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2009.02.27

『演歌歌手・ジェロ“母ちゃん”と目指した夢舞台』 (NHKプレミアム10)

20090219_06_000 歌はソウルであり、ブルースである…あらためてそんなことを思いました。
 カミさんの影響で、最近ようやく演歌の聴き方が分かったような私が、偉そうなことは言えないと思いますけれど、なんと言いますかね、やはり、歌はまず、苦悩、苦難を乗り越えるためにある、乗り越えたところにあると。
 以前紹介した『演歌の逆襲~ヒット連発の秘密~』で都倉俊一さんが高く評価していたジェロ。彼の「歌」の原点、つまり苦悩や苦難を紹介したドキュメンタリー。NHKらしい丁寧なつくりで引き込まれました。
 その苦悩や苦難というのは、もちろんジェロ自身にもあります。それはすぐに想像できますね。しかし、その部分はあえて「夢」の実現という形で表現されていたと感じました。そして、その「夢」の源は三人の「母ちゃん」、つまり、ジェロにとっての母ちゃん晴美さんと、晴美さんにとっての母ちゃん(ジェロのおばあちゃん)多喜子さん、そして多喜子さんのお母ちゃんです。番組紹介では親子三代というように紹介されていましたが、正確には、これは親子四代の苦難の物語だと思いました。
 特に、ジェロの母晴美さんが初めて明かした日本での苦労、悲しみは、涙なしでは聞けない物語でした。それを愛する息子が、時を超えて「晴れ舞台」という曲で美しく昇華しているのでした。やはり、歌には物語が必要なのです。そして、その物語とは、苦難を乗り越えたのちの夢の実現であり、家族をはじめとする愛しい人々との紐帯であるのでした。
 安易に「感動した」などとは言いたくないのですが、晴美さんがその苦悩をずっと語らなかったということに、心動かされました。そうして辛抱して、我慢して、何かを信じて前向きに生きる。ある意味たくましい古き良き日本人の姿を見たような気がしました。その無言の心を、愛する息子がしっかり感じ取り、日本で演歌歌手としてデビューし、紅白歌合戦に出場するという夢を実現する…素晴らしい物語です。
 今、日本は辛い時期にあります。単純な勝ち負け、残酷な市場経済の世界で、人はカネ以外にもっと大切な何かがあるのではないか、と再び感じ始めています。そういう中で、再び演歌が注目されているのでしょう。
 最近勉強しなおしているプロレスという昭和の文化もそうなんです。倒されても倒されても何度でも立ち上がる姿、折れない心。プロレスもまた、復活の兆しを見せています。
 文化や芸術というものは、その根底に、こうした人間の力が必要なのです。人間の心の力は、苦しい時に最も強く発揮されます。だからといって、苦悩や不幸を招来するのは憚られますけれど、ある意味満たされすぎていた現代、少なくとも現状に満足し、自己中心的でなく、刹那的でなく、未来に希望を持って生きていきたいですね。
 世は無常です。しかし、無常というのは、決してマイナスの言葉ではありません。良い方に変化していくことをも含めた言葉です。無常を観ずるのが「もののあはれ」。いつも言うように、「もの」という言葉自身が「無常・不随意・自己の外部」を表します。「あはれ」は「ああ!」です。「哀れ」でもあり「天晴れ」でもあります。そして、歌の心は、今も昔も「もののあはれ」。良い意味にも悪い意味にも、自分の思いどおりにならないことこそ、世の常であり、真理です。
 ジェロは、こんな時代だからこそ、こんな日本だからこそ、ある意味本当の日本人として「もののあはれ」を唄っています。彼の精神性やライフスタイルは正直アメリカ的であるでしょう。それは当然です。しかし、ステージに上がって演歌を唄う彼の心には、たしかに私たち日本人の遺伝子が息づいています。
 
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コメント

薀恥庵御亭主様の今日の御文章
素晴らしい・・・
「名文」です。何度も読返しました。
素晴らしい番組は何度でも放映すべきです。
一日何回でも放映すべきですね。
NHK様への要望です。笑

投稿: 合唱おじさん | 2009.02.28 10:25

合唱おじさん様、おはようございます。
いやいや、本当に番組が素晴らしかったのです。
紅白での母ちゃんの涙は、人生の素晴らしさそのものでした。
「もののあはれ」とは、時の力、愛の力だと痛感しました。
奈良時代から、あるいはそれ以前から、「歌」はそのためにあるんですね。
ジェロと母ちゃんたちに大切なことを教わりました。

投稿: 蘊恥庵庵主 | 2009.03.01 07:21

初めまして、「晴れ舞台」の作詞、作曲は中村中というシンガーソングライターです。
一昨年の紅白では「友達の詩」で出場しましたが、他にもたくさんのいい曲があります。

YouTubeで聴いてみて下さい、愚痴とか裸電球がおすすめです。

投稿: Kyo | 2009.03.15 14:38

Kyoさん、コメントありがとうございました。
中村中さんの曲、何曲か聴いたことがありますよ。
非常に才能のある方だと思います。
「裸電球」、特に好きです。
繊細な歌詞と、ちょっと字余り的な独特なメロディーは新鮮です。
ノスタルジックなのに新しいですね。
「晴れ舞台」も、微妙にブルーノートを使ったりして、
ジェロらしさを出していますね。
今後の活躍にも期待しましょう。

投稿: 蘊恥庵庵主 | 2009.03.16 06:32

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