『日本語ヴィジュアル系−あたらしいにほんごのかきかた』 秋月高太郎 (角川oneテーマ21)
今日…けふ、きょう、きょお、きょー、きょぅ、きょぉ…いったい、どの表記が一番機能的でしょうか。どの仮名遣いが最も発音に忠実でしょうか。あるいは歴史的に正統でしょうか。
皆さんは、おそらく「きょう」を選ぶでしょう。
では、「今日は」というのはどうでしょう。「今日」を「キョー」と読む時と「コンニチ」と読む時で、事情が変わってきますね。挨拶の方は、もう一つの慣用句ですから、最後の「は」は副助詞の「は」と意識しない人も多いのではないでしょうか。
こちらに少し書きましたが、最近メールで「こんにちわ」と書く人が増えてきました。生徒なんかは「こんにちゎ」が多いですね。そこに抵抗があるかないかは、その人のセンスによります。
実は、仮名遣いというのは、どの時代にも大揺れに揺れていまして、どの仮名遣いが正しいというのはないんです。今我々が学校で教わる現代仮名遣いについても、いちおう規則として決めてあるだけで、別にあれが正しいわけではない。こう書くのが望ましいという程度の縛りです。
この本は、そうした日本語学的な見地に立って、デジタル時代の仮名遣いを検証し、そして、よりヴィジュアル的で、かつ機能的な「ネオ仮名遣い」を提唱する内容になっています。いちおうそういう両分野、つまり日本語学と考現学(?)を専門にしてきた私としては、「まじめ」と「ふまじめ」、「歴史」と「今」のバランスが、実に面白い本でした。筆者である秋月先生は私と同世代。なんとなく、思考や指向や嗜好が似ているのかもしれませんね。
ただ、私たちより上の世代の方々からすると、なんだこれは!ということになりかねない。大学の先生がこんなふざけた本を書いていいのか!なんて、目くじら立てるかもしれない。まあ、それこそが言葉の歴史を取り巻く風景でありまして、いつの時代も最近の若いもんは!と言われて、それでも変化し続けるのが、言葉のダイナミズムなのです。
私はですね、仕事柄でしょうか、最近のギャル文字やギャル仮名遣い、顔文字やAA、故意の誤変換なんか、あんまり抵抗がない方なんです。なにしろ、生徒から来るメールはそんなんばっかりなんで。今や連絡網もメールで済ます(というか、それが一番早くて便利で確実)時代です。多い日は生徒と何十通ものやりとりをします。
あっそうそう、ちょっと面白い仮名遣いのお話を一つ。つい最近の面白ネタです。
ウチのクラスのギャルたちの受験もいちおう一段落しまして、それぞれだいたい行きたいところに行けることになりました。結果オーライということで。
で、そのうち、ウチのクラスの「天才」がとんでもないことをやらかしました。
この天才、まじ天才バカボンでして、なにしろ某国から日本にやってきたのが5年ほど前、それまで全く日本語を知りませんでした。それが2年足らずで日本語ペラペラ、ウチのクラスに入れるくらいの成績をとるようになっちゃいました。それだけでも海を渡ってきた「神」なんですけど、それから3年間、ウチのクラスで勉強に励み…ではなく、ホントよく遊び、勉強もしてるんだかしてないんだか、とにかくテレビは6時間観る、一日中マンガを読んでる、ケータイメールにはまるとそればっかり、ケータイ小説なんか読み始めたら、受験だろうが何だろうがそっちのけ、というホントある意味困り者だったんです。
ただ、私はなんとなくその天才ぶりを信頼しているところもありまして、正直3年間、そういう姿をみても、ほとんど注意しないで来たんですね。基本放置と。ま、性格的にも言われて「はい」と素直にやるタイプじゃないし(笑)。
で、結果から申しますと、なななんと、某旧帝国大学に受かっちゃいました!あり得ねえ〜。
その彼女がですね、その大学を受けている最中によこしたメールを一つ紹介します。内容はどうでもいいんですが、その仮名遣いとか、顔文字とかですね。
『テンションあげたいけど
なんか疲労感が……
そんなの気にしてられませんね
がんばってこ-ぢゃん
いぇい(*^▽^*)/
風邪わあっち向きだい』
