秋吉敏子・SWR Big Band 『Let Freedom Swing』
かなり忙しいので、たまった仕事をス〜イスイこなすため、スウィングの力を借りましょう。
うむ、これは実に仕事がはかどる…かと思えば、さにあらず。ついつい絶妙なアレンジとアンサンブルを聴いてしまう。いかんいかん。
それにしてもこのアルバム、2枚組ということもあって、実に濃厚ですね。聞き応え充分でして、とてもBGMにするにはもったいない。
秋吉敏子ジャズオーケストラ フィーチャリング ルー・タバキンは2度ほど生で聴いたことがありますが、基本、秋吉さんのビッグ・バンド・アレンジは軽妙と言うよりは、濃厚ですよね。私は正直それが大好きでした。私はいろんなジャンルの音楽を聴く変わり者なので、ジャズにいろいろな要素が加わっても全然平気なタチなんですけどね、まあ、純粋なジャズ・ファンの中には、多少鼻につくというか耳につくという方も多かったようです。
このアルバムでも、例によって、「能」が登場します。これを「痛い」と言う「日本人」はたくさんいますね。私はけっこう好きなんですが。奇を衒っているわけじゃないんですよ。ものすごく純粋に掛け合わせてるんですよね。おそらく、その根底には、ジャズが西洋音楽ではないという感覚があるのでしょう。
その秋吉さんのビッグ・バンドは5年ほど前に解散してしまいました。その後、秋吉さんは基本に帰るという意味でソロの活動を盛んにされていたようですね。だから、このアルバムは久々のビッグ・バンドものなのでしょうか。あんまり詳しくないので、間違っていたらごめんなさい。
共演している、というか、指揮し操っているのは、SWR Big Band。全然知らないバンドだったので、ちょっと調べてみましたら、ドイツのバンドなんですね。南西ドイツ放送協会・ビッグ・バンドということでしょうか。ドイツの放送局ってたくさんあって、それぞれオーケストラとかビッグ・バンドを持っていますよね。その一つのようです。
日本人である秋吉さんの編曲と指揮、ソロ、そしてヨーロッパ音楽の本場ドイツのビッグ・バンド。ある意味、ジャズ的であるとも、ジャズ的でないとも言える、不思議な組み合わせですよね。そんな彼らが、スタンダードからオリジナルまで、本当に一度にこれだけ演奏して録音したというのは、なんか不思議な気がします。おそらくライヴ・ツアーと並行した企画だと思います。ライヴでこれら全部やったんじゃないでしょうか。
なんか聴けば聴くほど不思議な感じがしてきます。不思議というのは不自然とか、そういうことではなくて、不思議に自分になじむというか、やっぱり結構好きなタイプの音楽だなと思うのです。おそらく、それは私が日本人であって、本当のスウィングが解らないからじゃないでしょうか。もちろん、それは、黒人のノリが本当のスウィングだと仮定した場合の話ですけどね。
ウチの高校のジャズ・バンド部は、この前の浅草JAZZでの顛末を見てもわかるとおり、今やとっても有名なビッグ・バンドに成長しているのですが、彼らにとってもこのアルバムはいろいろな意味で勉強になるかもしれませんね。非常に高度なアレンジとアンサンブルという意味でも、きっと驚くことでしょう。
さらに、私たち日本人がいかなるジャズ的アプローチが可能なのか、あるいは、そういう人種やルーツの違いがはたしてジャズというグローバルな音楽にとって意味があることなのか。いろいろと考えさせてくれるのではないでしょうか。
特に、リズム感というものには、本当にいろいろな種類があって、これはたしかに遺伝子にプログラミングされた何かに支配されているわけですが、それをどう活かすか、殺さないで生かすかということに対するヒントを与えられるかもしれません。
つまり、私たちは、ジャズというフィールドにおいては、本場(それが何かはよくわかりませんが…)の真似をするだけではなく、もっと自分を出していいのかもしれないということです。秋吉さんはそれをもう何十年もやってきて、そしてジャズ・マスターズ入りしたわけでしょう。これは重要なことです。
最近、私もそういうことがやっと解ってきました。つまり、自分も古い西洋音楽をやったりしてて、昔は絶対超えられない壁を感じたり、ある種の虚無主義に陥ったこともあったんです。現代日本人のオレが何やってんだ、みたいな。でも、最近は開き直って、17世紀のヨーロッパ人が、こんな演奏できないだろ!みたいな境地になってきたんですよ。イチローが本場で「野球」を貫いて一流になったように、逆に新しい命を吹き込むことができるんじゃないかって。
そういう意味では、高校生は、そんな難しいことなんか考えてませんから、だから魅力的なんだと思います。逆に大学のバンドが萎縮してしまうのは、きっと私が若い頃に陥ったような無意味…とは言い切れませんけど、余計な心配をしちゃうせいなんじゃないですかね。面白いですね。知識や常識が表現の邪魔をする。一流になる人はそこをしっかり乗り越えるというか、止揚することができるんでしょうね。
こだわって、こだわりつくして、そして、そのこだわりを超える。まさに仏教の修行そのものです。
最後にその境地に近い高僧たちの名前を記しておきます。
(musical director & piano) Toshiko Akiyoshi
(sax & woodwinds) Klaus Graf, Axel Kuhn,Jorg Kaufmann,Andreas Maile,Pierre Paquette
(trumpet & flugelhorns) Felice Civitareale,Frank Wellert, Claus Reichstaller, Karl Farrent, Rudolf Reindl
(trombones) Marc Godfroid,Ernst Hutter,Ian Cumming, Georg Maus
(bass)Decebal Badila
(drums) Holger Nell
(percussion) Farouk Gomati
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