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2009.02.08

『おもしろ古典教室』 上野誠 (ちくまプリマー新書)

48068734 の古典の授業は、完全に受験に特化していますので、私の授業で古典に開眼する生徒は皆無です。いつかも書いたように、古典なんかに興味を持って文学部志望とかになられたら大変ですから。就職できません。これ、まじです。
 私、いちおう源氏物語を訳したり、それからこのブログにも書き散らしてますが、枕草子などに新解釈を加えたり、「國文學」なんていう雑誌に原稿書いたりしてますから(まあ、ふざけた原稿ですが)、いかにも古典大好き人間であると勘違いされることも多々あるんですね。
 しかし実態はかなりの古典嫌いなんです。こういう仕事してなければ全く読まないでしょう。いや、こういう仕事をしていても、いわゆる名作とか名文とか言われるものをほとんど読んでいない。教科書すら読んでいない。暗誦なんてもってのほか。
 では、何を読んでいるかというと、まあ入試問題や模擬試験に出てくるどうでもいい文章のどうでもいい部分を読むだけです。あとは、私は文学ではなく語学の出なので、古い言葉には興味があるんですね。だから、そういうきっかけで調べものをすることはけっこうあります。でも、それはいわゆる読書とは違いますね。
 だから読んでいる文字数はけっこう多いかもしれないけれど、いわゆる古典文学にはほとんど親しんでないんです。困ったものです。本当に正直に言ってしまうと、「面白くない」「面倒くさい」…です。すみません。
 しかし、古典の良さというものがあるのも分かります。昔学校でそういう授業をしてくれた先生がいらっしゃったからです。とってもつまらない授業をされた方もいらっしゃいましたが、中には古典文学を通じて人生を教えてくれた方もいたんです。でも、そのせいで私は文系に転向し、困ったことに文学部に行ってしまった。で、国語の先生にしかなれなかった。
 自分は今、それなりに楽しめていますからいいんですが、もし今の就職先がなかったらどうなっていたかと、ちょっと恐ろしくなるんですね。ですから、そういう国語の先生が背負っているカルマから脱するために、あえて予備校的な授業をやっているわけです(ホントか?)。
 その点、この上野先生の本は実に良心的ですね。上野先生は素晴らしい先生ですよ。それぞれの章のタイトルを並べてみましょう。

 第一章 古典を読むと立派な人になれるというのは間違いだと思います
 第二章 こんな生き方したいと思ったとき
 第三章 読むとこんなことがわかる、なんの役にもたたないけど
 第四章 人は遊びのなかに学び、時に自らの愚かさを知る

 と、こんな感じなんですね。拠って立つ原点は私と同じかもしれませんが、そこから一歩踏み出して、逃げないで古典の魅力を伝えています。それも本文には古典作品の文章はほとんど出てきません。ご本人による上手な現代語訳があるのみです。原典は巻末にまとめて載せられていますから、興味を持った方だけ読めばよい。ちなみに私は読みませんでした(笑)。
 そうですねえ、上野先生の一番言いたいこと、あるいは私自身が実は言いたいこと(かな?)は、第一章の中の次の小見出しを見ていただければ分かるのではないでしょうか。

 古典なんか死んだ人のカスみたいなもんだ−『荘子』
 学んでも自分で考えないと、勉強する意味がない
 「今」と「自分」が大切なのであって、古典や過去が大切なのではない

 う〜む、たしかに。私もいわゆる「教養主義」は大嫌いですし、いや、受験のための答が一つの古典というのも大嫌いです。まさに「今」と「自分」の古典を楽しみたいとは思っています。まあ、だから「萌え=をかし」なんていうとんでもないこと言い出したりしてるんでしょうけど、しかし、そういうのは授業ではほとんどしゃべりません。だって、そんなこと答案に書いちゃったら大学落ちちゃいますからね。
 そのへんのジレンマに、私は耐えられないので、さっきも書いたとおり、とにかく点数を取るための勉強しかしません。受験の道具としてしか使っていないのです。特に漢文。
 本当は上野先生や、私をこういう世界に導いた諸先生方のように、豊かな古典の授業というのをやりたいんですけどね。考えてみると、受験勉強に縁のない就職クラスを教えてた頃は、けっこう自分の解釈で楽しい授業できてたなあ…。ちょっと寂しいかも、最近。
 ま、いずれにせよ、「今はダメ、古いものこそ素晴らしい」という単純な、そして頑迷な古典原理主義者にはなりたくないですね。
 というか、本当のこと言っちゃいますと、昔の私がそうでしたが、高校生で古典に目覚めるヤツってかなり痛いヤツですよ。普通にマンガとかアニメとかゲームとかやってる方が健全でしょう(笑)。
 

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先輩は 河合塾新宿校に通っていました。外観は劣っていますが、河合塾の授業内容は結構充実していました。どこの校舎もそうだと思いますが [続きを読む]

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