おいおい、「風邪」じゃなくて「風」だろ!これは故意による誤変換ではなく、素で間違ったとのことです(笑)。だいたい、「風はあっち向き」ってどういう意味かよくわからん。
仮名遣い的に注目すべきは、「ぢゃん」の「ぢ」と「風邪わ」の「わ」ですね。まあ、こういうのが女子高生にとっては日常なわけです。国語のセンセイに対するメールでさえ、彼女らはこんな感じ。
で、その後もホントどうでもいい会話が試験当日交わされたわけですが、この天才、試験が終わって帰ってきまして、おいどうだった?と聞くと、突然思い出したように「あっ、やべ!」って言うんですよ。
「〜ではない」と書くべきところを「〜ぢゃない」って書いちゃったかもしれない!とか言うんです。うわ〜ぁぁぁぁ!!!さすがに大学入試の答案に「〜ぢゃない」はないだろ!「〜じゃない」でもかなりヤバイのに…笑。
で、結果から言いますと、さっき書いたように、そこに受かっちゃったわけですよ。たぶん、「〜ぢゃない」で減点されても、ほかがちゃんと出来てたんでしょうね。受かっちゃった。
某旧帝大にとっても、これは屈辱的なことかもしれませんね(笑)。なにしろ「〜ぢゃない」とか書いちゃうヤツを合格させなきゃならなかった、その忸怩たる思いを忖度するに、こちらも全く恐縮至極であります、ハイ。
やっぱり、これって純粋な日本人だったら、さすがにないですよね。あいつは、マンガやテレビやメールから日本語力を身につけました。ゼロからのスタートですからね。我々の仮名遣い観とは、かなり違うそれを持っているんでしょう。いやはや、おそるべし。
というわけで、デジタル時代のネオ仮名遣い、もうすでに国立大学の入試答案レベルにまで侵入しているということであります。それも、海の向こうから来た神によって。なんか、日本の歴史を一気に復習したような気がしました。
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コメント
「風邪わあっち向き」
これには古文を読んでいるときの掻痒感がありますが、そこはかとなくわかる感じもします。
ではない>ぢゃない になる理由をちょっと考えました。
否定を表すのに、ヴィジュアル的に「じ」では力不足という以外に、
携帯で「で」と「ぢ」はどちららもタ行。
ローマ字変換ではどちらもdではじまる。
発音上、日本語の「じゃ」は舌が比較的前のほうにあって[j]より[d]に近いような気がする。
どうでしょうね?
そういえば、台湾から来た学生さんは、学位論文の原稿で
ではない>じゃない 以外に、 している>してる
を連発していました。言文一致の問題も絡んでいそうですね。
論文だと理科系でもこれは許されません。
投稿: 貧乏伯爵 | 2009.03.11 10:11
えっとすごい褒められてしまった神ですけども。。。
なんかてれちゃいますねえ。あは
本当わここでいつも通り「ぢゃ」を使いたいところですが、
パソコンだと「ぢゃ」わ逆に打ちづらいというか
違和感がありますので。
むしろ「は」を「わ」と書くのも少し違和感がありまして
携帯ぢゃないとだめっぽいです
てかこれ絵文字使えるんですね( ´艸`)プププ
ではでは
投稿: ちゃー | 2009.03.11 11:01
伯爵さま、こんにちゎw
御説ごもっともです。そのとおりだと思います。
そして、当然日本語史的には、「ぢゃ」が正解ですね。
「ぢ」には力がありますね。
ヒサヤ大黒堂の広告を思い出しました(笑)。
天才ちゃーもお隣の大陸人ですけど、
やっぱり外国人としては、音から入りますからね、
言文一致というのが基本でしょう。
でも、さすがに論文ではいけませんね。
10年後はわかりませんが(笑)。
天才ちゃーよ、どうも。
なるほどねえ、パソコンだとイマイチか。
つまり、メディアによって言語に変化が起きるわけだな。
面白いね。
ホントは「う○こ」のメールでも貼ろうかと思ったんだけど、やめといたww
それにしても、お前の天才ぶりは、勉強になったね。
英単語400レベル(笑)で、旧帝大に受かるとは!
単語力じゃなくて、やっぱり外国語の文脈読み取り力だよなあ…。
漢文が苦手だったのは笑えるが。
投稿: 蘊恥庵庵主 | 2009.03.11 12:04