『プロレスのために日本テレビを辞めた男』 若林健治 (文苑堂)
クラスのお変人娘が日芸の放送の一次が通ったということで、二次の指導をしています。寸前までメールにて指導。実は私の一番得意とする受験指導分野です。勝ちに行きます。自分の果たせなかった夢を教え子にリベンジさせてるって感じですな。
それと並行して、ここ数日寝る前に読んでいたこの本を読了しました。けっこう使えるフレーズがありまして、そのタイミングの良さに感謝。
それと同時に、なんか80〜90年代初期プロレスの懐かしさと愛おしさに涙が出てきてしまいましたねえ。若林さん、熱いわ。私もそうとうのプロレス好きですけれど、とてもかないませんね。
まあ内容はですね、タイトルの通り、若林アナの人生を賭してのプロレス愛と、彼ならではの、往年の名レスラーたちのエピソード集といった感じ。活字はデカいし、正直構成も何もあったようなものではないし、誤植も多々あり、本としてはなんだかイマイチなレベルです。それは、なんというか、あの若林さんの計算され尽くした、しかし激情のこもった実況とはずいぶんとかけ離れた感じを与えるものでしたが、まあ、それが逆に素の若林さんの、もうプロレスが好きで好きでたまらなくて、あの話もあの話も、とにかく話したくてしかたない、そういう感じを伝えているとも言えますかね。とにかく、あっちっちです。
実際、そんな雑駁なトークの中に、貴重なエピソードや裏話、そして、現在のプロレス界や放送界(特にアナウンサー)への核心を突いた苦言がちりばめられ、けっこうお腹いっぱいになりましたよ。ホント、決して高級レストランではないけれど、なんというかアジアン食堂でたらふく喰った感じです。
奇しくも日本テレビのノア中継が終わるというようなウワサがささやかれる昨今であります。テレビはプロレスへの恩を忘れてしまったのでしょうか。経営的にも、単純な市場経済の原理に呑まれてしまうのでしょうか。そういう世界には、義理や人情、物語は必要ないのでしょうね。さびしい世の中です。
特に強く心に残ったのは、まあ馬場さんは別格として、天龍の渋さ、深さかなあ。ホント鶴田と対照的ですなあ。いつも書いてるように。私はそんな二人のコントラストが好きなんですけどね。
あと、やっぱり巻末の名実況集。これはホント涙なしでは読めませんよ。素晴らしい、生きた言葉たちです。言葉は人生を背負う。プロレスは人生を背負う。
煽りVなんていりませんよ。あんな作り物。生きた言葉がほしい。もちろん、実況もそうです。以前はプロレス中継こそが、若手アナを育てる絶好の場でした。つまり言葉でドラマを作ることを学べる場だったんです。今、名アナウンサーとなった方々の多くは、プロレス中継出身です。最も人間臭く、胡散臭く、物語性があるのが、プロレスという空間です。そんなところで、最も心に残る言葉を残したのが、若林さんでしょうね。徳光さんや倉持さん福澤さんも、そして古舘さんも、それぞれ味があり、私は好きでしたが、やはり、若林さんの思い入れたっぷりの浪花節、これは私の脳裏にしっかり染みついています。演歌だよなあ。プロレス節だよ人生は…っていう感じ。
で、今回改めて思ったのは、たとえば五七調、大和言葉と漢語の絶妙な配分など、結局伝統的な言葉遣い、文学の系譜そのものだなということです。やはり、放送の世界も文学に帰らなければダメでしょう。金勘定だけではだめです。そう、勘定ではなく感情、市場ではなく私情、金銭ではなく琴線…って誰かのパクリですけど(笑)。
あとがきにあった、「プロレスは『何度でも立ち上がれる格闘技』」という言葉、本当に至言です。玉言です。私も「人を倒すところ」ではなく、「人が立ち上がる」ところを観たいのです。だから、何度も言うように総合格闘技よりもプロレスなのです。
来週11日、家族で後楽園ホールの健介オフィス興行を観戦に行きます。若林さん、今年は実況しないのかな。ノアが絡むから難しいかな。いつかぜひお会いして、プロレス愛の言霊を浴びたいですねえ…。
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コメント
やはり倉持&若林でやっていたころの全日本プロレス中継が一番よかったです。あるところで、あまりにも馬場さんに傾倒しすぎて日テレ上層部からにらまれた、なんていう話を読んだことがあります。
そういえば、最近、輪島がNHK相撲中継で復活して話題になっていますね。プロレスラー輪島も、そろそろ再評価の時が来るかもしれません。
投稿: AH | 2009.02.07 01:01
AHさん、おはようございます!
