに設定したのは大成功だと思いましたね。楽譜に書かれた音楽を演奏するという行為は、情報という「死体」を、お支度し、お化粧し、旅立たせるようなものですから。私ももうちょっと心を込めて「旅立ちのお手伝い」をしなくちゃって思いましたよ(笑)。
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