そうですよね〜、私も倉持&若林時代の大ファンです。
日テレ上層部ににらまれて左遷された話は、この本にも書いてあります。
ま、それで結局フリーになっちゃったと。
すごい「プロレス愛」「馬場愛」ですよ。
馬場さんって、そういう魅力があったんでしょうね。
そうそう、輪島もなんだかんだ言って天龍を輝かせましたし、
強い弱いではなく、存在感がありました。
けっこう頑張り屋だったみたいですし。
投稿: 蘊恥庵庵主 | 2009.02.07 07:03
相撲解説見ましたが、輪島はサポート役の筈のデーモン閣下を逆にうまく立てつつ、なかなかいい味を出してました。相撲界だけの解説の方とは、やはり一味違うようです。
話は変わりますが、プロレスから巣立ったアナウンサー、古館伊知郎は一体あの経験をどこに置き忘れてしまったのでしょう。顔つきまで(メイク?)変わってきてしまいましたね。
投稿: 貧乏伯爵 | 2009.02.07 09:22
若林アナ、他にも、大仁田との絡みとか色々あるようですね。
天龍が元横綱に対して本気を出したことは、当時衝撃だったみたいですね。プロレスのすごさを見せ付けたといおうか。輪島は、北尾などと比較されて、まじめさ、熱心さは再評価されているようです。相撲時代は天才肌であまり稽古しないイメージがあったようにも思えますが。
大相撲中継で、輪島の「伝説」についてずいぶんいじられていましたね。パーマかけて土俵に上がったとか、ランニングをしたとか。真相が初めて語られた。最近NHKが元気といいますが、あれを見ているとなるほど波に乗っているなという感じがしました。
投稿: ah | 2009.02.07 11:08
伯爵さま、AHさま、どうもです。
なんだかこのメンバーがこういう記事に集うのも面白いですね(笑)。
私、最近相撲観てないんですよ。
輪島さんの解説も聞き逃しました。
来場所は録画してでもゼッタイ観ようっと!
大相撲もあの頃は華がありました。
その頃の横綱が、今の大相撲をどう観るのか。
非常に興味があります。
NHKもやりますね!
投稿: 蘊恥庵庵主 | 2009.02.07 15:07
改めて思うのですが、いいプロレスアナは、名選手によって育てられた。日テレなら馬場さん、テレ朝なら猪木。こういう人たちが去ったあとのプロレスアナにはろくなのがいません。ノアの中継している日テレアナは、昔の人達に比べると聞くに堪えない。解説の高山に怒鳴られたり。。。プロレス中継の視聴率が下がったのは、プロレスそのものの人気もあるかもしれませんが、局とアナウンサーの責任も大きいと思います。プロレスへの愛がないアナウンサーは中継やるな!
そういえば、先日輪島の解説のときの中継やっていたアナウンサーは、相撲オタクで、相撲が好きで好きでたまらないようです。やはり好きな人が中継や解説やると聞いているほうも楽しくなります。
投稿: AH | 2009.02.07 22:39
AHさん、全く同感です!
なんでもそうですね。
愛ですよ。
愛がある人の実況と、愛がある人の解説と,愛があるお客さん、そして、もちろんパフォーマーもですね。
音楽でも全く一緒だと思います。
感動とは愛の共有なのです!
投稿: 蘊恥庵庵主 | 2009.02.08 07:38